「いやー! 皆さんのおかげでここまで来ることが出来ました! 本当にありがとうございます! いやー、それにしても随分長い道のりでした。それにそれにっ私の年でダンジョンの最下層に潜れる人間なんてほぼほぼ聞かないですしね! これも一重に私の到底素人とは思えない戦いっぷりと、類まれなる才能のおかげですかね!! いやんママンサンキュー!! それにここまで付き合ってくれた視聴者の皆さんにアイラブユー!!」
<見事に調子に乗ってるなぁ。でも、そういうところちょっと嫌いじゃないかも>
<まぁ、見ててハラハラしたけど楽しかったから別にいっか。これからの活躍期待してるで>
「でしょう? いややっぱ配信者たるもの、何よりエンターテインメントに気を付けてますんで、これからも是非楽しんで行って欲しいな~。なぁーんて!!」
<でもそれはそれとして、やっぱ貴重な十代に一人でダンジョン攻略は見ていて寂しく見えてくるかな>
<もっと同年代と遊ぶことも覚えた方がいいぜ? あと勉強>
<お前さん、話し方に知性がまるで無いもんな。せめてもう少し語彙力を付けた方がええんとちゃうか? 猿でももうちょいまともなこと喋るで? なぁ皆?>
<<<なぁ?>>>
ひ、人がウキウキで鼻を伸ばしてる所にそんな現実を付きつけ無くてもいいじゃん。
私もう昔からこういうキャラだもん。今更変えられないもん。
「ははっ。ま、まぁそんなキッツイ冗談ばっかり言わないでくださいよぉ。やだなぁ、ははは……。あ、そういえば。この奥に何かあるみたいなんですが、一体なんなのかわかりません? ほら、なんかボス部屋的な感じで扉がありますよ?」
話を逸らすために、目の前にある巨大な門を指さしながら言った。
その先には、恐らく禍々しいオーラを放つボスとやらがいるはずだ。
固唾を飲み込みながらも、意を決して扉をこんこんとノックする事にした。
「ご、ごめんくださぁい……。誰かいますぅ? …………あ、あれぇ?」
しかし、返事はない。
恐るおそるドアノブに手をかけ、ゆっくりと引いてみた。
すると――。
「あ、開いちゃったよ……。マジか、えぇ……? 誰かいませんかぁ? 誰もいない感じぃなんですかね? 思わず小声になっちゃった。視聴者の皆さんもね、ここから音声は最小音量でしか読み上げませんのでオッケーですか?」
<オッケー>
ドローンのローボリュームモードを起動して問いかけると、本当に小さい音量でコメントを読み上げてくれた。音声認識って便利だなぁ。
しかし本当に誰もいないんだろうか? これじゃあ空き巣気分だ。
いやいっそここは本当に空き巣になってお宝でも……。不用心に扉に鍵をかけなかったボスが悪いわけでね、これもモンスター対人間の自然の摂理ということで一つ。
「というわけで。ええ皆様、ここからは予定を変更といたしましてボス退治からボスの部屋のお宝を発見していくという形で、はい……」
そうドローンに向かって語りかけていた時だ。
微かにだが、キンという金属音が聞こえたようなそんな気がした気がするような。
耳凝らして注意深く探ってみる。
この部屋は広すぎる上に、奥へと通じる道も発見した。多分そこから聞こえてくるんじゃないんかな?
そろりそろりと忍び足でそちらの方へと近づいていく。無論、道中でお宝の類がない顔ちらりと見ながらだ。
……思ったけどこのドローン結構静かだな。もっとローター音とか響きそうなのに。さすがは最新型だ。
金属音は徐々に徐々にと大きくなっていった。ボコボコした岩の通路を通っていくと奥から光が差してくる。
焦らず落ち着いて、冷や汗を垂らしながらそっと近づいていくと――。
「――っ!?」
そこには信じられないものが立っていた。
「……な、なんだこれ」
視界に飛び込んできたのは、大きな剣だった。
柄の部分から刃先まで全てが真っ黒に染まっており、鍔には赤黒い宝石のような石が埋め込まれている。
そして、私の身長ほどもある全長。
そして何より特徴的なのが、そんな大剣を軽々しく振るう全身真っ黒な鎧で覆われた大男。
……男だよな? あんな怪力で二メートル超えてるんだから男であってるよな?
そう、大男がいた。
そしてそんな大男が剣を振るっている相手、それは――同じく剣を振るっている私と同い歳ぐらいの少年。
あれ? あいつなんか見たことあるぞ? ……あ!? 同じクラスの長谷山じゃないのよ!!
そう、あいつは同じクラスで嫌味ったらしいほどにイケメンなイケメン顔の長谷山琉斗だ。
私イケメンは大好きだけどさ、なんかあいつってイケすかない感じがしてヤなんだよね。
うわー、まさかこんなところでクラスメイトに遭遇するとは思わなかった。
あいつこんな所で何やってんだ?
そうか! 品行方正が売りの真面目な学年一のモテ男の正体は、勉強もせずに放課後にダンジョンで剣を振るう危険人物だったのか!?
もともとイケすかないやつだと思ってたが、まさかこんな危ない野郎だったとは。
全く、まともな高校生は部活やってるか塾に通ってるか家で勉強してるかの時間帯だぜ。
てか何? 剣? 一介の高校生風情が何でそんなもん振り回してんだ?
ちょっとちょっと、どこで手に入れたか知らんが銃刀法違反じゃないか? そりゃモンスター相手には適用されないけども。確実にまともじゃないじゃん。
怖っ、近寄らんとこ。
スマホのカメラを起動して、奴の危険行動の証拠を取る。
「はいチーズ。なんて言ったってこっからじゃ聞こえねえだろうが。へっへっへ、これで明日からのあいつの評判も変わるってもんよ。……あいて!?」
何かが後頭部に直撃した。この金属みたいな硬さは? まさかと思ってそちらを見るとやっぱりドローンが頭にぶつかって来ていた。
<そんなアホな事して無いでこの状況で何ができるかをもっと考えろ。お前はどうしたいんだ? このまま割って入ってあのボス相手に戦うつもりか?>
<あん黒いの。多分やけど、最近発見されたS級モンスターの『ブラックナイト』や。下手なモンスターが束になっても全く歯が立たないぐらいヤバい相手やで。ドラゴンだって避けて通る程の相手や、ド素人のお前じゃ逆立ちしたって勝てへん>
<あの少年に加勢しようにも、恐らく君と彼では実力差があって足を引っ張るだけだ。個人的にはこのまま回れ右して家に帰るべきだ。そして今日のことは忘れて配信業からも足を洗うといい>
いや洗うってなんだよ? 私をチンピラみたいに言いやがって。
とは言え、確かにこれは。ちょっとやばいかな~。命あってのもの種とも言うし、ここは引き下がるべきか?
……いや、本当にそれでいいのか?
有名配信者も言っていた、初回でキメないと後追いに生き残る道は無い、と。
この最下層まで視聴者の助けはあれど、実力でたどり着けた。
だが、過去にそんな配信者は何人もいたはずだ。ちょっと目を引くだけで真新しさはない。
ということは、ここでもし引き返ってしまったら……私の配信業も注目されなくなって華麗なる人気配信者への道も未来永劫閉ざされることになるのでは?!
ま、まずい!? それだけは何としても阻止しなければ……!
だけれども現実問題、あんなヤバい剣の打ち合いに入り込める隙は無いし。
でも、有名になってモテたいし儲けたいし。
引くか行くか?
……ええい、女は度胸だ! 道は一つだけと言い切ってやる!!
「いや私は行きますよ! ここでね、伝説的な活躍を見せて同接を毎回一千万人以上集めて、そしてゆくゆくは大金持ちになるんですぜ!」
なんとかっこいい啖呵だろうか。
これが自分の口から飛び出したと思うと、思わず武者震いすらしてしまうぜ!
<カッコイイ事言ったつもりかも知らないけども、勇気と蛮勇は違うよ?>
<いや、よく考えなくても別にかっこいい事は言ってないぞ。欲望をむき出しにしただけだぞ>
何か言ってる気がするが気にしな~い。
さぁ、いざ行かん!