〝バビューン!〟
ジュリアナの飛行魔法によって、
「お、おい!あれ見ろ!」
「お、女の子が空飛んでる!?」
「すげえ!X(旧Twitter)で拡散させてバズらせよう」
ゲロを吐き終えて体調が回復したホームの乗客たちが、スマホを取り出して彼(彼女)を一斉に撮影し始めたのであーる。
今や、ほとんどの人がSNSをしているし、その誰もが多かれ少なかれ自分のアカウントが注目されたいという承認欲求はある。
目の前に空飛ぶ魔法少女(中身オジサン)が現れたら、そんな彼らにとっての格好のエサとなるのだから、こうなるのは当然の事と言えよう。
「ジュリアナちゃん、皆、ワチキたちの事を撮ってるよ〜。これマズいんじゃないかしら?」
飛行中の陣生(魔法少女)は、ホームから撮影する人々を見て不安そうに呟く。
[この魔法使ってる間は、ワチキ達の周りには魔力のバリヤーみたいなのが張られてるの。だからカメラとかで撮影してもワチキ達の姿は映らないから大丈夫だって]
「そ、そうなの?」
[それにしても、目障りな連中ね!見るのもうっとうしいわ。陣ちゃん!もっと高く飛ぶからね]
「え?う、うわー!」
ジュリアナがそう言うと同時に、陣生(魔法少女)の身体が更に上昇し始めた。
そして、彼(彼女)は、雲の上とまでは行かないまでも、高層マンションの最上階以上の高さまで舞い上がっちゃったのだった。
[ここまで上がれば、誰にも見られないでしょ]
「う、うわー!高い!高い!うははー!凄い!凄い!アハハハー!」
ミニチュアのように小さく見える町並みを見て、陣生(魔法少女)は子供のように、はしゃいでいた。
[へー、陣ちゃん、高いの平気なんだ?]
「ああ!高い所大好きなのよ!」
[ふーん、〝バカと煙は高い所が好き〟だって言うけど本当なのね]
「えー!?何か言った?」
[別に〜]
彼(彼女)が右側を向くと東京スカイツリーが間近に見えた。
「ヤッホー!あー!楽しいわ!……ハァハァ……あ、あれ?……ハァハァ……な、何だ?い、息が……ゼイゼイ!」
スカイツリーに向かって無邪気に叫んだ直後、陣生(魔法少女)は、突然息切れし始めたのだ。心なしか、高度もどんどん下がってきちゃったのである!
「な、なんで……こんなに……い、息が苦しいんだ?」
[そりゃそうでしょ。こうして飛んでる間も陣ちゃんの精気を使ってんだもん。そろそろ体の精気が無くなり始めたからじゃない?]
相変わらず他人事のようなジュリアナの言葉を証明するかのごとく、先ほどまでミニチュアのように見えていた眼下のビルなどが、どんどん大きく見え始めてくる。
「ジュリアナちゃん、ワチキの精気が無くなったら、どうなるのよー?」
彼(彼女)は、その答えが分かってるくせに、脳内のジュリアナに問いかける。
[決まってんじゃん。真っ逆さまに落ちて‶グシャッ〟てなっちゃうよ。だから、早く会社へ急いだ方がいいんじゃない?]
「やっぱし!このままワチキが落ちて死んだら、ジュリアナちゃんも困るんじゃないのかしらー!?」
予想通りの回答を聞いた陣生(魔法少女)は、ジュリアナにツッコミを入れる。そんなことをしてる間にも高度は下がり続け、いつの間にか5〜6階建ての雑居ビル屋上くらいまでになっていた。
近くのビルの窓から空飛ぶ陣生(魔法少女)の姿を見た人々は、駅の乗客同様スマホを取り出して撮影を始めている。
[そっか!陣ちゃんの体から出られなくなるし、体が焼かれたらワチキも死んじゃうじゃん!
完全に自分本位のジュリアナの絶叫が、彼(彼女)の脳内に響く。
「ジュリアナちゃんてば、ワチキよりパチンコの方が大事なのねー!ひどいわ!ワチキとは体だけの関係だったの!?ワチキは都合の良いオジサンですか?」
[いい歳したくせに乙女みたいな気色悪い事言わないでよ。もういい!ワチキが動かすから!会社はどっちの方角なの?]
「とりあえず、右斜めの方でお願い!」
[OK!こっちに行けばいいのね]
ジュリアナは、陣生(魔法少女)の指示通りに体を動かして社畜の本拠地である〝ガラクタ商事〟へ向かうのだった。
ー同日 8時45分
丸値将報乃公園は、ガラクタ商事から徒歩1分未満くらいの場所にあったりする所なのだ。
公園のくせに、敷地は狭く遊具はブランコしかない。
他にある設備は公衆トイレだけなので、子供達はおろか、殆ど人が近寄らない寂れた公園なのであーる。
〝ギィィー〟
そんな公園の女子トイレの扉を開けて、1人の女性が姿を現した。
⋯⋯黒髪のショートヘアに紺色のビシッとしたOLスーツを纏っているが、服装とは反対に幼さを残した顔立ちをしているので〝美人〟というよりは〝可愛らしい〟という言葉が似合いそうな人物だった。
そう!彼女こそ、プリティ・プリプリメーラの人間界での姿であり、陣生の上司の
「ふー、何とか間に合ったわ。それにしても電車が緊急停止するなんて、一体何があったのよ?〝
エリーザの名誉のために説明すると、公衆トイレから出てきた彼女が言っていた「間に合った」というのは、ウ〇コを漏らしそうという意味ではない。
〝ゲロるじゃ〜〟となった隣田を自室に追い返した彼女は、出社するため自宅から最寄り駅の将科駅に向かったが、途中駅である怒古火之駅で電車が緊急停止し、運転再開見込み不明という事を知った。
正体が悪役ポジションの魔法少女のくせに、根が真面目なエリーザは遅刻を避けるためプリプリメーラに変身して、飛行魔法を使い丸値将報乃公園のトイレまでやって来ちゃったのである。
そして、個室に入った彼女は〝
つまり、この場合の「間に合った」というのは、決してウ〇コを漏らしそうという意味ではなく、始業時間に間に合ったという意味なのだ!
エリーザはスマホを取り出しXで、怒古火之駅でのウ〇コ⋯⋯じゃなくて運行停止の理由を検索し始めた。
『駅のホーム、皆がゲロ吐きすぎて、線路にまでゲロが溢れてるんだけどー!く、臭え!また吐きそう!だ、ダメだ!オエエエー!』
真っ先に目に入ったポストを見たエリーザは、ワナワナと震え始めた。
「これ、
スマホの画面に向かって、ジュリアナへの怒りをぶつけると同時に、1人ツッコミも忘れない器用なエリーザであった。
「む!魔力を感じるわ!これは、まさかジュリアナの?」
その時、ジュリアナらしき魔力を察知したエリーザは、キョロキョロと辺りを見回す。
「どこだ?あのゲロ娘め!昨日の怨み晴らしてやる。この魔力の流れは……
エリーザが空を見上げると、飛行中の陣生(魔法少女)の姿が目に入った⋯⋯と思った瞬間、ガラクタ商事ビルの屋上へ着地していくのを目撃した。
「な、何でアイツが会社の屋上に?ええーい、そんな事はどうでもいいわ!今度こそ逃がさないわよ」
エリーザは、ジュリアナを捕まえるため会社へ向かって走り出す。
〝バタン!〟
ガラクタ商事ビル屋上に到着した途端、陣生は倒れてしまった。
精気を大幅に消耗してしまったので変身解除の魔法を使う事もなく、いつの間にか小デブで薄らハゲの45歳オッサンの姿に戻っていたのである。
[ふああ〜。久々に魔法長く使ったから疲れたわ。ワチキ寝るからね]
(あーあ、いい気なもんだよ。お、俺、これから仕事なのに!だ、ダメだ!疲れ過ぎてね、眠い⋯⋯ご、5分だけ⋯⋯)
力尽きた陣生も眠ってしまった。
⋯⋯その直後、ドアを乱暴に開けて屋上に姿を現したのは、そう!お察しの通り、エリーザなのであーる。
「ジュリアナー!⋯⋯っていない。ん?あれは」
エリーザが見たのは、屋上で大の字になって眠ってる陣生の姿であった。
「何で
〝グワキィ!〟
エリーザは眠りこけてる陣生の両足を掴むと同時に、プロレス技である〝サソリ固め〟を決める。
「いつまで寝てんの火廊君!
そう言って彼女は、技の力を強めていく。
「ぎ、ぎぃやぁぁー!痛っ!痛いって!足折れるッッ!⋯⋯って、課長?何朝っぱらからサソリ固めを決めてんスか!?」
陣生は、サソリ固めによる両足の痛みで、目を覚ました。
「ようやく起きたわね!私、とにかくイライラしてんの!このままプロレス技をかけさせなさーい!!」
そう言うと同時に、エリーザは陣生の両手首を掴み、両足首に自分の足を絡め、後方に倒れながら、彼の体を持ち上げちゃったのである!
彼女が決めたのはプロレス技の〝
「あんぎゃぁぁぁー!か、課長ー!俺、体重80kgはある小デブなんスよ!そんな俺によくロメロスペシャル決められますね!今からでも女子プロレスラーに転職した方がいいんじゃないのでしょうかー?うぎゃー!痛い!!ギブ!ギブアップ!!」
エリーザのロメロスペシャルを受けた陣生は、悶絶しながらツッコミを入れる。
それにしても、20代の女性上司からプロレス技を仕掛けてもらえるなんて、一見すると不運に見えるが、ある意味では幸運な状況ではないだろうか?
ごく少数ではあるが、世の中にはお金を払って女性にプロレス技を仕掛けてもらってる変態М男性もいるみたいであーる。
そんな人たちから見れば、エリーザみたいな可愛らしい
よっ!羨ましいぞ!陣生!コノヤロー!!
「この辺にしといてあげるわ」
エリーザは、そう言って陣生を解放する。
「ハァハァ!か、課長、キツかったス!」
連続して受けたプロレス技のダメージと精気を殆ど消費したままの陣生は、起き上がれず息を切らしたまま呟く。
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、
(そ、それってジュリアナちゃんの姿に変身した俺の事?ど、どうして、課長がこんな事聞いてくんのさ〜?)
エリーザの質問を聞いて、内心パニクりまくる陣生であった。
⋯⋯物凄く中途半端な所のような気がしないでもないが、これにて第2章終幕である!
え?なんでかって?それはだねぇ〜、今回は珍しくゲロ要素が少なかったので、ボロが出ないうちに、2章目を終わらせたかったからだよ!
また3章でね!じゃーの!