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第63話 美味しいランチと素敵な貴方と

 怜の店「ルパン」でランチ営業が始まった。主婦層をはじめ、様々な客との出会いがある。お洒落で健康も意識されたメニューは女性や体調が気になる者達に大人気となった。店の雰囲気にも料理にも怜のセンスが光る。

 日向は就活もあり、なかなか行くことが出来なかった。

 しかし怜からの話を聞いて、

「良かったー! ま、僕はこうなると予想していたけどね」と言っていた。


 だが、以前より女性客が増えたと聞いて少し日向は不安になる。


 ウェイターもいるけれど、怜さん目当てで来る人もいるんじゃない? いやいや、バーとは違ってそこまでお客さんと交流することはないはず……けど料理運んだりはたまにするよね……そこで、「うわぁー格好良くてセンス良くて素敵だなー♡」っていうことも十分あり得るんじゃ……


 ダメダメ、想像が変な方向にいっちゃう。ああ、こんなこと考えているって怜さんに知られたら普通に引かれそうだから言えない……そうだ、就活、就活のことを考えて……


「ひな? 夕食出来ているぞ」

「あ……! はーい」


 それでも気になったのか日向は怜の顔をじっと見る。普段と変わった様子……なし。

「どうした? ひな」

「……早く僕もランチ行きたい」

「そうか、店の雰囲気も夜とは違うからな」

「夜よりも忙しい?」

「少し忙しいかもな。一応アルコールもあるが、頼む人が少なくて夜に比べたら回転は速いかと」

 回転が速いと聞いて何となくホッとする日向。

 それならお客さんとの距離もそこまで近くならないよね……?



 ようやく時間が出来たので、日向は怜の店のランチを食べに行った。早めに来た方がいいと言われていたので、開店30分前に来たが、すでに何組か並んでおり行列が出来ていた。ほぼ女性である。


 思ったよりすごい人……と感じた日向。あんなにお洒落で美味しいプレートだからきっと賑わうとは思っていたが、実際見ると女性ばかりということもあって驚いてしまう。自分、浮いてる……?


 そして開店時にはさらに後ろにも人が並んでいた。男性1人なんていない。

 ちょっと恥ずかしいんだけど……まぁいいか。

 店内は照明の効果もあって夜とはまた違う、明るい雰囲気である。カウンター席に案内され夜と同様、そこに怜がいた。


「いらっしゃい、ひな」

 怜はバーテンダーの白シャツに黒ベストといった衣装ではなく、黒いシャツに茶色の腰下エプロン姿であった。髪型も前髪を完全には上げておらず、自然に分けている。ナチュラルで夜よりも若返っているように見える。


「か……かっこいい……」と思わず日向が言う。

「フフ……照れるな」

 そう言って笑う怜を見て日向はさらに見惚れてしまう。危うくもうお腹いっぱいです、と言うところであった。

 そういえばウェイターさんも同じような服だったけど怜さんが一番似合ってる……と日向には見えるようだ。


 チキンのプレートを注文して食べている日向。

「怜さん、美味しい♪」と言う日向のいつもの笑顔を見て、怜もホッとしている。


 新しい客も増えて「美味しい」と言ってもらえるのはもちろん有難いが、やっぱりひなが笑顔を見せてくれるのが一番嬉しいな……


 美味しくてあっという間に食べてしまった日向。もう少し居たいと思ったのでドリンクとプチデザートを付けてもらった。


「はぁ……全部美味しい……」

「それは良かった」

「外、結構並んでてびっくりしちゃった。並んで食べたいのも分かるよ」

「フフ……またいつでもご来店お待ちしているからな」



 その日の夜、怜がお風呂から上がると日向が後ろから抱きついて来た。

「今日のお店での怜さん……すごく格好良かった。バーテンダーの衣装もいいけど、あっちの方が僕は好き……」

「ひな……そんなに良かったか」

「僕、心配になっちゃうよ……あんなに格好良かったら、怜さん目当ての人いっぱい来るんじゃ……」

「ハハ……そう言ってくれるのひなだけだから」


 怜が振り返って日向にキスをした。

「心配するな、俺だって今日はひなが嬉しそうに食べてくれたことぐらいしか覚えていない」

「怜さん……」

「ひな……」



※※※



 就活の合間に翔と拓海も怜の店のランチに来てくれた。

「美味しいよ、父さん」と翔。

「こんなお洒落なランチ、初めて食べた」と拓海も言う。

「女性ばかりだね……」

「翔、ナンパしようとしてた?」

「えっ……するわけないだろう?」

「ハハ……」


 また別の日には凪と広樹も来てくれた。

「うわぁ、これどうやって作るんだろう」と惣菜が気になる凪である。

「そこは企業秘密で」と怜に言われる。

「怜も前より元気そうじゃないか」と広樹。

「早く寝るようになったからかも。無理は禁物だな」


 そして大学で日向が亜里沙にランチ営業のことを伝えたらしく、亜里沙も1人で来店した。

「ご無沙汰しています、体調はもう大丈夫ですか?」と亜里沙。

「ああ、この通り元気だよ」

「良かったです! 日向が言ってました。すごく美味しいランチだって」

「……ハードルが上がるな」

 何となく女性の方が味には厳しそう、と思った怜である。


「美味しい! こういう少しずつ色々食べられるの、いいですね。女子は喜びます♪」と亜里沙がご機嫌である。

「それは良かった」


 そういえば少し前から亜里沙の友人の景子の姿を見なくなった。

「景子は忙しくて……あたしとは違ってまだまだ勉強しているんです」

「そうなのか、偉いな」

「はい……たまにメールするぐらいでしばらくは会えないかも」

「そうか……」


 前から亜里沙は景子を尊敬していた。堂々としていて何かあればはっきりと言う性格。そして自分の相談に乗ってくれる。

 今でも忙しいのに社会人になるとさらに慌ただしくなって会えなくなりそうである。

 それも仕方ないか……きっと自分も忙しくなるだろうし……


「学生時代の友人はそんなものだよ。だが話せばいつでもその時代に戻れるし、何かのタイミングで会えるようにもなるかもな」と怜が言う。

「そうですね、あたしも就活頑張らないと」


 ご馳走様でした、と言って亜里沙が帰って行った。

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