目次
ブックマーク
応援する
9
コメント
シェア
通報

ゲロは会社と家庭を救う!…ホントに!?

10ゲロ この作品はゲロ文学の金字塔です!…誰も言ってくれないので、作者自らが言います!


 火廊陣生ひろうじんせい(45歳・社畜)は、ガラクタ商事ビルの屋上に仰向けになって倒れていた。シャツは半分はだけ、口元には乾いたヨダレの痕が残る。世界で一番だらしない空飛ぶ魔法少女だった者の成れの果てであーる。


 うん?「なんで倒れてんの?」って思ったそこの読者のアナタ!えー!?前話読んでないのー!?


 ……もー!仕方ないなぁ。面倒だけど今回は特別に説明してやろう。ありがたく思ってね?今回は特別だよ?




 ジュリアナの飛行魔法によって会社に来る事が出来た陣生は、精気を使い果たした上に、上司の辺留べる薔薇ばら薔薇ばらいんエリーザと、屋上で組んず解れつの激しい肉体プレイを終えたばかりだったので倒れてるのだ!


 オイオイ!今の説明読んで〝何かエロい妄想〟した人いるでしょ?


 違うっつってんでしょーが!2人は〝大人のプロレスごっこ〟をしてただけなのであーる。


 こう書くと、


 こんな適当な説明に懲りた読者の方は、これからはちゃんと続けて読んでね♡


 (それにしても、ジュリアナはどこに消えたの?まさか火廊君こそが⋯⋯?)


 エリーザは、目の前でグッタリしてる部下の陣生を見て、2人が同一人物ではないか?と考え始めたのである。


 (フッ、まさかね。仮にジュリアナが私と同じ〝人間変身魔法年増女にな~れ〟を使用してたとしても、こんなオッサンの姿になるわけないわ!だって、汚いもん)


 エリーザは、僅かに口元を歪めて笑うと自分の考えを否定しちゃうのだった。


 そりゃ、そうだよねー。彼女の目の前に倒れてるのは、ただの小太りで薄らハゲのオッサン。それが、ついさっきまで空を飛んでいた魔法少女(外見10才くらい)と同一人物だなんて普通の思考力の人は夢にも思わないよね~。


[何よ~。うるさいなぁ!せっかく寝てたのに。えっ?何で陣ちゃん倒れてんの?この年増女は誰?]


 陣生の脳内に目覚めたジュリアナの声が聞こえる。


 (ジュリアナちゃん?また、やっかいなタイミングで起きたな~。課長、何故かジュリアナちゃんの事を知ってるみたいだし、目の前にいるから話して説明も出来ないじゃないか)


 陣生は、倒れたままこの状況をどうやって切り抜けるか考えていた。


 「プロレス技かけたおかげでスッキリしたから、さっきの魔法少女の話は、とりあえずいいわ。火廊君、いい加減起きて!オフィスに戻るわよ」


「そ、そんな事を言っても、疲れと痛みで立てませーん」


 いくら社畜といえど、精気が殆ど回復してない陣生に立ち上がって仕事しろというのは酷な話だったりするような気がする。


 [何よ!この年増女。偉そうに言いやがってムカつくわー!分かってるよ。陣ちゃん、どうせ殴ったらダメだって言うんでしょ?ワチキは殴んないから年増女の手を掴んで]


 (うう、分かったよ)


 ジュリアナの言葉を聞いた陣生は、倒れたまま右手を上げて、エリーザに言う。


 「す、すんません。課長、自力で起き上がれないから手を貸してくれませんか?」


 「仕方ないわね。今日だけよ。後で感謝してもらうからね?」



 エリーザは汚物を見るような顔をしながら、彼の手を掴んだ瞬間!!


 〝キュウシューウ!!〟


 そのまんまな効果音が、陣生の脳内に聞こえたかと思うと、僅かばかりではあるが、体に力が湧いてきたのを感じた。


 「あれ?急にどうしたんだろ?」


 立ち上がった陣生は、不思議そうな顔をして自分の手足を見つめた。


 (な、何?急に目眩が?)


 一方で、エリーザは少し辛そうな表情をしながら、右手で自分の額を押さえる。


 「課長、どうかしたんですか?」


 「何でもないわよ!さあ、戻るわよ」


 そう言って、エリーザは屋上の扉を開けて出て行ってしまった。


 [へへー♡あの女から、精気をチョッピリ吸精吸い取ってやったのよ。チョロいチョロい♡ 年増女のくせに♡おかげで、少し元気になれたでしょ?]


 「えー!ちょっとそれはバレたらやばいんじゃないの?」


 エリーザが先に屋上からいなくなったので、ようやくジュリアナと会話出来るようになった陣生が叫んだ。


 [大丈夫だって。第一どうやってバレるのよ。それにしても変ね?]


 「どうしたの?ジュリアナちゃん」


 不思議そうに呟くジュリアナに対して、陣生が尋ねた。


 [ワチキ、本当にチョッピリしか吸精吸い取らなかったのに、倍ぐらいの精気量だったんだよね。何でだろ?]


 その正体が魔法少女プリティ・プリプリメーラであるエリーザの精気量は、普通の人間の倍以上あるので吸精量も比例してたのである。


 しかし、その事を知らないジュリアナにとっては、不可解な出来事に感じられちゃったのだ。


 [まっ、どうでもいいか。それよりも陣ちゃん早く行かなきゃマズイんじゃない?]


 「そ、そうだ!早く俺も事務所行かなきゃ」


 屋上の扉を開けた陣生は、営業部内の自分の机に向かっちゃうのであった。


 肩で息をしながらタイムカードを切ると、部署内の空気がなぜか妙にざわついていた。


「おはようございまーす……って、あれ?」


 陣生は、10人ほどいる部署内の社員達に、朝の挨拶をしたが、誰も返事をしてくれなかった。


 (え?もしかして、社内イジメってやつ?)


 彼は一瞬そう思ったが、よくよく観察するとそうではない事に気が付いた。


 いつもなら死んだ魚のような目をして働いてる社員たちが、なぜかザワザワと落ち着きがない様子をしていたからだ。


「なあ、知ってる?このビルの屋上に魔法少女が着地したんだって。警備員さんが目撃したらしいぜ」


 1人の男性社員が、隣にいた女性社員に言った。


「ええー!?何それ?もしかして新手の迷惑系YouTuberの仕業?」


「ちがうちがう!ガチで空飛んできたらしいよ!なんか光ってたし、女子小学生っぽかったって」


 彼らの話を聞いた陣生の背中に冷たい汗が流れる。


「ちょっ、まさかの社内にまで拡散!?おいジュリアナちゃん、マジでヤバいって!」


 陣生は、誰にも聞こえないよう小声で呟いた。


 [大丈夫大丈夫♡ 撮られてもワチキ達、バリヤーで映らないから〜♪ それにどいつもこいつも、バカそうな顔してるからすぐ忘れるって♡]


 彼とは正反対に全然動じていないジュリアナの声が、聞こえてくる。


 「いや、バカそうな顔言うな!俺の職場の人間だぞ!?」


そんなツッコミをしていると、1人のOLがぬるっと陣生に近づいてきた。


 「おはようございま〜す、火廊先輩っ☆」


 ピンク色のレディーススーツに、セー〇ー〇ーンみたいな金髪お団子頭をした彼女の名前は万賀多伊夢まんがたいむきらら(21歳)。営業部の天然系アイドルで、陣生の後輩である。


 何となく、一緒にジャンプしたくなるきららジャンプような名前をしてるが、それは多分気のせいである。



 「先輩、魔法少女みたいな女の子が屋上で目撃されたみたいですけど、先輩見ました~?」


 「い、いや、そ、そんなの、み、見てるわけないじゃないかー!」


 「ふーん。そうなんですかぁ。きららも魔法少女見たかったなぁ~」


 誰が見ても(お前、怪しすぎんだろ!)ってな態度の陣生だったが、天然系のきららには怪しまれなかったようである……と思う。


 「さあ、皆いつまでもくだらない話してないで!仕事!仕事!」


 営業課長であるエリーザは、両手をパンパンと叩いて陣生達に業務を行うよう指示を出す。


 ……時刻は午前11時を過ぎた頃だった。


 ピンポンパンポーン♪


 オフィス内のスピーカーからチャイムが鳴った。


 「あー、社員の諸君、おはよう!」


 続いてスピーカーから、しゃがれたジジイの声が聞こえてきた。


 声の主は、ガラクタ商事社長である玉玉ぎょくたま金造きんぞう(68歳)である。


 ちなみに、彼は社員達の間では〝タマキン〟というアダ名で呼ばれていたが、もちろん本人はそんな事など全く知らないのである。


 何?下品なアダ名を付けるなって?だって、仕方ないじゃーん。こんな名前してたら、誰でもタマキンって呼びたくなるでしょーが!!


 「本日は急遽、全社員出席の臨時会議となる。なお、ゲロ袋を持参せよ。以上!」


 タマキン……もとい、社長はそう言って放送を終えた。


 (ゲロ袋って……え?会議でゲロ吐くの前提!?)


 陣生は、心の中で今の放送にツッコミを入れるのだった。


  ―11時20分。ガラクタ商事 大型会議室内-


 ガラクタ商事は中小企業であるが、営業、総務、経理など全部署を合わせると社員数は40人ほどとなる。


 会議室内は、緊急収集を受けた社員達の声で騒然としていた。


 「な、なんだよこの空気……誰かまたオフィスの冷蔵庫に期限切れの納豆忘れたのか?」


 会議室に集まった社員たちは、そんな事を言う者もいたが、目の前にある〝それ〟について誰もが口に出すことを避けていた。


 、各自に配布されたA3カラー印刷の資料である。そのタイトルはこうだった。


 『怒古火之どこかの駅 ゲロ災害事件 調査報告書』


 (じ、事件って……災害認定されてんのかよ!?)


 陣生は青ざめた顔をしながら、手元の資料を見つめていた。


  資料内には、朝の通勤ラッシュ時に駅内でゲロを吐きまくる人々や、ゲロの大洪水となっていた駅ホームの写真が高画質で見出し付きで多数掲載されちゃってたのである。


 以下に、その見出しのいくつかを紹介しちゃおーう!


 見出しその1・ゲロの海でバタフライ泳ぎするサラリーマン


 見出しその2・ゲロを避けようとムーンウォークするOL


 見出しその3・「ゲロスリップ事故多発中」と貼られた注意書き


「おいおい!何だよこの写真、ホームが完全に〝ゲロの海〟になってるじゃない……っていうか、ゲロの海でバタフライやムーンウォークするなんて適応能力高すぎるやろ」



 陣生の隣にいた男性社員が、資料内の写真を見て呟く。



 「皆さんお疲れ様です。早速ですが、ゲロ災害緊急対策本部・本部長の万賀多伊夢きららちゃんより、説明があります」


 司会進行の総務主任の声と同時に、きららが前方に登壇する。


 黒いスーツ姿、伊達メガネ装着、頭のお団子を解いたので、金髪のストレートロングヘア、ポインター装備、目が完全に令和の地検特捜部であった。


 見た目は小柄で愛らしいが、その表情には、普段の天然系アイドルからは想像も出来ない〝キャリアウーマン感〟が滲み出ている。


 (な、何で、きららちゃんが、本部長にー!?いや、それよりもゲロハザード事件って、まだ2~3時間前までの出来事だよ?それなのに、こんな凄い資料や対策本部を作ったりと手際良すぎないー?こんな暇あるなら、皆仕事しようよー!!)


 陣生は、段取り良すぎる会社の対応に、心の中でツッコミを入れるのであった。


 「皆さん、まずは日々の業務お疲れ様です。今回の怒古火之駅でのゲロ災害……通称『ゲロハザード』について、社として無関係であるという立場を明確にしつつも、社内風評被害を防ぐため、いくつか確認と注意喚起があります。まず最初に、この中に〝怒古火之駅の6番線女子トイレ付近〟にて、不審な行動を取った方はいませんね?具体的には、以下の行動を指します」


 そう言ったきららの持ったポインターが、会議室内の大型プロジェクターに表示されたスライドを指し示す。


 ①「女子トイレに痴漢容疑の中年男性が侵入し、個室に閉じこもる」


 ②「中から10歳前後の魔法少女みたいな服装の女児が出てくる。中年男性の姿は無し」


 ③「のを妖怪…じゃなかった90歳以上のババアが発見する」



 「個室内から我が社の社章バッジが発見された事によって、保健所と警察から問い合わせが来てます。でも〜きららは、さっきも話した通り我が社とこの件は関係ないと思ってまーす」


 と、いつも通りの天然系らしいポワポワした声で、きららは話を終えたと思った次の瞬間、彼女の目が別人のようにギラリと光った。


 まるで社内の全員をスキャンするかのような鋭い視線。会議室の空気が凍りついた。


 その目は、もはや「営業部の天然アイドル」ではない。


 ゲロ災害緊急対策本部・本部長の万賀多伊夢きららだった。


 本部長モードになった彼女は、言葉を続ける。


「……これ、該当者いませんよね?いたら今のうちに自己申告してください。あとでバレたら罰として社内回覧板に掲載用の〝ゲロポエム〟を書いてもらいますからね。ちなみに、社長はショックのあまり、股間のタマキンが大きく腫れてしまったので、社内放送の後に病院に緊急搬送されちゃいました♡」


 (あーー!社章バッジ!?頼む……俺のバッジ付いてて……!)


 陣生は、震える指でスーツの胸元をまさぐったが、そこにバッジは無かった。


 彼の社章バッジは、まるで自ら罪を自白するかのように、綺麗さっぱり消えちゃってたのである。


(マズい、マズいって……このままじゃ俺、社内で〝ゲロハザード主犯〟として処刑される……。っていうか、ゲロポエムって何なのさー!!)



 「あの~きららの独断と偏見により、この中にゲロ災害と魔法少女に関係していそうな人物が1名いるので指名しちゃいまーす」


 彼女の言葉を聞いた瞬間、陣生の背中に冷たい汗が流れた。


 「それは⋯⋯火廊先輩、あなたでーす!」


 「う、うわぁぁぁあああ!?」


 [このビッチスゲーじゃん。金田一少年みたーい♪]


 会議室内には陣生の絶叫が、そして彼の脳内には緊張感の無いジュリアナの声が響き渡るのだった。


 まさか、ここまで追い詰められるとは!!ガラクタ商事と万賀多伊夢きららちゃん恐るべし……!


 そして、タマキン社長のタマキンは大丈夫なのか?破裂しないか?



 陣生、まさかのゲロハザード主犯の社内バレ寸前!?


 次回、『ゲロとポエムと査問会議』の予定……お楽しみに♡


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?