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第2話 CEOと結婚だと?

朝、目が覚めたら電子ケトルサイズ……いや、メロン2個分くらいの猫耳に金髪で碧い瞳でフランス人形のように可愛い見た目だが関西弁のような方言ごりごりのシェリという女の子が現れた。


アイドルにも二次元にも興味がない、CEOや御曹司、芸能人など普通に生活したら知り合えない相手との恋愛や玉の輿にも憧れがない超現実主義な私の前に現れた異質な存在のシェリは『あなたは恋愛シュミレーションのリアルユーザーに選ばれました』と言っている。



茫然としている私に再び話しかけてきた。


「もーリアクション薄いなー。これじゃ、摂れ高ないわー。そんなんじゃ笑いも興味ももたへんよ。しっかりしー。」

「……。」

反応の薄さを指摘されたが私はリアクション芸人でもひな壇にいるわけでもないので無言を貫く。


「おもんないなー。も、面倒やから、ちゃっちゃと進めるでね。好きなタイプは?」

「……。」

「黙ってたら分からへんやんか。もーええわ、デフォルトで進めるわ。」

こうして何も言わない私に痺れを切らし、ぶつぶつと言いながら何かを操作しているシェリ。相当なせっかちらしい。


「よし、これで終わりや。朱音ちゃんはCEOの藤堂さんと結婚するまで頑張ってもらうでね!」

「…………。」


「もー、最後くらいなんか言うてよー。設定終わったからもう消えるで。あとは自分で頑張るしかないんやからね。」


「……全く持って意味不明なんですが」


「せやから、CEOの藤堂さんと結婚するまでこの世界から抜け出されへんのやて。」


「あ、そういうの結構です。興味ないんで。」


「あほ、勧誘とちゃうわ。ほんまにやるんやで。」


リアクションや撮れ高を気にするだけあって、ボケたつもりはないがしっかりとツッコミを入れてくるシェリ。



「この世界ってバーチャルなんですか?」

「ん?ちゃうよ。現実世界やけど、キュンラボに出てくるキャラが目の前に現れるんやて。今までと同じように生活しながら、日常生活にキュンラボのキャラたちが現れて、恋をするシンデレラストーリー、めっちゃ甘くてキュンキュンするやろ?」


「あーーー。現実世界なら恋愛せずにそのまま大学卒業して就職するんで結構です。キャラクター出てきても、知り合い止まりで結構ですので。」


「何言うとんの。そんなんじゃ、一生クリアできへんやん。」


「や、でも現実世界で過ごせるなら別に無視すれば支障ないので。ほら、ゲームとかってクリアしなくても飽きてプレーしなくなったら中途半端なままでも終わるじゃないですか。そのパターンでいいです。」


ゲーム提供側のシェリはこの言葉が癇に障ったようで捲し立てるように言い放った。


「ほんま、頑固なやっちゃなあ!ええからやれっちゅうに!このままやったら、この話終わってまうやろが!これ、毎日のミッション。起きたら回すん。やらへんかったら、うちが回すからな!!」


私のつれない態度にシェリは少し声を荒げていたが、話にならないと消えてしまった。



安っぽいハートのシールが貼られたポケットWifiのようなものがベッドの上に置かれている。


(何なのこれ、怪しすぎるから相手にしないでおこう……。)



☆☆☆☆☆



こうして私は2週間ミッションを回すこともせず、ブーブーとうるさくなるwifi端末のような物も徹底的に無視し続けて日常生活を送っていた。端末はあまりにもうるさいので、ブランケットで何重にもぐるぐる巻きにしてクローゼットの一番奥に押し込んだ。



そんなある日、知らない番号から電話がかかってくる。登録していない番号は無視と決めていたのでそのままカバンの中に入れようとすると触れてもいないのに通話の画面へと変わった。


「おい、朱音。どれだけ俺を待たせれば気が済むんだ」


(は……?)


「そこにいるんだろ、出ろ。そして話を聞け。」

身元不明の電話の主は応答するように呼びかけている。何故か通話音量最大になっていて周りにも声が漏れている。


周りの視線が痛いので、音量を下げてスマホに耳をあてて話をすることにした。

「あ、あの……どちらさまでしょうか?」


「俺だよ、藤堂だよ。」


「……どちらの藤堂様でしょうか?」


「あーーいらつく。社長の藤堂だよ。」


社長の藤堂……。誰だ、聞き覚えがない。あのロールケーキの会社か?違う、あれは堂島だ。藤堂、藤堂、藤堂……。


「お前の結婚相手の藤堂だよ!シェリが来ただろう!!!」

シェリという言葉で思い出した。確かCEOと結婚がどうとか言っていた。だけど、意味が分からず怪しすぎるので無視を続けていたのだった。


「その件でしたら辞退させてください。」


「いや、採用面接じゃねえんだよ。内定とかじゃなくて、これ、決定事項だから。だからさっさと動け。お前が何もしないから、俺はずっと出待ちしてるんだからな。ギャラ発生しないじゃないか」


「…………。」


(尺とかギャラとかここの人たちはこだわり強いな……。それとツッコミは必須スキルなの?)


「ギャラは他の開発者や大元と交渉してください。藤堂さんは他のユーザーを喜ばせることを頑張ってください。それでは。」


これ以上関わりたくない私が電話を切ろうとすると、自分の世代ではないがトレンドドラマで聞いたことのある台詞が飛んできた。


「ちょ、待てよ」


「……。」


残念ながら私はときめかない。


「シェリ、やれ。」

藤堂は近くにいるであろうシェリに何かを支持する。やれとは抹殺でもされるのだろうか。


「はーい。強制連動モード発動!」

ロボットでも起動するのか、耳馴染みのない言葉を発しているシェリ。


「いいか、よく聞け。お前に強制モードを発動した。ミッションがクリアするまでお前は大学を卒業することができない。やらなかったら、ばあさんになるまでずっと留年だ。50年留年の大学生なんてさぞかし目立つだろうな。あと何かしら行動を起こさないと、ときめき不足で体力を消耗して、とてつもなくトイレに行きたくなる下痢体質にしておいた。学力と健康を手に入れたかったら必死にクリアを目指すことだな」


「……。」


「まあいい。お前は明日、教授に呼ばれて前期の単位が取れていないことを知らされる。それなら少しは信じるだろう?ちゃんと動いて、俺にギャラ発生させろよ」


(……。CEOのくせにセコイな。)


そんなことを思っていたが、翌日私は予言通り教授に単位が取れていないことを通告される。そしてその翌日、2週間以上放置したツケで猛烈な腹痛に襲われトイレから離れられなくなった。


(藤堂のやろう……。)


こうしてトキメキどころか憎しみしか湧いてこない藤堂と私は結婚に向けてアクションを起こさなければいけなくなった。




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