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第57話 ふたりの関係は……?

 あれから日向は空いた時間に簡単な料理の練習をしつつ、大学や就活の準備も進めてきた。

 週末に疲れてしまうことも多かったが少しずつ慣れてきて、日向は頑張っているな……と思う怜であった。その姿は怜にとっても励みになる。


 そして夏になり怜の入院の日となった。土曜日である。怜と日向、翔は入院病棟に到着した。

「息子です」と怜が翔のことを看護師に伝える。

「そちらも……息子さんですか?」と看護師が日向の方を見て言う。

「……家族です」と怜。

 こういう時は大体が夫や妻といった配偶者が付き添うが……日向の場合は何になるのだろうか。


「ご家族……? 親戚の方ですか?」

 最近は病棟内での面会制限もあり、看護師にその関係を確認されてしまう。

 日向は怜のすぐ隣にいるのに、自分と怜の関係が言えずにいた。

「あ、あの……彼は……父さんの1番近くにいてくれる人で……」と翔が説明しようとする。

 だがそれを聞いた怜はすぐに看護師に言った。



「彼は、自分の配偶者みたいなものです」



 看護師は一瞬動きが止まったが、

「そうでしたか、ではこちらへ」と言って病室まで案内された。

 日向の顔が赤く染まっている。

 配偶者……僕が怜さんの配偶者……

「ひなくん、病室ついたよ。大丈夫?」

 翔に言われるまで部屋に着いたことにも気づかなかった日向であった。


 荷物を整理した後、

「父さん、また来るから」と言った翔は気を利かせたのか、先に部屋から出た。

 日向は先ほど怜に配偶者と言われたことが、まだ頭の中でグルグルと回っている。

「怜さん……僕……配偶者みたいなものって……」

「実際そうだろう? 俺にとってはひなはそういう存在なんだから。つい言ってしまったが……変だったか?」

「ううん、ちょっと心の準備ができてなくて……そういえば凪くんにも花嫁修行みたいって言われたんだった」

「そうだったのか。本当に……そんな感じがしたよ。俺のためにひなが料理とか家事を一緒にしてくれたからな」

「だからその……怜さんに配偶者みたいなものって言われて……嬉しい」


 日向が怜の胸に飛び込んだ。

「怜さんが元気になりますように……僕も頑張るから」

「ありがとう……ひな」

 日向が部屋を出ると翔が待っていてくれた。


「父さんと話できた?」

「うん、ありがとう翔くん」

「ひなくん、どのぐらい面会行くの?」

「4回か5回ぐらいは行きたい……けど、怜さんはそこまで来なくてもいいって言ってくれている」

「治療中はしんどいかもしれないしな。もし日にちが合えば一緒に行こうよ」

「うん!」


「ひなくん、もし良かったら……今からうち来る?」翔に誘われる。

「えっ……」と日向が警戒していたが、

「拓海も一緒だから」と言われ、

「じゃあ……お邪魔させてもらおうかな」と言った。


 翔の家に着いた。

「お疲れさん、日向くんも一緒だったんだ」と拓海が言う。

「ひなくん、父さんの『配偶者』みたいなものだからね」と翔。

「はっ……配偶者?」案の定、拓海が驚いている。

「看護師さんに関係を聞かれて……怜さんが言ってくれたんだ……」日向が照れている。

「そういうことを聞かれるのか……怜さんやるなぁ。けど一緒に住んでいれば配偶者になるよな」


「は……配偶者かぁ……」日向がまだ余韻に浸っている。

「フフ……ひなくん、ゲームする?」翔がそう言ってゲーム機を出していた。

「あ! いいなぁやりたい……」


 この日は半日ぐらい翔と拓海と過ごし、日向は家に帰って来た。

 怜のいない部屋。1人だととても広く感じる。

「怜さん……」

 寂しさもあるが、自分は自分でやることもある。日向は気持ちを切り替えて掃除機をかけていた。


 夕方に怜からメールが届き、病院での夕食の写真が添付されていた。あまり美味しいとは言えないらしい。

「怜さん、晩ごはん食べたんだ、僕の作ったうどんが恋しいって……フフ」


 そして夜になり、ベッドの隣に怜がいないことに今更ながら気づく。しっかりしなきゃと思ってはいたが……心細かったのか日向は怜の枕を抱いて眠っていた。

「怜さん……」



※※※



 日向は大学が早く終わる日に怜の病院へ面会に行った。

「ひな……」

「怜さん……!」

 入院から大して日が経っていないに、感動の再会のようである。

「体調どう?」

「まぁまぁかな……ただ、運動不足になりそうだ」

「そうなんだ、あんまり動けないもんね」


「もうすぐ夏休みか?」

「うん……また怜さんのバーでバイトしてもいい?」

「助かるよ……就活は秋からだったか」

「うん。準備はしているから、バイトはできると思う」

「そうか……」


 怜さんと話せるのは嬉しいけど……帰る時間も迫ってきている。もっと側にいたいのに。だけど、怜さんも頑張っているのだから自分も頑張らなきゃ。


「そうだ、翔くんと拓海くんとゲームしたんだよ」

「ゲームか、面白そうだな」

「翔くんがすごく強くてね、僕全然うまくないんだ……ハハ」

「翔……ゲームばかりやってないか心配だが……」



 そして別の日、今度は翔と日向が面会に来た。

「父さん、順調?」

「そこそこ順調だ」

「良かった。あのさ……」

 翔が怜と話している。日向も話に入りながら3人でお喋りを楽しんだ。


「翔、お前ゲームばかりしていないだろうな?」

「え? あ……大丈夫大丈夫! 就活も始まるし、控えていまーす♪」

 本当は拓海が来る時には大体ゲームで遊んでいるが、それは言えないようだ。


 そして翔が先に帰り、日向と怜の2人となった。

「ひな……寂しくないか?」

「え……」

 めちゃくちゃ寂しいですと言いたかったが、怜に心配をかけたくない。

「寂しくなる時もあるけど、怜さんも頑張ってるって思えば頑張れるよ。怜さんこそ……僕がいなくて寂しい?」

「そうだな……この日、ひなに会えると思うと嬉しくなるな。治療でそれどころじゃない時もあるが」

「そうなんだ……じゃあ退院したら何したい?」

「何だろうな……美味いもの食べたい。けれどしばらく食事は制限されるかも」


「そっか……僕も怜さんが元気になったら美味しいもの食べに行きたい」

「フフ……ひな……」

 怜が日向を抱き寄せていた。

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