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第4話 ラブレターなんて送らない

ピピピッピピピッ---


この日、スマホのアラームで起きた私は、渋々ガチャを回す。今日のアイテムはお茶のペットボトルだった。


(……差し入れ?ちょうど喉が渇いているから私が飲みたいんだけど……。)

そう思ったが開けることはせず、そのままにした。この1週間で三度の下痢を催しアイテムを自分のために使うとどうなるか心得たのだ。


どうすればこの面倒くさい結婚ミッションを最短で終わらせられるか、そのことばかり考えていた。すぐにでも平穏な日常と健康な身体を取り戻したい。


思案の末、私は最初のガチャで手に入れた便箋を取り出し藤堂に手紙を書いた。

手紙を三つ折りにし、ラムチャに記載されてる藤堂の会社名と氏名を正確に書き記し、郵便ポストにその手紙を投函した。


(これで藤堂がいい反応を見せればクリアできるかも。)

微かな期待を抱きつつ大学へと向かった。



☆☆☆☆☆


「社長、見覚えのない差出人から手紙がきているのですがお心当たりありますか?」


秘書から手渡された手紙は、明らかにビジネスではないハートがいっぱい描かれたものだった。中高生が手紙交換にでも使いそうなデザインで奇妙に思い差出人名を見ると、服部朱音と書かれている。


(あの女、ついに俺とのミッションをやる気になったな。)


「分かった、これは預かっておく。下がっていいぞ」

そう言って部屋に一人になったところで封を切り、中身を確認する。あの強情な女がどんな手紙を寄こしてくるか気になった。


「ふふふ、朱音のやつ、古風な手段で来たな。デートの誘いか?それとも自己紹介でもしてくるのか?」


独り言を呟きながら中身を明けると、三つ折りのハート柄の便箋と無地のA4の紙が2枚、それと切手が貼ってある返信用封筒が入っていた。


「……返信用封筒?」


奇妙に思いながらも一つずつ確認していく。


ハート柄の便箋には、殴り書きのメモのような雑な字でこう記されていた。


”内容をご確認いただけましたら、サインと印をし返信願います。服部朱音”



意味が分からず無地の紙を開けてみる。


「な、なんじゃこりゃーーーー!!!」




☆☆☆☆☆


手紙を投函してから3日後、部屋にいると私のスマホが鳴り出した。勝手に通話画面になったので相手は藤堂だ。


「おい、これはなんだ!!!」


電話の向こうから雷が落ちたような怒号が響いた。


「何って…ミッションクリアするために考えてやったことです。」


「何がクリアだよ、『契約結婚の誓約書』って俺を馬鹿にしているのか!!」


「結婚が条件なら、契約結婚も結婚だと思いまして」


「馬鹿かお前は!これは女性たちにキュンを与える”キュンラボ”のミッションだぞ。何、形だけとか愛のない結婚で終わらせようとしているんだよ。ふざけるな」


(…………。やっぱり恋愛シュミレーションゲームで契約結婚は無理か。)


「そもそも結婚願望もないのに結婚って言われましても……」


「だからそれはこれから距離を縮めてお互いを知ってから芽生えてくるものだろ。結婚したいから付き合うもんじゃないんだよ、恋愛は!分かったか!!!」


ツーツーツー


藤堂は言いたいことは言い切ったのか私の返事を待たずに電話を切った。

一筋縄ではいかない気がしていたが、このゲームをクリアするには、愛がなくてはいけないのだろうか。



その直後、久々にシェリが姿を見せた。


「朱音たん、聞きましたよ。もー何やっとるん?」


「……やっぱりダメ?」


「当たり前や!」

シェリの声にも若干の呆れと怒りが混じっていた。


「思いっきりルール違反やて、恋愛ゲームってのは利用者に恋愛のときめきの提供や幸せにするためにあるやで、それがキュンもない形式上の結婚で終わりってそんな結末あるわけないやろ」


「次、こんなことしたらタダじゃおかんからな、覚えとき!!!」

シェリはそう言うと姿を消した。



藤堂とシェリの言葉を反芻していた。藤堂の怒り、そしてシェリの諭すような言葉。


(恋愛ねー、ときめきねー。)


私は、恋愛に興味がないわけではない。高校時代に好きだった人もいるし、1か月で終わったが付き合った人もいる。ただ藤堂と恋愛、結婚となると想像ができなかった。私は、前途多難なリアル恋愛ゲームに深くため息をついた。



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