「なぁ朱音ちゃん、朱音ちゃんは安田君のこと好きなん?」
お風呂上りドライヤーで髪を乾かし終えた私に、シェリが話しかけてきた。
「ん?安田?好きとかじゃないけど……」
「でも自分から誘うってことは好きでデートなんちゃうの?」
「そういうわけじゃないよ。男女が2人で出かける=デートとは限らないよ」
シェリは考え込んで何も言わなかった。
「そういえばシェリってなんで関西弁なの?見た目とのギャップ激しいよね。」
「ん?この喋り方?関西弁ってなんか親しみあるしかっこええやん?めっちゃ好きやねんとか憧れるわー。自然と使いこなしたいんよ。」
(あ……。つまり、にわか関西弁ってことか。)
「好きとぉー。とかも可愛いやんな。」
「語尾に『と』は、福岡弁じゃないっけ?」
不覚にもシェリの存在に慣れて普通に会話している自分がいる。こうして私とシェリは方言で盛り上がった。
☆☆☆
「藤堂、何ぼーっとしとんねん。このままやと、朱音が他の男に取られるで!朱音、今度デート行くやで。しかも誘われたんとちゃうで。自分から誘ってんで!」
「はああああ!?なんだって?」
シェリに話を聞き、俺はまたしても大きな声で叫んだ。
バタバタバタバタ…………コンコンッ
「あ、あの社長、どうかなさいましたか?」
秘書の白雪が慌ててノックして入ってきた。
「すまない。大丈夫だ。」
白雪が出ていったことを確認してからシェリにもう一度話しかける。
「デート……?朱音が?誰とだよ?」
(一体、何がどうなっているんだ?この俺には自分には全く興味を示さなかったのに、あいつからデートに誘ったというのか?)
「せやで。朱音から誘ったなんて今までなかったやん。藤堂、このままやとほんまに手遅れになるで!」
シェリは深刻そうな表情で俺にまくしたててくる。普段からせっかちでサバサバ話すシェリだが、いつも以上に顔が真剣で重大さが伝わってくる。
「なんでこんなことになっているんだ。相手は誰なんだよ!!!」
苛立ちと焦りを隠せずにシェリに詰め寄った。
「同じ学部の安田君っていう同級生やで。」
「は?大学生?同じ学部?なんだそのロマンチックもドラマのような要素もないつまらない展開は。」
「だから朱音はそもそもロマンチックとか夢のような展開求めてないやん?藤堂、それも気づいてなかったん?」
「うっ……。」
「あんたなー、女性をみな一括りしたらあかんで。あんたに面と向かって喧嘩売ってくるような女なんて今までおらんかったやろ?みんながみんな『藤堂さん~』て追いかけてきてくれると思ったら大間違いやで。」
朱音のみならず味方だと思っていたシェリにまで指摘され言葉を失った。
「プロフィールとか座学はええから、まずは目の前の相手ひとりひとりと向き合あわんと、誰も幸せに出来へんで。今のままだといつまでたっても『うち、めっちゃ好きやねん』とか言わないで?」
シェリに言われえたことが的確過ぎて藤堂は胸が痛かった。今まで『俺のことが好きな女性たち』として見てきた。
個々と向き合うことはミッションの時くらいで、そのミッションすらも選択肢によって言う台詞が違うだけでちゃんと向き合ってきたとは言えない。
(『俺は女性たちを喜ばせ男・藤堂』じゃなかったのか……。)
「なあー、今の『うち、めっちゃ好きやねん』ってイントネーション本物っぽくなかった?可愛い?可愛い?」
「…………。」
先程まで真面目なことを言っていたのに、今は『めっちゃ好きやねん』の言い方があってるか気にしているシェリ。そんなシェリの問いかけには答えずに荷物をまとめて外に出た。
「しゃ、社長?どうかしたのですか?」
「悪い。ちょっと所用が出来た。午後には戻る。」
秘書の白雪にそう告げて俺は車を走らせた。