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第52話 本当はどう思ってる?

「拓海はさ……僕のことどう思ってる?」



 翔に言われたこの言葉。

 俺は何と答えたらいいのか……

 親友として俺がずっと憧れていた翔。いつしか翔のことが気になってきて……この流れでそのまま……自分の気持ちを伝えるべきなのか……?


 拓海が迷っていると翔が話す。

「僕が……ひなくんのことを好きになった時……引いた?」

「えっ?」

「拓海はいつだって僕の味方でいてくれる。だけど……正直に言ってほしいんだ……本当はどう思ってる……?」

「翔……」

 もしかして同性愛のことを気にしているのか? そうだとしたら……


「翔、そんなことで引くわけないだろう? まぁ最初は驚いたけどさ。今時好きになるのに……男も女も関係ないって言うし」

「拓海……」

「前に彼女が途切れなかった頃に比べたら……日向くん一筋だった翔は、それだけ真剣だったんだなって思ったよ。自分の気持ちを伝えることって勇気がいると思う。だから、翔はすごいよ」


 拓海……お前はいつもそう。いつだって僕の一番近くにいてくれた。いつだって僕を励ましてくれた。何よりも……拓海がいて心強かった。どんな僕でも……受けとめてくれる……


「翔? 気にしていたのか? その……同性愛っていうの……」

「実は……前に葉月に言われたんだ。ひなくんや凪くん達のことを『変わった人たち』とか『おかしい』とか……」

「え……そうだったのか」

「もちろん彼女には言った。そんな言い方は良くないって……好きになるのに……男も女も関係ないって……」

「翔……」


「気づいたらさ、拓海のこと思い浮かべてて……あの時、ヒロさん達に今日一緒に連れて行ってもらえるように……頼んだんだ」


 翔が……葉月にそんなことを言われていたなんて……なのに自分の考えを葉月にきちんと伝えたんだ……


 拓海は翔を抱き寄せた。

「翔……辛かったんだな。そんなこと言われたら……俺なら傷ついてしまって何も言えない。あの葉月ちゃんにそう言える翔は……やっぱりすごいよ……」 

「拓海……僕はこれまで女子に何言われても割と平気だったのに……葉月に言われたことは耐えられなかった……」

「分かるよ……頑張ったな……」


 拓海が翔の背中をポンポンとしている。

 ふと翔が気づいたように言う。

「拓海……お前も……同性を……?」

「……今はっきりとわかったよ。俺も彼女がいたことはあるけど……同性も好きになることがあるんだって……」

「え……」

「まだ分からないのか? 俺は……」


 その時、翔が拓海の背中に手を回した。

「この僕が……気づかないわけないだろう? 拓海……バーでお前が隣にいなかった時、寂しかったんだから」


「おい、俺にも言わせろよ。お前が日向くんに夢中になっていた時から、ずっと……ずっと……モヤモヤしてたんだよ……だけど、親友だったらずっと一緒にいれるんじゃないかって思って……俺だって、お前への気持ちを認めるのに……躊躇してたんだ……葉月ちゃんと似たようなものだな」


「違う……拓海は拓海だって。僕の方こそ……一番近くにいたお前のこと……そのままにしてたんだから。拓海のこと、大事に思ってたのに」


「翔……」

「拓海……」


 抱き合いながらお互いを見つめる2人。

「親友じゃなくなってしまうね……僕達」

「お前が望んだことだろう? 翔……」

「拓海だってそうじゃないか……」

「まぁ……そうだな」


「たっくんって呼ぼうか?」

「えっ……いや、お前ほど切り替え早くないし……いきなりそういうのも……」

「じゃあどういうのがいい?」

「どうって……」


 翔の顔が近い……そのまま俺達は自然と唇を重ねた。

 翔は慣れているのかもしれないが……俺にとってここまで温かくて、だけど情熱的なキスは初めてだった。ずっと一緒にいた翔とこんなことになるなんて……だけどもっと……こうしていたい……



※※※



 その日の晩、拓海は翔の家で過ごした。

 これまでの思い出話もしつつ、2人で様々なことを喋った。

「あの時の翔は……正直酷かったな」

「え、そんなこと思ってたのか?」

「ま、仕方ないといえば仕方ないか。どんな翔でも俺は味方になるって言ってたし」

「たっくん……優しいね」

「その呼び方、慣れないから無理」

「ハハ……そっか。じゃあ拓海」

「ん?」


「僕の気持ち……受け取ってくれる?」

「んっ……」

 翔に唇を塞がれる拓海。そうだ……翔は……好きになったら一直線の人だった……

「翔……日向くんにもこんなことしてた?」と拓海が言う。

「……妬いてるの? フフ……ひなくんとは……そこまでは」

「そうか……」

「今ホッとしたね、たっくん」

「だからその呼び方やめろって……」

「そうか、拓海……」

 そう言われながら翔に何度も口付けされてしまう。そして、初めてここまでのことをされた拓海は頬を赤らめ、それに応えるように身を委ねた。


「拓海ってさぁ……前もそうだったけど、格好いいこと言うよね」

「そうか? 翔の方が格好いいと思うけど」

「いや、拓海の方が……」

「翔だって……」

「ハハ……」

 翔が本当に嬉しそうで、拓海も満たされた気持ちになるのだった。



 日付が変わって日曜日。

 昨晩、あんなことやこんなことがあったので……2人が起きたのは昼前であった。

「おはよ、たくみん」

「……呼び方変わってるし」

「いいね、あだ名のバリエーション多くて」

「翔が勝手に言ってるだけだし」

「たーくん、お腹空いた?」

「いくつ呼び方あるんだよ……外では恥ずかしいから言わないでくれよ?」

「……じゃあ家ではいいんだ」

「え……」

「フフ……拓海……期待してたね?」

「違うって……もう……」



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