死んでいる。
それは一目で、それとわかった。
崖下に転がる遺体は、まるで人形のように、手足が奇妙な角度で折れ曲がっている。
頭部からは血が流れ、石に打ち付けられた顔の半分が、ぐしゃりと潰れていた。
その目だけが、生々しく、こちらを見開いたままだ。
まるで何かを訴えるように。
あるいは、何かを呪うように
「……一応、医者呼ぶか?」
「それより警察だろ」
崖の上から、死体を見下ろす村人たち。
その声に、取り乱しや動揺の色はない。
むしろ、安堵にさえ近い。
行方不明が発覚して数時間だが、村の大人たち総出で捜索した末に見つけた“答え”に、誰もがほっとしていた。
――ようやく終わった。
もう山を歩き回らなくて済む。
その安心の方が大きいのだろう。
ましてや、死んだのは村の子ではない。
この村にやってきたのもほんの数日前。
不愛想な子供で、友達もいなかったと聞く。
そのためか、この村で、心からその死を悲しむ者などいなかった。
――親以外は。
当然ながら、親は取り乱すだろうと、村人たちはその姿をちらちらと伺った。
だが、子供の父親は、いつもと変わらず険しい表情で、淡々と隣の村人に尋ねる。
「死亡届は、どこの病院でもらえる?」
その瞬間、空気が凍った。
まだ息がある可能性も捨てきれない。
だが彼はもう、手続きのことを話している。
目の前にあるのは、『自分の子供の死体』なのに。
誰かが小さくつぶやく。
「……不気味な家族だ」
関わらなくてよかった――誰もが、そんな本音を胸に隠した。
向こうから「関わるな」と言われた過去を思い出しながら。
「なあ、あんた。死亡届もなにも、まずは子供を引き上げないと」
さすがに親としてその反応はないだろうと、たまりかねた村人の一人が、父親に進言する。
「ああ、そうか。そうだな。やっぱり警察を呼んもらおう。いや、レスキューか? けど、こんなところまで来てくれるかは疑問が残るな」
父親は、村を『こんな場所』と呼んだ。
その言葉に、怒りすら湧かず、村人たちはただ呆れた。
「あとは警察に任せて帰ろう」
誰かがそういうと、ぞろぞろ村人たちが帰っていく。
そんな中、他の村人たちとは異質な雰囲気をまとう男がじっと父親を見ている。
――鳳髄誠一郎。
それが死んだ子供の父親の名だ。
そしてその誠一郎を見つめていた男の口元が、ゆっくりと吊り上がる。
「面白くなってきた」
男はそう呟くと、子供のように、無邪気な笑みを浮かべた。