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第11話『私の詠唱は厨二系』

 翌日。


「さて! それじゃあ行きますか!」


 私は狩りの道具をリュックに詰めて玄関にしっかりと鍵をかけた。


 隣には祭服を着たルーンがいる。こう見えてルーンは世界最年少の神官の技能を習得しているのだ!


 未だにあちこちからうちの教会に来ないかと誘われているが、何故かルーンはいつも首を縦に振らない。私が心配だと言って。なんて可愛い弟なのか!


「姉ちゃん、絶対に一人で行動しないでね? 絶対だからね?」

「分かってるって! それじゃ、まずはスライムからね!」


 そう言って私達は近所のスライムがよく出る山へと出かけた。


 ところが、もう狩り尽くされた後なのか、そこには小さな真っ青のスライムしか居ない。


「良かったじゃん。これぐらいなら一人で狩れるんじゃないの?」

「た、多分ね。ルーンはゴブリン見に行ってくれていいわよ」

「そう? 本当に大丈夫?」

「大丈夫だってば! ほら、行った行った!」


 私は渋るルーンの背中を軽く押して渋々ゴブリン生息地帯に向かったルーンの背中を見届けると、目の前のスライムに向き直る。


 スライムはこう見えて頑丈だ。あのプルプルした外見に騙されて何度痛い目を見たことか!


 私は杖を構えて意識を集中させた。スライムを倒す時はとにかく勢いであのプルプルを蒸発させなければならない。


 何故ならスライムは自分の危機を察知すると、嫌な匂いを辺りに撒き散らかして仲間たちに危険を知らせるからだ。そうなる前に一気に焼き尽くす。それに限る。


「紅蓮の理よ、我が詠に応えよ。灼熱を纏いし紅の牙よ、あの愚昧なる粘体を灰すら残さず焼き尽くせ——!」


 セリフと共に杖を掲げると、スライムの周りに何故か火種が散らばった。それに驚いたスライムがすぐさま異臭を放ち始める。


「あぁぁ!!! そこじゃない! もうちょっと右! 右だってば! それ左でしょ!? 臭い臭いっっ!」


 私が放った火種は私の言葉にオロオロしながらスライムの周りを回っている。その間にも危険を察知したスライムがとうとう悪臭を放ち始めた。


 そしてスライムは何を思ったか火の魔の手から逃れようと、勢いよくこちらに飛びかかってきたのだ。


「ぎゃぁっ! こっち来ないでっ!」


 それに驚いて勢いよく杖を振り下ろすと、その杖が思い切りスライムの顔面を打つ。その途端スライムは色味を失って水色になるとポトリと落ちた。悪臭を放ちながら。どうやら無事に倒したようだ。


 私は額の汗を拭いながら一仕事終えたとばかりにホッと息をつく。


「ふぅ……どうにか成功したわ。とりあえず臭いから早く袋に詰めよ。良かった。念の為ルーンに防臭効果かけておいてもらって」


 まぁこうなる事は最初から分かっていた事である。細かい網状の袋に落ちたスライムを枝で拾い上げて放り込むと、匂いは綺麗さっぱり無くなる。


 辺りを見渡すと今の私達の戦いを見て恐れを成したのか、スライムは姿を消していた。


 そこへルーンが3匹のゴブリンを持って戻って来る。


「姉ちゃん、どうだった?」

「やったわ!」


 そう言って掲げた袋の中身を見てルーンはがっくりと項垂れた。


「失敗してるじゃん。今日は何で倒したの」

「杖で殴った」

「……そう」


 私の答えを聞いて悲しい顔をしたルーンは、私の手から袋を取るともう一度念入りに防臭魔法をかけている。


 それから家に帰った私達は、戦利品をテーブルの上に並べて悩んでいた。


「僕はね、いきなりゴブリンは無いと思うんだ」

「どうして?」

「だってさ、あの料理見ても分かるけど、明らかにこの世界の食べ物じゃなかったし食材ではなかったよね?」

「確かに」

「冷蔵庫の向こう側がどんな世界なのか分からないけどさ、いきなり冷蔵庫にゴブリンがそのまま入ってたら怖くない?」


 ルーンの言葉を聞いて私は想像してみた。冷蔵庫の中にある日急に見たことも無い生物の死体が入っていたら……と。そして想像して青ざめる。


「怖いわね!」

「うん。でもだからと言って姉ちゃんが狩ってきたスライムもヤバいよね?」

「どうして?」

「臭いでしょ。それは単純に嫌がらせじゃない?」

「……そうね。どうする? 何か対価が無いと神様はあの料理を送ってくれないわよ?」

「あれはやっぱり対価なのかなぁ?」

「それ以外に何があるの! 雛は居なかったでしょ!?」


 あの後もルーンはずっと雛を探していたが、結局見つからなかった。ということは、冷蔵庫の神はあの卵を美味しく頂いたに違いない。


「居なかったけどさ……果たして向こうは対価と思ってくれてるのかなぁ?」

「そこは何とも言えないけど、少なくとも私は感謝の気持ちを込めてこのゴブリンかスライムをあの冷蔵庫に入れようと思っている!」

「いや、思っている! とかって力説されてもね。ありがた迷惑って事もあるんだから。ま、でもやってみない事には分からないか」

「そうよ。あんたはいっつも考えすぎなのよ。神の思し召しだと思って。ね?」

「……どちらかと言うとこれは神への冒涜だよ」


 そう言ってルーンはゴブリンと臭いスライムを指さした。確かにどちらもあまり冷蔵庫に入れるようなものではないが、仕方ない。これしかうちから送れる物が無いのだから。


 こうして私達は散々話し合った結果、今回はスライムを入れる事にした。要らなければ捨てれば良いのだ。むしろ臭いスライムはこちらでも食べないのだから。


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