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流星-2



親父が死んですぐに出産シーズンとなり、牧場は大忙しになった。

従業員が俺を含め三人しかいない牧場だ。ほぼ毎日徹夜の作業となった。


10頭出産し終わって残すは期待のファンタジアだけとなったが、なかなか産気づかない。

「今夜は俺一人でいいや、宝田さん瑤子ちゃんは寝てください。」


俺の言葉に宝田は

「ほんまでっか~ほなすんませ~ん」

このお調子物め…


瑤子は

「…………」

またシカトか。生意気な女だ。



ふたりが馬房を去り、ファンタジアと二人きりになった。


俺は10年前ファンタジアが生まれた時の事を思い出した。

ファンタジアの母馬ダンステリアはエリザベス女王杯(当時 GⅠ 京都競馬場 芝2400m)を勝ち、うちの牧場に初めてGⅠ勝ちを与えてくれた名牝。後にも先にもうちの牧場のGⅠ勝ちはそれだけである。

ダンステリアが引退して牧場に帰ってきた時、親父は全財産を担保に入れ金を借り、当時流行っていた高額種牡馬トニービン(凱旋門賞馬)を種付けした。

親父とお袋、家族やスタッフの熱い期待を受けて生まれたのがファンタジアだった。



ダンステリアの初仔という事で話題になり、高額な評価となった。


しかし親父はファンタジアを売らずに、自分が馬主になると言い出したのだ。どんなに馬が走ったとしても馬主は儲からないのはダンステリアの時にわかったはずである。


「親父!!うちは社来ファームのようなデカイ牧場じゃないんだよ!!」


毎日親父と喧嘩したが結局ファンタジアは親父が所有する事となった。


そしてその代償は大きく、トニービンでできた借金を返すために40頭いた繁殖牝馬の半分を売り、スタッフも大幅に解雇する事となった。


しかし何よりも痛かったのは翌年、ダンステリアはシンボリルドルフ(日本競馬至上4頭目の三冠馬)の仔を受胎していたが、突然の心臓発作で死んでしまったのだ。


牧場再建の道は途絶え、俺達はファンタジアに最後の望を託す事となった。



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