俺は、アハトの件を気にしつつも兵士たちを招集していた。前回俺たちと共に戦ってくれた元兵士や騎士団をリーダーにして、後からやってきた兵士を管理する形で分配した。
「俺が東の仮設キャンプの方を中心に巡回してから、女神様の結界の警戒をする。他のものはチームで交代で頼む」
「「了解!」」
だが、俺は初めての事で困惑しながら仕切っていた。本当に、こいつらがしっかりやってくれるのか、フォルティナを利用しないか、裏切らないのかが気になったからだ。修道院でフォルティナの尋問をみた兵士たちは大丈夫だろうが……。
「なぜ受付を締め切ったんだ! こっちは大変な思いをしてここまでやってきたのに!」
早速、臨時で編成した自分の部隊を連れて仮設キャンプへと巡回すると、何やらもめごとが出てきた。
「受け入れたいんだけど、人が多いんだよ」
ルキウスと王都時代の同僚たちが取り締まりをしているが、人が多すぎて捌き切れない様子だ。だが、よく見るとおかしい。
「フォルティナ様は困窮した人間を助けず、見捨てるというのか!」
「それとも、最初から自分たちに都合の良い信者しか受け入れないのか!!」
二人の難民がボディーランゲージを駆使して叫ぶと、受け入れられなかった他の難民を反乱へと焚きつける。よく見ると、王都が崩壊して逃げた難民にしては服も整っていて妙に落ち着いている。
「そもそも、本当にあの女神様は奇跡を起こしたというのか?」
「魔法の術式すら知らない我々を欺くための魔法やトリックを使っていないと照明するのは不可能だ!」
まるで、演説しにやってきたような素振りで、家や居場所を失った人間の行動から離れている。どうも、こいつらの動きがどこかで見たような気がする。しかも、腰に何かを隠しているような膨らみがある。
いや、まさか!
「おい、そんな騒ぐな! そんなわけじゃない! しばらく待ってろ!」
「ルキウス! その二人組を別室へ送れ! 他国のスパイだ! 奴らの目的は、この難民キャンプで暴動を起こす事だ!」
俺が叫ぶと、スパイのうちの一人が隙をついてルキウスの同僚の一人を隠しナイフで切りつけて倒し、関所を突破しようとする。
「ちぃ……。流石、勇者だけはある」
「スパイだろうが、関係ない! ここで飢え死にしたくなければ、俺たちと立ち向かえ!」
二人のスパイが叫ぶと、彼らの周りの難民が隠し持っていた武器を手に、一斉に暴れ出した。
「くぅ!! こいつら!!」
ルキウスが悪態をつきながらも、仲間を率いて反撃を試みるも、狭くて人が密集してて苦戦した。慌てて、俺たちも加勢するが、既にスパイの一人が小さな女の子の腕を引っ張って抱きよせて人質にしてきやがった!
「動くな! 俺たちの受け入れの許可を出せ!」
こいつら、俺たちが子供に甘いところを突いて!
「ルキウス、すまん」
「へ、子供に手を出す勇者だったら、僕が叩き切ってやった」
ルキウスが軽口を叩くが、自分たちの不甲斐なさに怒りを滲ませているのか、血管が浮き出るほどに拳を握りしめている。
「お嬢ちゃん。すまないが、人質になって時間を稼いでくれ」
人質を取っているスパイが優しい口調で小さな女の子に語り掛けるが、少女は涙を浮かべて怯えている。
クソ! どうにかして彼女を助けないと! 何か方法は?
「いや、巻き込んでも良いからもう一人の方を殺せ! 今こいつが唱えている魔法は、自爆魔法だ!」
ルキウスが指を指す方へ視線を向けると、もう一人のスパイが何人かの難民を拘束魔法で拘束して、自爆魔法を唱え始めた!
「くそがああああ!!」
俺が剣を引き抜いて攻撃魔法を唱えようとしたその時――。
「こういう、汚れ仕事は私の出番ですね ジュブナイルロック」
突然、アハトの声が聞こえたかと思うと、自爆魔法を唱えようとするスパイの魔法を無効化させて切り捨てた。
「え? どこから入った?!」
俺はあっけに取られているもう一人のスパイの隙をついて蹴り飛ばし、拘束魔法をかける。そして、倒れ込んで涙を流している人質の少女の手を取って助ける。
「あ、ありがとうございます。勇者様」
少女がぎゅっとヴィクトールの手を握ってお礼を言うと、俺は笑顔で「辛かったよな、安心してくれ」と言って部下に保護させる。
人間姿のアハトが、難民キャンプで騒然とした中「皆さん、落ち着いてください。これから、女神様の結界を広げます。どうか、待って頂けませんか?」と圧をかけると静まり返った。
「私の事を信じるか信じないかはお任せしますが、これからもよろしくお願いします。ルキウス殿」
「あぁ。尺に触るが、今回のは助かった。礼を言う」
ルキウスが彼に例を言うと、アハトは「では、フォルティナ様の元へ戻ります」とスパイ二名を魔法で連行してそそくさと去っていった。
「はぁ。こんなことになるとは、情けない」
「落ち込むなよ、ルキウスが止めてなかったらアハトが来る前に消し飛んだかもしれないだろ」
ルキウスが俯いて苦悶の表情を浮かべるが、俺は彼の肩を叩いて慰める。
だが、その瞬間だった。
遠く、旧王都の方角で――空が赤く染まった。
「……嫌な予感がする」
俺たちはまだ、国造りの第一歩にも辿り着いていなかった。