「直径4センチってとこかな。手触りは結構ヌメってる。匂いは……無いな。あと何かブヨブヨ」
『ほら触手じゃん! 一本? 何本もある!?』
「ちょっと待って。三本ある」
俺はそう言って床に触手を三本並べてカメラに収めていく。
『で、今回はどう料理する!?』
「なぁ、ヤスは何でそんな楽しそうなの」
『え? だってめっちゃ楽しいから! あー、会社爆発しねぇかな! 最後まで見たい~!』
こいつ、会社員なのか。何だかそんな事に驚きながらとりあえず触手らしきものをキッチンへと運ぼうとしたのだが……。
「あ、ちょっと待って、持てない。めっちゃ滑るんだけど!」
冷蔵庫から出した時はまだ持てたのに、冷蔵庫から出した途端に持ち上げようとするとヌルヌルで持てない。まるで鰻のような滑りを見せる触手に四苦八苦していると、宮が言った。
『もしかすると冷えてるとヌメらないとか~?』
『かもな。冷蔵庫から出した途端にそんな掴めないほど滑るんだろ?』
「うん」
こんな滑る物をどうやって調理しろと言うのか。
『ちょっといい? それさ、牛のホルモンみたいに塩もみとかしてみたらどうだろう?』
「塩もみ?」
『そう。匂いは無いみたいだけど、ヌメリヤバそうだからさ。重曹とかあるんならそれでもいいし』
『なんだよ、詳しいじゃん』
『俺、板前』
「マジか! レクチャー頼む!」
この前は猟師が居たし、このスレには一体どんな奴らが集っているのか。
しかしこれは有り難い。俺はゴクリと息を呑んで板前の言う通りに掃除用の重曹をバケツに入れた。そこへ触手らしきものを入れてごしごしと揉んでいく。
「お? お?」
『どう? ヌルヌル取れた?』
「何か……んん?」
さっきからどんどん小さくなっているような気が……する?
一旦バケツから取り出すと、それは確かに一回り小さくなっている。それには皆も気づいたようだ。
『重曹で縮む……だと!? つまり!?』
『ナメクジなの~?』
『え、待って! 触手ってナメクジなん!?』
『gkbr』
『ナメクジだったら食うの無理じゃね? 寄生虫いたよな?』
『それをあえて食べるのがヒロキンじゃん! な?』
「いや、俺も食いたくねぇわ。でも食材なんもねぇんだわ」
ついでに給料日前で金もねぇんだわ。そんな言葉を飲み込んで俺はすっかりヌメリが取れた触手をバケツから取り出してキッチンに放り上げる。
「で、こっからどうしたらいい? 板前」
『いや、俺もナメクジは食べた事ないな。てか、危ないだろ』
『一応、茹でると食べられるっぽいけど。酢の物とか』
「酢の物!? これを!? どんな量になるんだよ!?」
俺の視線とカメラの先にはドロリと触手が横たわっている。
「とりあえず端っこ食ってみるか」
『おお! さすがヒロキン! マジ勇者!』
『ヤス、お前仕事戻らなくて良いのかよ?』
『うん。お腹痛いって早退してきた! テヘペロ!』
『……こんな社員の居る会社大丈夫なのかよ』
皆の声を聞きながら触手をつまみ上げると、キッチンバサミで端っこを切ってみた。
すると——。
「な、なになになに!? 何か出てきたんだけど!?」
触手を切った途端、中から粘度のある白い物が溢れ出してきた。俺はそれをボールで受け止めて最後に触手を絞り上げる。
『こ、これは』
『粘土みたいなの~』
『触手は粘土! マジウケる!』
『内臓的な物無いの? どうやって動いてんの?』
「分からん。分からんけどこの匂い……」
俺はボールに顔を突っ込んで粘土のような固まりを嗅いでみた。どこかで嗅いだこの香り。これは……。