2つのありふれた料理が出来上がった時、あれほどやかましく話していた皆の声が途絶えた。別に電波が悪くなった訳じゃない。ただ、絶句していたのだ。それは俺もである。
「……誰か食べたい人ー」
苦し紛れに言うと、ようやく思い出したかのように宮の声が聞こえてきた。
『遠慮しとくの~。匂いとかはどうなの~?』
「匂いは特に。ただ何ていうか……分かる? 弾力が凄い」
出来上がった卵焼きに箸を入れようとするが、弾力が凄くて箸が通らない。熱で固まるのだろうか?
『うわ、うちの妹の失敗したプリンみたいだ』
『どんなプリンだよ。で、味は!?』
「いや、ちょっとマジで固くて……」
俺は箸で切るのを諦めて仕方なく齧りついた。齧りついたのだが——。
『すげぇ。マジで食べやがった!』
「ぶふぁっ!」
どよめく皆をよそに俺はすぐさまそれを吐き出した。そんな俺の反応に皆、興味津々である。
『どう? 噛めない? 不味い?』
「……食感はゴム。味はミント」
『ミント!?』
『ヤバ……卵からミント出てくるってどんな奇跡だよ』
『もしかして卵じゃなくて、何かの植物……だったとか?』
『疑ってたけどごめん。これ、リアルタイムなんだよな?』
『すげぇスレを見つけてしまった……』
皆が口々に話す中、俺はもう一つの料理、目玉焼きに箸を伸ばし、桃身にそっと箸を入れる。
『おい、死ぬぞ! もう止めとけって!』
『そうだよ~。見た目はピンクで卵から出てくるミントなんて尋常じゃないよ~』
「いや、でも食材もったいないし……いただきます」
お残しは許されない家庭環境で育ったからか、それがたとえどんな物でも残せない。そんな俺の言葉に皆が口々に止めてくれるが、俺はそれを振り切って桃身にさらに箸を入れた。
すると今度はするりと箸が入ったのだが、やはり中から溢れてきたのはピンクの液体だ。
「うぅ……」
呻きながらそれを口に運ぶと、またさっきと同じように吐き出した。
『ミント? やっぱミント!?』
『勇気が凄いの~』
「……歯磨き粉。これは完全に歯磨き粉」
『www』
『清涼感ぱねぇ!』
俺は箸を置いて皆に尋ねた。どうにかしてこれを上手く食べる方法は無いかと。
『ミントならミントティーとかが良さそうなの~色も映えると思う~』
『宮天才じゃん! よしヒロキン! それでミントティーに挑戦だ!』
トモの声に他の奴らも騒ぎ出す。
「そんな小洒落たもん作った事無いんだけど」
『とりあえずそこに熱湯ぶち込めば良いんじゃね?』
真っ先に嘘松認定してきた『ヤス』の言う通り桃身だけを慎重にコップに移して熱湯を注ぐと、辺りにミントの良い匂いが広がった。そして一口飲んで目を見開く。
「う、美味い……」
『マジで!?』
『謎卵のミントティー爆誕じゃん』
『色は真っピンクだけど味はミントて』
「えっと、皆、とりあえずありがとう。謎卵は茶にして飲むわ」
『飲むんかい! いや~伝説になるな、このスレw』
トモが笑って皆も笑う。俺も笑ってこれで終わりだとそう、思っていた。