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№4 招待状

「ん、これ!」


 期末テストも終わり、冬休みが近づいたある日。


 放課後になり、下校しようと準備をしていたハルに、影子が封筒に入ったなにかを押し付けてきた。


 手紙爆弾か?とびくびくしながら受け取ると、影子は『早く開けろ』と言わんばかりに期待に顔を輝かせる。


「……なんだよ、これ?」


 おそるおそる聞くと、影子はにひひと笑って、


「いいから!」


 そう言ってせかすので、ハルは仕方なく封を切って中身を取り出した。


 ……そこに入っていたのは、爆弾でもカミソリでもなかった。


 コピー用紙に色とりどりのマーカーでデコられた文字がでかでかと並んでいる。


「……『クリスマスパーティー招待券』……?」


 手作り感あふれるその紙切れは、どうやら招待状らしかった。


「ん! クリスマスにはパーティーやんだろ? もうそろそろじゃん!」


 きらきらした目で力説する影子にとっては、今度のクリスマスが最初のクリスマスだ。そんな青春の一大イベント、影子が見過ごすはずがなかった。


「へえ、イブに開くんだ。なにかやるの?」


 ハルが何気なく問いかけると、影子はばーん!とハルの背中を叩き、


「アンタも考えんだよ!」


「え、僕も考えるの? っていうか、参加は確定なの?」


 特にクリスマスイブに予定はないが、貴重な冬休みの一日だ。師走に入ってやることもたくさんある。


 やや不満げなハルに、影子はにやにやした顔を近づけ、脅しつけるように言った。


「アンタはすでに頭数に入ってんだよ!」


「ワタシもその招待券もらったヨ! ハル、いっしょにクリパしヨ!」


 同じ手作り招待状を手にしたミシェーラが加わり、ハルにかかる圧が限界を超えた。ホールドアップしながら、


「わかった、わかったよ、僕も参加するから」


「かっ、かげ、影子様!! わ、私に、このような、光栄なものを!!」


「おお、それ俺んところにも来たぞ」


 一ノ瀬と倫城先輩も集まってきて、いつものメンバーが勢ぞろいした。


 結局、イツメンでクリパらしい。


 招待状を送りつけた影子が、この面々でパーティーをしたいと企画したのだ。どうやら影子にとっても、このメンバーは特別らしい。


 そんな小さなことにちょっとうれしくなっているハルを前に、影子が大げさに首をひねって、


「んー、なにやろっかなー……闇鍋とか?」


「それはクリスマスイブにわざわざやることではないし君が混ざると死人が出るからやめて」


 間髪入れずにハルが拒絶すると、影子はふてくされた顔をしながら、


「ちぇ、つまんねーの!」


「やっぱりプレゼント交換は必須ヨ!」


 ミシェーラがナイスアシストを見せた。すかさずその案に乗って、


「いいね、ちょっとしたものでいいから持ち寄ろうか」


「ケーキも用意します! 影子様、お好みを教えてくださいませ♡」


「じゃあ俺は、チキンとシャンメリーでも用意するか……コンビニのでいいよな?」


 着々と話が出来上がっていく。わいわい騒ぎながら計画するパーティーに、ハルの期待はイヤでも膨らんでいった。


 今までクリスマスなんていつも通りに過ごしていたのに、今年は違う。みんなで集まって祝うのだ。


 すべては影子のおかげだった。妄想に耽ることしかできない退屈な日常を打ち破った、非日常的日常。いつも大騒ぎで疲れ果てて終わる毎日だが、なんだかんだで楽しい毎日でもあった。


 影子が現れて、ハルを取り巻く環境は一気に変わったのだ。


 いい意味でも、もちろん悪い意味でも。


 非日常的日常とは、ことのほかハードなのだ。


「それで、会場はどこにするの? 学校は冬休みでしまってるし……」


 思いついた疑問を口にしたハルの肩を、ぽんぽんと影子が叩く。イヤな予感がした。


「決まってんだろ、アンタんちだよ」


「僕の家で!?」


 ハルの家で、このドハデなメンバーが一堂に会するのだ。なにも起こらないはずがない。ハルの聖域が。親が外出することを祈るしかない。


 影子はにやにやしながら、


「なんなら、あのオッサンやクソガキも呼ぶか?」


 逆柳とザザのことを言っているらしい。混ぜるな危険の法則で、こんなカオスな面々に混ざればとんでもないことになるに違いない。


 ぶんぶか首を横に振るハルを置いて、影子はなし崩し的に宣言する。


「はい、けってーい! 12月24日、1800時、塚本宅に全員集合!」


 決まってしまった。冬休みに入ってもハルのこころが休まることはないようだ。


 究極の地雷原を自室に敷き詰められことになり、ハルは深くため息をつく。


「わー、プレゼント、なににしよっかナ!」


「ショートケーキとブッシュドノエル、どちらがお好みですか影子様!?」


「ま、一日くらいなら受験勉強休んでも大丈夫か」


 口々にクリスマスパーティーへの期待を込めながら、すっかりハルの家でパーティーが開催されることが決定してしまった。


 あれよあれよという間だった。


 ハルの意志はなにひとつ反映されていなかったが、それでもいいやという気分になってしまう。


 なにせ、みんなこんなにしあわせそうに笑っているのだから。


 ハルも釣られて笑って、早速今日の帰り道にプレゼントを買いに行こうかとこっそり考えるのだった。


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