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注目を浴びてキョドる僕と、ファンサが過ぎるクラスで一番の美少女。



「あのさー、ちょっといい?」


 突然の声に驚きながらも振り返ってみると、そこにいたのは一人の女子生徒だった。


 確か、クラスメイトの女の子なんだけど……話したことも無いので、名前は分からない。つまり、知らない人だ。


 彼女は艶のある綺麗に染め上げられた金髪を腰辺りまで伸ばしており、前髪をヘアピンで留めているのが特徴的だった。見た目で判断するなら、ギャル風な容姿をしている女の子である。


 しかし、その整った顔立ちは美人と言っても差し支えないほどで、スタイルの良さも相まって非常に目を引くものがある。


 まさに言葉通りの美少女であり、誰もが一度は見惚れてしまうであろう容姿の持ち主であった。


 ……しかし、このクラスには誰よりも美少女な如月さんがいる。彼女の可愛さは群を抜いていると言っても過言ではない。


 そんな如月さんと比べたら、目の前の彼女はクラスで二番目に美少女だという評価になるだろう。


 残念だけれども、その評価が覆ることは無いと思う。そんなレベルの違いなのだ。


 僕はそんなことを考えながら、目の前で話し掛けてきた少女に目を向ける。


 何の用なのだろうかと思っていると、その少女は僕のことを興味深げに観察した後、小さく息を吐いてから口を開いた。


「ねぇ、立花くんって……如月さんと付き合ってるんだよね?」


「……はい?」


 いきなりそんなことを言われたものだから、一瞬何を言われているのか理解出来なかった。


 あれ? どういうこと? 何で彼女が僕と如月さんが付き合っているなんて知っているんだろう?


 僕がそんな風に疑問に思っていると、いつまで経っても質問に答えない僕を不審に思ったのか、少女が訝しげな表情を浮かべながら再び声を掛けてきた。


「ね、ね、どうなの? 本当に付き合ってんの?」


「……えっと」


 どう答えたものかと考えていると、彼女は僕の様子を観察するようにジッと見つめながら答えを待っている様子だった。なので、僕も彼女と同じように相手の様子を窺いながら慎重に言葉を選ぼうとする。


 そもそもの話として、どうして僕と如月さんが交際していることが、目の前の彼女……名前が分からないから、モブ子さんとでも呼ぼうかな。モブ子さんが知っているというのか。


 僕らの関係を知っているのは、昨日に如月さんへ告白をしてきた男子生徒ぐらいじゃないか? 彼の目の前で如月さんが付き合っているとカミングアウトしたのだから、まず間違いないと思うのだけれど。


 いや待てよ? もしかしたら、あの場を偶然にも見かけた誰かが言いふらしてしまった可能性もあるんじゃないだろうか? そう考えると辻褄が合う気がするし、むしろそう考える方が自然かもしれないね。


 それなら納得出来るし、説明がつくというものだ。だから、今日はやけに周りから見られていたんだ……って、でも、あれ? 言いふらされたにしては、拡散される速度が速すぎる気がするんだけど……だって、昨日の今日だよ? 何で?


 ……まあ、いいか。とりあえず今は置いておこう。それよりも重要なことがあるからね。まずはそっちを片付けよう。というわけで、モブ子さんの質問に答えることにする僕。


「その、付き合っていますけど……それがどうかしましたか?」


「ふーん、やっぱりそうなんだ」


 僕の返答を聞いた瞬間、つまらなさそうに呟く彼女。そして、続けてこんな質問をしてきた。


「ねぇ、それってさ、いつから?」


「え、えーっと、つい最近……です」


「へー、じゃあまだ短いんだ」


「は、はい」


 まさかこんなに食いついてくるとは思わなかった僕は戸惑いながらも頷く。一体何が聞きたいのだろう?


「ちなみにどっちから告ったわけ?」


「……それは、その……ちょっと」


 その質問に対して、僕は言葉を濁すようにしてそう言った。この質問を正直に答えるならば、如月さんから告白してきましたというのが正解になるわけだが、それを言うわけにはいかないだろう。


 人付き合いの嫌いな彼女が僕に告白してきただなんて、現実味が無いにもほどがあるしね。もし僕が逆の立場だったら、絶対に信じない自信がある。そんなわけで、僕は適当に誤魔化すことにしたのである。


「そっかー、そうなんだ。へぇ、なるほどねー」


 すると、彼女は何故かニヤリと笑みを浮かべた。そして僕から視線を切ると、教室全体をグルリと見回してからこんなことを言ったのだ。


「みんなー、やっぱり付き合ってるみたいだよー!」


 その声に反応するようにざわめき出す教室内。そして僕に集まってくる視線の雨。このクラスにいる全員……今はいない如月さん以外の視線が僕に突き刺さった。


 そんな中、僕は必死に平静を装っていたものの、内心ではかなり焦ってしまっていた。こんな注目を浴びる経験なんて、今までしたことが無かった。どうしよう、どうすればいいんだろうか……!?


 そんな風に考えを巡らせていると、目の前のモブ子さん以外にも僕の傍に人が集まってくる。それも男子女子関係なく、興味のある目をした人たちが僕を取り囲んできたのだ。そして皆一様に同じようなことを聞いてくるのだった。


「なぁ、どうやって付き合うことになったんだよ!?」とか「いつ頃から好きだったの?」だとか「きっかけは何だったの?」などと言った内容ばかりである。今までまともに話したことの無い人たちばかりなのに、まるで旧知の友人のように親しげに話し掛けてくるものだから、僕は対応に困ってしまうのだった。


 だけど、一つだけ言えることがあるとすれば―――僕は今、かつて無いほどの大ピンチを迎えているということだ。


 ど、どうしたらいいんだろう……? 四方八方から飛んでくる質問の数々に、僕はただただ戸惑うばかりだった。助けを求めて周囲を見回してみても、誰一人として助けてくれそうな人は見当たらない。それどころか、この状況を楽しんでいるような節さえあるように見える。


 そんな時―――不意に教室の扉が開かれて、一人の女子生徒が入ってきた。扉の開いた音に反応してか、僕に集まっていた視線が今度はそちらに集中するようになる。


 そして教室に入ってきた人物を見て、僕は思わず安堵の溜息を漏らした。何故ならその人物こそが、僕にとって唯一の味方であると確信していたからだ。


「……」


 クラスの異様な空気を察知してか、教室の中を無言で見回す彼女―――如月さんはつまらなそうな表情を浮かべていた。そんな如月さんを見たクラスのみんなは僕に向けていた視線と同じく、彼女にも興味津々といった様子で視線を向け始める。


 しかし彼女はそんな視線を気にすることなく堂々と歩いていき、やがて自分の席に腰掛ける。そしていそいそと持っていた鞄の中から文庫本を取り出すと、それに目を通し始めたのだった。その姿は相変わらずクールなものだった。


 そんな彼女の姿を見た僕は、少しだけホッとしていた。良かった……いつも通りだ。どうやら彼女は今の状況をあまり気にしていないらしい。


 僕がそんなことを思っていると、如月さんは読んでいた文庫本を閉じ、机の上に置いた。それから僕の方へ視線を向けてきたのだった。


「……」


 無言でジッと僕を見つめる彼女。どうしたものかと言葉に悩む僕。すると、如月さんはおもむろに右手を挙げると僕に向けて―――


「おはよ」


 そう言いながらなんと、無表情のまま手をゆっくりと振ってきたのだった。は????????? る?????????


 あまりの衝撃的な光景に激しく動揺してか、フリーズしてしまう僕。そんな僕を余所に、クラス内のボルテージが最高潮に達する。主に男子生徒を中心に歓声が上がったり、女子生徒が黄色い声を上げたり、中には口笛を吹いたりする者まで現れる始末である。


 そんな騒がしい状況の中、僕は呆然としたまま動けないままでいる。いや、これは仕方ないと思うんだよね? だっていきなりあんな事をされたら誰だってこうなるでしょ?


 いや、本当にびっくりしたよ! というか何なんだよあの仕草は!? 可愛すぎかよ!! ああもうっ、めちゃくちゃ可愛いんだけど!!! もう優勝でしょ!!!!


 そうして心の中でテンションを爆上げしていると、またも扉が開く音が聞こえてきた。そこから現れたのは、我らがクラスの担任である釜谷先生だった。黒光りするマッシブな肉体を持ち、スキンヘッドという強面かつ屈強な容姿をしている男性教諭である。


 そんな彼はクラスの喧騒を聞き、そして眺め回しながら口を開く。


「あんたたち、うっさいわよ! 騒がし過ぎて、廊下にまで聞こえているじゃないのよ!!」


 その甲高い声と同時に静まり返る教室内。静かになったことを釜谷先生が確認すると、教壇の前に立って手を叩いた。


「ほら、ホームルーム始めるわよ! 早く席に戻りなさい!」


 その掛け声とともに生徒たちは自分の席へと戻っていく。僕の周りに出来ていた人垣もまた崩れていき、ようやく解放された僕はホッと胸を撫で下ろした。


 そして視線を如月さんに向けてみると、彼女はもうこちらを見てはいなかった。また視線を文庫本に戻していた。釜谷先生がいるというのに、マイペース過ぎるよね。そんな彼女の様子に苦笑しつつ、僕も自分の席で大人しくしているのであった。





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