「やぁ凪くん、お待たせ」
「ヒロさん……!」
怜のバーの前で待ち合わせた凪と広樹。一緒に中へ入って行った。
「いらっしゃい、2人で来たのか」と怜。
「ああ、1人よりも2人の方が……何となくいいかなと」と広樹が言う。
隣で凪は広樹をじっと見ている。
今日もヒロさんは格好いいな……いつも違う服装で違うジャンルの服も着ていて、しかも全部似合っていて……すごい……それに比べてヒロさんの隣に立っている僕は……いつも似たような格好だな……
「凪くん、あのシャツ着てくれたか?」
「ああ……何だか勿体なくて……」
「ハハ……そうか。初めてああいうブランドを着ると思うと緊張するよな、俺もそうだった」
「嘘……ヒロさんでも緊張するの?」
「誰だって最初はそうさ。小さい頃からそういった服を着てきた人間は別だがな」
「じゃあ……最初に着る時は……ヒロさんと……休日に会う時がいいです……」と凪が言う。
この季節、昼間の方がペールブルーが映えそうな気がしたからだ。
「昼間……いいのか? せっかくの休日だろ? 俺と会うって……」
「だ……だめですか……忙しいですか……?」
凪が広樹の目を見つめる。そこまで見られると……
「わかったよ。適当にどこかに行くか」
「あのできれば……また僕に服を選んでいただけないでしょうか」
「え? 俺でいいのか?」
「僕も……ヒロさんみたいに自分に似合うものが着たいんです……ヒロさんの扱っているブランドじゃなくて申し訳ないのですが……もう少しリーズナブルなところで……」
「そうか、服を買おうとしてくれているのが嬉しいよ。じゃあ……あそこのモールにでも行くか」
「あ……ありがとうございます!」凪がふわっと優しい笑顔になった。
その笑顔……その笑顔がいいんだよ……出かけるとなったら、笑ってくれる回数も増えるのか? 俺の心臓……持つかな……と広樹は思いながら、日程を決めている。
「ヒロ、凪くんに慕われているな」と怜が言う。
「ハハ……こんなに洋服に興味を持ってくれて嬉しいよ。それに……君と出かけることができるなんてな」
広樹が凪を見てニッと笑う。
ヒロさんが……こっち見て笑ってくれた……! 格好いい……うわぁ……どうしよう……一緒に出かけることにもなったし……緊張する……けど楽しみだな……
「いらっしゃいませ」という声とともに、翔と拓海が現れた。
「お、凪が来てる。ヒロさんも」と拓海が気づく。
拓海が凪の隣に座った。
広樹が怜と話している間に凪が拓海に言う。
「今度、ヒロさんとデートするんだ」
「ええっ? 凪……デートって……お前もうそこまでいったのか?」拓海が小声で話す。
「僕はデートのつもりだけど、ヒロさんがどう思ってるのかはわからなくて……服を選んでもらうようお願いした」
「……積極的だな」
「拓海だって……翔くんと進んでるの?」
「え? ああ……いつも通りというか……変わらないというか……」
「もう付き合っちゃいなよ」
「おい、そんな簡単な話じゃないんだって……」
そう言いながらも拓海の顔が何となく赤く染まっている。
「ふーん……好きは好きなんだ」
「え……いや……俺はただ……翔と一緒にいれたらいいだけだよ」
その会話が聞こえたのか、翔が言う。
「僕も拓海と一緒にいれたらそれでいいけど」
「翔……それって……」
「ということで、これからもよろしく!」と翔が拓海の肩を抱く。
「おい……」それでも拓海は嬉しかったのか翔に笑顔を見せた。
「いらっしゃいませ」という声とともに日向が現れた。
「あ、みんな来てる!」トコトコと歩いてきてカウンター席につく。
そして話の流れで、凪が広樹に服を選んでもらうために休日に出かけるということを聞いた日向。
「そうなんだ……いいなぁヒロさんお洒落だから……僕も行きたいな……」
怜がハッと気づく。そうだ、ひなは鈍感だった(そこが可愛いのだが)。様子を見る限り、広樹と凪くんの2人で行きたいに違いない……怜は思わず、
「ひな、その日は俺と映画に行くって言ってなかったか?」と言った。
「怜さん……何の映画?」
おい、まだ気づかないか……映画……思いつかない……と怜が焦っていると、広樹がある映画の話をしてくれた。
「あれは面白かったぞ」
「そ……それだ。ひな、一緒に行こう」と怜が言う。
「うん! 行く!」と日向が言ってくれたのでホッとする怜であった。
その様子を見ていた拓海。何だか羨ましい……2人で出かけるって……翔とはいつも大学で会うし、休みの日にわざわざ2人だけということもない。
ん? やっぱり俺……翔とどうなりたいんだ……?
「おっと拓海……僕達も出かける?」と翔に言われる。
「え? どこに?」
「……拓海はどこ行きたいの?」
「……翔はどこに行きたいんだ?」
「……」
「……」
「また考えるか」
「そうだな」
※※※
家に帰った日向と怜。
「怜さん……急に映画だなんて、意外だね」と日向が言う。
まだ気づいていないのか……ただひなはすぐ喋ってしまいそうだから言わない方がいいしな……と怜は考えて、
「……暗いところでひなと手を繋ぎたいから」と言ってみた。
日向の頬が赤く染まっていく。そういえば初めて外で手を繋いだのは、映画館だった。恥ずかしかったので暗い場所なら大丈夫だと思って怜の手を握ったのだった。あの時、ドキドキしていたことを思い出した日向は怜に、
「僕も……映画館で手を繋いでくれるの好き」と言った。
「そうだひな、もうすぐ誕生日だろう? これ、プレゼントだ」怜が紙袋を持って来た。
「わぁ……これって……」
広樹の扱うブランドのジャケットとシャツのセット。広樹に相談してファミリーセールの招待券をもらって昼間に行ってきたのだった。
「怜さん……僕このブランド憧れていたんだ、嬉しいよ……ありがとう」
日向が思い出す。
去年20歳になってすぐに怜さんのバーに行ったんだっけ……結局自分はお酒が飲めない体質だったから、怜さんは僕のためにノンアルコールの飲み物を準備してくれた。そして僕が辛く悲しい思いをした時には、バーの2階に連れて行ってくれて側にいてくれた。一緒に住むようになってからもいつも怜さんは……僕のことを考えてくれる。そして夜はたくさん甘えさせてもらって……
あれからもうすぐ1年になるんだ……
「うぅっ……」
「ひな? どうした?」
「色々思い出してた……1年経つんだね。怜さんのバーに行って……怜さんと一緒に過ごして……僕……幸せだよ……こんなに幸せになれるなんて思ってなかった……怜さん……ありがとう……」
日向が涙を流している。そんな日向を怜が優しく抱き寄せた。
「ひな、こちらこそありがとな。俺のところに来てくれて」
「怜さん……怜さん……大好き」
「俺も大好きだよ」
「僕……今日は嬉しくて……寝られないかも」
「俺も……ひなが愛しくて……寝かせられないかも」
2人はお互いのキスを味わいながら、甘くて温かい夜を過ごしていた。