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第4話『究極の映えミントティー(ホット)』

 2つのありふれた料理が出来上がった時、あれほどやかましく話していた皆の声が途絶えた。別に電波が悪くなった訳じゃない。ただ、絶句していたのだ。それは俺もである。


「……誰か食べたい人ー」 


 苦し紛れに言うと、ようやく思い出したかのように宮の声が聞こえてきた。


『遠慮しとくの~。匂いとかはどうなの~?』

「匂いは特に。ただ何ていうか……分かる? 弾力が凄い」

 出来上がった卵焼きに箸を入れようとするが、弾力が凄くて箸が通らない。熱で固まるのだろうか?

『うわ、うちの妹の失敗したプリンみたいだ』

『どんなプリンだよ。で、味は!?』

「いや、ちょっとマジで固くて……」


 俺は箸で切るのを諦めて仕方なく齧りついた。齧りついたのだが——。


『すげぇ。マジで食べやがった!』

「ぶふぁっ!」


 どよめく皆をよそに俺はすぐさまそれを吐き出した。そんな俺の反応に皆、興味津々である。


『どう? 噛めない? 不味い?』

「……食感はゴム。味はミント」

『ミント!?』

『ヤバ……卵からミント出てくるってどんな奇跡だよ』

『もしかして卵じゃなくて、何かの植物……だったとか?』

『疑ってたけどごめん。これ、リアルタイムなんだよな?』

『すげぇスレを見つけてしまった……』


 皆が口々に話す中、俺はもう一つの料理、目玉焼きに箸を伸ばし、桃身にそっと箸を入れる。


『おい、死ぬぞ! もう止めとけって!』

『そうだよ~。見た目はピンクで卵から出てくるミントなんて尋常じゃないよ~』

「いや、でも食材もったいないし……いただきます」


 お残しは許されない家庭環境で育ったからか、それがたとえどんな物でも残せない。そんな俺の言葉に皆が口々に止めてくれるが、俺はそれを振り切って桃身にさらに箸を入れた。


 すると今度はするりと箸が入ったのだが、やはり中から溢れてきたのはピンクの液体だ。


「うぅ……」


 呻きながらそれを口に運ぶと、またさっきと同じように吐き出した。


『ミント? やっぱミント!?』

『勇気が凄いの~』

「……歯磨き粉。これは完全に歯磨き粉」

『www』

『清涼感ぱねぇ!』


 俺は箸を置いて皆に尋ねた。どうにかしてこれを上手く食べる方法は無いかと。


『ミントならミントティーとかが良さそうなの~色も映えると思う~』

『宮天才じゃん! よしヒロキン! それでミントティーに挑戦だ!』


 トモの声に他の奴らも騒ぎ出す。


「そんな小洒落たもん作った事無いんだけど」

『とりあえずそこに熱湯ぶち込めば良いんじゃね?』


 真っ先に嘘松認定してきた『ヤス』の言う通り桃身だけを慎重にコップに移して熱湯を注ぐと、辺りにミントの良い匂いが広がった。そして一口飲んで目を見開く。


「う、美味い……」

『マジで!?』

『謎卵のミントティー爆誕じゃん』

『色は真っピンクだけど味はミントて』

「えっと、皆、とりあえずありがとう。謎卵は茶にして飲むわ」

『飲むんかい! いや~伝説になるな、このスレw』


 トモが笑って皆も笑う。俺も笑ってこれで終わりだとそう、思っていた。


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