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第61話 クリスマスシーズンがやって来る

 日向の就活中に、怜も準備を進めていることがあった。それは……


「ランチ営業?」

 ソファに座っていた日向が驚く。

「前から考えていたんだ。昼の時間帯に働きたい人もいてな。夜を早めに切り上げてランチ営業をしようかと」

「そうなんだ……お客さん増えそうだね♪ じゃあ怜さんは、昼も夜も働くってこと……?」

「いや、夜も少し出るかもしれないが……昼間になると思う。入院したこともあったし、不規則な働き方は控えた方がいいかと思って。あとは……」

「あとは?」


「ひなが社会人になったら……これからのことも考えたら、昼間働いた方が一緒にいる時間が取りやすいだろう?」

「え……僕のことも考えてくれたの……?」

「当たり前だ、ひなも俺も元気で健康に過ごせるのが一番だから」

「怜さん……ありがとう」

「礼をいうのはお前の父さんかもしれないな……」

「えっ……あの父さん?」


 母親の再婚相手で大手企業の社長でもある父親。義理の父で日向との相性は良くなく辛いことの方が多かったが、金銭面ではかなり助けられた。


「お前の生活費としていただいたお金が結構余ってて……貯金してもまだあるんだ」

 さすが社長といったところだろうか。生活水準が違うようだ。

「その資金も少し使わせていただこうかと。もちろん事前にご了承いただいた。ひなと一緒に住む者として、働き方を変えた方が良いなら構わないと言ってくれて」

「父さんが……」

「お前のことを考えてくれていると思うよ」

「うん……」


 怜のバー「ルパン」は黒基調のバーであったが今の良い雰囲気を残しつつ、店全体が昼間は明るくなるように照明等で工夫した。お洒落なランチプレートを提供するらしい。

「ある程度決まったが、健康を意識して日替わりで惣菜もつける。野菜多めで……俺が食べたくなるようなメニューになってしまいそうだ」

「いいね、僕も食べたいな……健康定食」

「ひな、健康定食って言い方……ランチプレートだから」

「あ、そっか。あのお店の雰囲気にはプレートっていう言い方が合うもんね」


「俺もひなに負けないように頑張らないとな」

「楽しみにしてるね、怜さん」



※※※



 12月に入り毎年恒例のクリスマス限定メニューのカクテルが提供されている。

 翔、拓海、凪は初めてだったのでサンタやトナカイをイメージした色のカクテルを楽しんでいた。

「それで、ひなくんは抹茶オレなんだ」と翔が言う。

 怜が考えたツリーの飾り付きの抹茶オレが日向のお気に入りである。

「この抹茶は……なんと! 世界一美味しいんだよ♪」

「世界レベルの抹茶……気になる」と凪が本気にしているので、

「ひなくんにとっては世界一なんだって。父さんが作ったから」と翔に言われる。


「……そういうのいいね、ほっこりした。最近慌ただしかったから」と凪。

「だな、俺も疲れた」と拓海。

「ねぇたっくん、クリスマスどこ行く?」と翔に言われ、

「おい、その呼び方わざわざここでしないでくれよ……というか、どこかに行く設定なのか?」と拓海が尋ねる。

「……あ、そうかたっくん僕の家が好きだもんね♪」

「え? もう何処でもいいからさ……」


 親友だった翔と拓海。もともと拓海の片想いから始まったのに、今では翔がかなり拓海に絡んでくるようだ。嬉しいけれど……外ではやっぱり恥ずかしい。いや、翔の家にいる時も拓海は翔に見惚れてしまい、そんな自分が恥ずかしくなる。

 幸せといえば幸せだが……こういうのって慣れるのか?


「拓海、大丈夫。慣れるから」

 凪が拓海の心を読んだのか、そう言ってくれた。

「そういう凪はクリスマスはヒロさんと過ごすのか?」

「うーん……向こうも仕事があるみたいだからどこかで会うとは思うけど、まだ決めていないかな」

「ヒロさん忙しそうだもんな」


 それを聞いた日向が凪に言う。

「去年怜さんと、あそこのイルミネーション見に行ったんだ♪ すごく良かったよ」

「そうなんだ、じゃあ行ってみようかな」

「人が多いから、こっそり腕組んでも目立たないよ」

「日向くん、僕そこは気にしないから」


 そうだ……付き合い始めた頃から凪は広樹と腕を組んで堂々としていた。


 凪くんのそういうところがいいんだよな……マイペースを崩さないところ。僕は今では慣れたけど最初の頃はドキドキしてたからな……いや、今だっていつだって怜さんといたらドキドキしちゃう……


「ひな、何考えてたんだ? フフ……」と怜に言われ、また日向が顔を赤らめる。

 最初から可愛いとは思っていたが、今でもいつでも可愛いな……と思いながら日向を見ている怜であった。



※※※



 そして凪は広樹を誘い、クリスマスのイルミネーションを見に行った。きっとお洒落な広樹であればこういった場所は行ったことがあるだろうな、と思っていた凪。

 しかし意外なことに広樹も実際に見に行くのは初めてだった。2人は腕を組んで歩いている。


「ヒロさんはこのイルミネーションが似合うのに……初めてだったんだ」

「そうか? 聞いたことはあってもわざわざここまで来ることはなかったからな。凪から誘われるなんて、嬉しくて飛び上がってしまったぞ」

「え……」

「こんなおじさんが……って思ったか?」

「……いや、そんなに喜んでくれるなんて僕も嬉しい」


 初めて会った時から……ヒロさんは自分とは別次元のセンスを持った、カッコいい人だと思っていたから……こんな場所なんて慣れていると思っていた。


「もっとヒロさんのこと、知りたくなってきた……」

「フフ……俺だって凪のこといくらでも知りたいよ」


 最初は綺麗でクールな男の子だと思っていたが、凪が自分の前で見せる笑顔は特別なもののように感じる。今日だってずっと嬉しそうで、それがまた可愛いではないか……


「このコート、気に入ってるんだ……ヒロさんに初めて選んでもらった服だから」

 そう言って笑っている凪……最高過ぎる……あのファミリーセールでそのコートやシャツを買ってくれた時から凪のことが気になったんだよな……と広樹が思い出す。


 広樹に選んでもらったチャコールグレーでスタイリッシュな形のコート。ふとショーウィンドウに映る自分達の姿を見る。このコートのおかげでヒロさんの隣にいることが出来たのかな……と考えていた凪である。


「ヒロさん……ありがとう。ヒロさんのおかげで僕は自信が持てたんだ。服の力もあるけど、一番はヒロさんがいてくれたからだと思う」

「凪、こちらこそありがとう……そんなこと言ってくれるなんて俺も幸せだな」

 2人は笑顔でイルミネーション通りを歩いて行った。



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