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第9話『予想のはるか斜め上を超えてくるスライム』

『だったら今なら内蔵見れるんじゃね!?』


 ヤスが嬉しそうに叫んだ。今や誰よりも一番信じてくれていそうである。


「やってみる。とりあえず掴みやすくなったし」


 そう言って俺は全く匂いの無くなったスライムをまな板に載せて半分に割ってみた。すると中には黄金に輝くツブツブがぎっしりと詰まっている。


『ウニ! これはウニ!』

『スライムは……ウニだった……だと!?』


 これは新しい発見だ。どこかで是非とも使いたいが、今はそれどころではない。これが果たしてこのまま食べる事が出来るのかどうか、である。


「よし、食べよう」

『勇者! ヒロキンマジ勇者!』


 包丁を箸に持ちかえた俺にヤスが興奮したように叫ぶが、そんなヤスとは打って変わって宮とトモは慎重な声で言う。


『一応、火を通してからの方が良いと思うの~』

『宮の言う通りだぞ。万が一食中毒起こしたらスライムの血清なんかどこにも無いんだからな?』

「そ、そっか。それじゃあ揚げてみようかな」


 流石に揚げたらおかしな菌は死ぬだろう。そんな事を考えながら俺は万が一に備えて冷蔵庫の外に出しておいた卵を使ってバッター液を作った。


 そして中身のウニっぽい所にパン粉をまぶして一気に油の中に放り込む。


 するとジュワっと揚げ物の小気味よい音がして、辺りに甘い香りが漂い始めた。


「何か甘い匂いがする」

『甘い? 砂糖的な? それとも果物的な?』

「いや、晩ごはん的な甘さ」

『砂糖とかみりん系って事か。スライムはもしかして調味料なのか?』

『スライムの謎がどんどん深まるんだけど!?』

『今回はなに? 今北産業』

『今回はスライムで実はスライムは卵の殻かもしれないしチョークかもしれないんだけど、中身はウニで味は調味料かもしれないって感じ』

『www ぜんっぜん分かんねぇ! アーカイブ見るわ』


 何だかこのスレの住人がどんどん増えていくが、おかげで色んな見解が聞けて助かる。


 やがてカラリと上がったスライムからは、得も言われぬ良い匂いがしていた。


「では、実食!」

『うおぉぉぉ! 早く早く!』


 そこそこデカい熱々のスライムを覚悟して齧ると、口の中一杯に広がるこれは……。


「……え、柚子味噌」


 その一言に皆が一斉に叫んだ。


『ねぇ、どういう事ぉぉ!? あんたさっき砂糖とかみりんっぽいって言ったじゃーん!』


 それは俺が聞きたい。この匂いと味のマッチングのしなさは異常だろう!


 けれど食べられない事はない。


『やべぇ! 今すぐヒロキンとこ行きてぇ!』

『俺も。こんなにも誰かとオフ会したいと思ったのは生まれて初めてだわ』

『スライム食べるとか夢じゃん! 異世界ファンタジーの王道じゃん! 羨ましい!』

「オフ会か。憧れだな。いつかしたいな」

『だな! その時にヒロキンの鼻と味覚がバカなのかどうかがはっきりするな!』

「俺の鼻も舌もまともだわ!」


 今回もどうにか食材らしきものを無駄にはせずにすんだようだ。


 俺はすっかり変わり果てたみりん砂糖の香りの柚子味噌を、口いっぱい頬張りながら考える。どうせなら大根とかにつけて食いたかった。

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