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説明しろと言われたので全てを話した結果、酷い認定を受けることになった件。



「話を戻すわよ。だからこれは、カウンセリングと同じだと思ってくれていいわ。あなたたちが現状を変えたいならアタシも力を貸すし、そうで無ければアタシはあんたたちを悪い方向へ行かないように導くか見張るだけ。分かった?」


「……はい」


 僕は釜谷先生の言葉に素直に頷いた。


「しかし、本当にアタシのクラスって問題児が多くて困っちゃうわ。立花ちゃんに如月ちゃん……それと弥生ちゃんにもう一人。アタシが生徒指導の担当だからって、そんなに問題児ばっかり押し付けられてもねぇ」


「え?」


 釜谷先生は溜め息交じりで愚痴を零した。ただ、僕は今の釜谷先生が発した言葉の中でどうしても気になることがあったので、それを先生に尋ねることにした。


「あの……すみません、釜谷先生」


「ん? 何よ?」


 釜谷先生は首を傾げて聞いてくる。なので僕は疑問に思ったことをそのまま口にした。


「いえ、ちょっと気になったんですけど……弥生さんも、その……問題児なんですか? 僕にはそうは思えないんですけど……」


「ああ、そういうことね」


 僕の質問を聞いた釜谷先生は納得したように頷いてみせた。そして、今度は反対に首を傾げながら尋ねてくる。


「どうしてそう思ったのかしら?」


「えっと、ですね……まず、弥生さんって明るい人じゃないですか。それにクラスの中心にいることも多いですし、男子とも仲が良いんですよ。ですから、そういう印象が強いんです」


 僕が答えると、釜谷先生は納得してくれたようで何度か小さく首を縦に振った。


「なるほどね。まぁ、あの子は確かに良い子よ。人当たりも良く、誰からも好かれるし、教師からの評判も悪くはないわ」


「じゃあ、やっぱり……」


「でも、あの子はあの子で問題を抱えている。あの子もあんたたちと同じで問題児なのは間違いないわ」


 僕がそう言うと、釜谷先生は真面目な表情で答えた。けど、それでも僕は先生の言葉がどうにも信じられなかった。


「……そうですか?」


 だから僕は首を傾げたのだが、それに対して釜谷先生は大きく溜め息を吐いた後で口を開いた。


「まぁ、分からないならそれでいいわ。それよりも今はあんたたちの問題の方が先決よ。ほら、だからさっさとこの連休で何をしていたのか、洗いざらい話しなさい」


「え、ええと……事情は分かりました。ただ、やっぱりプライベートな話なので、ここでは言いにくいというか……」


 僕は苦笑いを浮かべて言葉を濁すと、釜谷先生はにっこりと不気味に笑った。


「あら、そうなの。ふーん、へぇー。そう、そうなのねぇ」


「あ、あの……?」


「ねぇ、立花ちゃん。一つ、聞いてもいいかしら?」


「え、あっ、はい。何でしょうか……?」


「このアタシを前にして、話せと言っているのに話さないなんて選択肢を選べるだなんて……本気で、そう思っているのかしら?」


 釜谷先生はそう言うと、笑顔のままドス黒いオーラを発し始めた。心なしか、その肉体に宿っている見事な筋肉が隆起し始めたような気がする。


「……」


「さぁーて、どうしたものかしらね?」




 ―――という感じのやり取りを経て、冒頭にへと戻るのだった。


 そして僕は洗いざらい全てを釜谷先生に話すことになった。


 その結果、釜谷先生は呆れたような顔になり、額に手を当てていた。


「……はぁ。ねぇ、立花ちゃん。ちょっと言わせて貰っても良いかしら?」


「は、はぁ……」


「あんた、ヘタレね」


「うぐっ!」


 釜谷先生の言葉がグサリと胸に突き刺さる。まるで槍を心臓に刺し込まれたかのような衝撃に僕は思わず胸を押さえた。


「全く、これはこれで予想外だったわ。もう少し遊んだり連絡を取ったりしているものだと思っていたら、初日以外は接点無し? 相手に申し訳ないから連絡しない? しかも、送ろうとしたら断られる? あんたたち、それで本当に付き合ってるの?」


「そ、それは……その……」


 僕は俯き、何も言えなくなってしまった。そこを突かれると、本当に何も言えないんです。だって、事実だから。僕らの付き合いは偽装でしかないのだから。


 ただ、それを釜谷先生に言う訳にもいかず、仮に言ったとしても余計にややこしいことになるのは目に見えていた。だから、僕は口を閉ざすしかなかったのだ。


「まぁ、それならそれで問題にもならなそうだから、アタシとしては安心なんだけども……何だか釈然としないわね」


 釜谷先生はそう言って腕を組みながら考え込んでしまった。その姿を見ながら僕は何とも言えない気分になっていた。


「とりあえず、節度を守ってやっていけそうなら、アタシからはこれ以上、特に何か口出しをするつもりはないわ」


「えっ!?」


 まさかそんな言葉が返ってくるとは思っておらず、思わず驚いてしまった。てっきりもっと厳しく言われるものだとばかり思っていたから。


「何よ、その意外そうな顔は?」


 しかし、そんな僕の反応を見た釜谷先生は不機嫌そうな顔になった。


「いや、だって……」


「言っておくけどね、アタシだって鬼じゃないのよ? ちゃんと節度さえ守ってくれれば何も言わないわよ」


「あ、ありがとうございます……」


「ただし、本当に問題を起こした場合は……その時は、分かっているわよね? 一応、アタシも教師なんだから、それ相応の対応をさせてもらうわよ?」


 僕は感謝の言葉を口にするが、その瞬間、釜谷先生の表情が一変した。その顔は笑ってはいるが目が全然笑っていない、とても恐ろしいものだった。どうやらまだ完全に許された訳ではないらしい。


「さて、それじゃあ次の質問だけど……あんたら、どこまでいったの?」


「ど、どこまでとは?」


 僕は釜谷先生の質問の意図が分からず、首を傾げる。すると、釜谷先生は呆れた表情になった。


「もう、鈍いわね。そんなの決まってるじゃない。キスぐらいはしたのかってことよ」


「き、きき、キキキ、キスゥッ!!??」


 釜谷先生の言葉を聞いて、僕は顔を真っ赤にしながら大声を上げてしまった。いや、だって、まさかそんなことを聞かれるとは思わなかったから。


「その様子だとしてないみたいね。清い付き合いをしているみたいで結構。まぁ、立花ちゃんヘタレだし、如月ちゃんもそういうことに興味がありそうに思えないから、妥当と言えば妥当なんでしょうけど」


 釜谷先生は僕を見てニヤニヤと笑いながらそう言った。その言葉に僕は恥ずかしさのあまり俯いてしまう。


「まっ、その調子で頑張りなさいな。何かあったら相談に乗ってあげるから」


 釜谷先生はそう言って僕の肩を叩く。その衝撃で僕は顔を上げて先生の顔を見た。


「あの、それってどういう……」


「言葉通りの意味よ。アタシはこれでも教師だからね。困っている生徒がいたら助けるのは当たり前よ♡」


 そう言って釜谷先生は僕に向けてウィンクをした。その姿はまさに頼れる教師の鑑―――とかじゃなくて、正直に言うとおぞましい化け物にしか見えなかった。というか、めっちゃ気持ち悪いんですけど。


「オエェ……」


「ちょ、何よ、その反応は! 失礼しちゃうわ!」


 僕が気持ち悪さに堪えきれず嘔吐くと、釜谷先生は怒り出した。しかし、今の僕の気持ちを考えて欲しい。こんな気持ちの悪いものを見せられて平気でいられる奴がいるだろうか? いや、いないだろう。


「ったく、失礼な子ね。まぁいいわ。とにかく、今日はここまでにしておきましょうか。そうしたら、早く授業へ行きなさい」


「あっ、はい。分かりました」


 僕は立ち上がり、そして次の授業の教室へ向かう為に職員室を出ようと歩き始めようとした。その時だった。


「ああ、そうだ。言い忘れてたことがあったわ」


 釜谷先生が突然、思い出したかのように声を上げた。僕はそれに驚き、振り返る。


「何ですか?」


「一応、念押しで言わせて貰うけど……朝のホームルームで言ってた話、ちゃんと考えておきなさいよ」


「え?」


 釜谷先生の言葉について、僕は何を言われたのか理解出来ず、間抜けな声を出してしまった。朝のホームルームでの話……? えっ、何か重要なことでもあったっけ?


「あら、何よその反応。まさか……話を聞いていなかったとか、そういう訳じゃないでしょうね?」


 釜谷先生は怪訝そうな表情を浮かべて僕にそう問い掛けてきた。その表情には明らかに怒気が含まれているのが分かる。やばい、これは本気で怒っている時の顔だ。


「……」


「ねぇ、ちょっと。何で目を逸らしているのかしら? こっちを見なさい?」


 釜谷先生はそう言って僕を睨みつけてくる。その目は明らかに『目を逸らすんじゃねぇぞゴラァ!』と言っているようにしか思えなかった。僕は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。


「えっと……すみません、何の話ですか?」


「……あんた、もしかして本当に聞いてなかったの?」


「……はい」


 釜谷先生は信じられないという顔で僕のことを見ていた。だが、それも当然だろう。だって、さっき言ったことなのに覚えていないのだから。


「……」


「……」


 僕と釜谷先生の間に重苦しい沈黙が流れる。そして数秒後、先生が大きく口を開いた。


「おバカっ!! だからあんたは問題児なのよ!! このスカポンタン!!」


「ひぃぃ、ごめんなさいぃいいっ!!!!」


 僕は思わず悲鳴を上げて謝った。その剣幕に圧倒されてしまったのだ。そしてそれから数分間、僕は釜谷先生から説教を受け続けたのだった。




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