鍵谷端哉
ホラー都市伝説
2025年04月21日
公開日
22万字
連載中
【毎日20時更新】
すべては、“あの一家”が来た日から狂い始めた。
人口わずか1400人、地図からも忘れられた山間の村に、突如として現れたのは、鳳髄(ほうずい)と名乗る資産家一家。
彼らは村外れに異様なほど豪奢な洋館を建て、村人との交流を一切絶ち、ただ静かに、どこか異国めいた暮らしを始めた。
その空気は、誰もが薄々感じ取っていた。
鳳髄家は、何かが“違う”――。
やがて、一家の一人息子・祥太郎の変死体が、崖下で発見される。
村人たちは奇妙なほど淡々と、「不運な事故だった」と言い合い、鳳髄家の者たちもまた、まるで台本でもあるかのように、感情のない顔で葬儀を済ませた。
――あの一家には、“死”すらも予定調和なのだろうか?
その違和感を見逃さなかったのが、元探偵・氷室響也。
数年前、東京から逃れるようにこの村へ越してきた彼だけが、鳳髄家と、この村に漂う不気味な沈黙の意味を疑い始める。
そして、次に消えたのは、村に住む一人の少年――西山結翔。
まるで“何か”に吸い寄せられるように起こった、ふたつの事件。
氷室が探り当てたのは、村の古層に封じられ、誰も触れようとしなかった“闇”の記憶。
それは、開けてはならない扉だった。
彼が目を逸らさなければよかったと後悔するのは、もう少し先のことになる。