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第5話 形勢逆転でガッツポーズの朱音

数日後、私は誰もいない部屋で少し大きめの声で話しかける。

「シェリさーーん、聞きたいことがあるけどいる?」


ポンッ


どこからともなくシェリが姿を表した。


「どうしたん?朱音から呼び出すなんて珍しいね」


メロン2個分の金髪に碧い瞳のフランス人形に猫耳のシェリが現れた。メロン2個分の相手って誰やねん。こんな非現実的なこと嫌いやねんけど。

シェリの影響かにわか関西弁になっている自分がいたが大事なのはそこではない。


「あのさ、教えて欲しいことがあるんだけど。私のゲームクリアは藤堂CEOとの結婚だったよね。それでそのために行動しないとときめき不足でお腹がゆるくなる体質になっていて強制的に動かすしかないって言ってたよね」

下痢という言葉を使うのが嫌でお腹が緩くなると濁した。まあ、どちらにしても意味は同じなんだが……。


「そやで」


「そのときめきの回復は藤堂CEOだけなの?他の人にときめいたら回復するの?」


「設定上はCEOだけやな」


「でも、シェリ前に言ってたよね。契約結婚を提案した時に『恋愛ゲームは利用者に恋愛のときめきの提供や幸せにするためにある』って」


「ああ、言うたな」


「それって矛盾していない?利用者を幸せにしたいと言いつつ、ゲーム内の藤堂CEOのときめきにだけ反応するってそんなの実恋愛で誰も幸せに出来ないじゃん。」


「…………何が言いたいん?」


「だから、利用者へ本当に恋愛の幸せを提供したいのなら最初からこの人だけって決めつけずに他にいいと思った人に対してときめいたり恋に落ちたら応援するのが筋ではないかと思うの。そうしないと現実世界で幸せな恋愛をしているユーザーは誰一人いなくなるよ。リアルモニターとか言うくらいなら尚更だよ。だから私が他の人を好きになったり、アプローチされてときめきを感じたら体力が回復するように設定変更して欲しいの。」


シェリは腕組をして考えている。

「……うん。確かに一理あるな。実恋愛に反応しなくなったら男女の恋なんて発展しないし、この世の中CEOや御曹司だらけになる」


(よし、シェリが傾くかもしれない。チャンスだ!!!)

私は畳みかけるようにシェリに力説を続けた。


「CEOや御曹司って希少価値が高いから憧れるんだよ。それがCEO、御曹司だらけだったら世の中にいるサラリーマンと変わらないよ。希少性が失われる。ユーザーの幸せを第一に考える良心的なアプリだったら、アプリのキャラクター内だけでなく全ての恋に反応させるべきだよ!!!シェリは恋のキューピッドなんでしょ?それなら、実恋愛のキューピットになるくらい頼りになる存在でいて欲しいんだよ。」


「そう、私はシェリ。フランス語で大切な人、恋人って意味の可愛い恋愛キューピッド……」


(この調子だ!傾け!!!!)

私は心の中で、神に祈る気持ちでシェリの言葉を待った。


「よし、なら設定変更しよう。他の人でもときめきを感じたら体力回復や。結婚も一人と決めつけない」


「やったああああ!!!さすがシェリ。ところでシェリってそんな力あるの?」


「何言うとん。私がこのアプリの経営者や。」


(!!!シェリもリアルCEOなん、いや実体ないから仮想世界のCEO?)

偉大なるCEOシェリのおかげでこうして私の体質設定は変更された。



☆☆☆☆☆


「はあああああ!?なんでそうなった?おかしいだろ」

シェリの変更を聞いた藤堂はまたしても怒声をあげて電話をしてきた。


「せやからユーザーの幸せ願ってこうしたんやって」

「シェリはこの女に丸め込まれたんですよ、思い直してください。俺は絶対に認めないからな」

藤堂は変更したことにしつこく異論を唱え続ける。


「あれ?もしかして自信がないから必死になっているの?そうだよね、あなたは自分のことを想ってくれている人しか知らないもんね。あなたに振り向いてもらおうと頑張っている女性に笑顔を振り向いたり甘いセリフを言うことしかできないもんね。自分のことを想っていない相手を振り向かせるほどのスキルはないものね。」


「俺を馬鹿にしているのか!!!出来ないわけないだろう!」

私が少し挑発するように言うと、藤堂は癪に障ったのかすぐに乗ってきた。


「それはどうかな?出来るなら体質が変わろうと、私があなたに夢中になるように仕向ければいい話じゃないの。それをしつこく反論するって自信なくて焦っているようにしか見えないけど。」


「この野郎ーーー。言わせておけば、離れられないくらい夢中にさせてやるよ!!!」


「やれるもんならやってみなさいよ、体質変更に問題はないわよね」

「ああ、望むところだよ!」



(うちに丸め込まれたって言うてたけど、藤堂あんたも朱音の口車に乗せられてるで……)


シェリは2人のやり取りを黙って聞いていた。そしてこの2人が本当に恋愛に発展するのか疑問でしょうがなかった。


藤堂は朱音に煽られたことで絶対に夢中にさせてやるとメラメラと闘志を燃やしている。


(よし、一歩前進!なんで興味がない相手に私だけが振り向いてもらおうと頑張らなくちゃいけないのよ。)


ときめきとはかけ離れた二人の関係がまた一つ変化したのであった。


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