「田辺さん…」
この土壇場シーンで飛田社長が僕に話かけてきた。
「はい…?」
「あのドリームメーカーは誰にも期待される事なくターフにデビューしました。
同期同郷のファンタジスタに比べたら評価額だけでも2億以上の開きがありましたよ。
流星の系譜…理想の良血ばかりに目を奪われて、馬本来の魅力を忘れていたような気がします。
このドリームメーカーの血無くして、私の悲願である流星の系譜は完成しません。
【絶対にあきらめない】と言うドリームメーカーの血。
セントサイモンから流れる流星の系譜を…必ず完成させますよ…。」
飛田社長の瞳に一片の曇りもない。
ターフには流星の系譜に凄まじいスパイスになるだろうドリームメーカーが必死に走っている。
絶対にあきらめない走りで…!!
『さぁ200を切ってドリームメーカー先頭!!
後ろから3頭が迫る!!
日本ダービー馬ヴィクトリーロード!!
イギリスダービー馬ファンタジック!!
米国ダービー馬ドラゴンアマゾン!!
中山の坂を駆け昇り…勝負は100を残すばかりだ!!』
(…!?どうしたの…!?)
浦河美幸は坂の入り口で脚を鈍らせたドリームメーカーに違和感を感じた。
(もう限界…?)
直線に入りムチを入れて大爆走で後続から逃げてきた。
あと100m…!!
逃げ切れると確信した直後の失速…!!ドリームメーカーは口を割った…!!
『ドリームメーカーここで失速!!
一気に3頭にかわされる!!
頭ひとつヴィクトリーロード!!
ファンタジックとドラゴンアマゾンも食い下がる!!』
ドリームメーカーは2馬身あったリードから一気に半馬身遅れた。
『もう1頭外から再びブラックハートも来たぞ!!
凄い脚だ!!凄い脚だ!!』
(まだよ…!!まだあなたは衰えてはいないわ!!)
浦河美幸はムチを振り上げた。
(もう一度見せて…赤い爆星…!!)
浦河美幸のムチは力強くドリームメーカーに打たれた。
ウリリリリリーーーーーーーーーーィィィ!!!
『中山の坂をヴィクトリーロードが先頭であがった!!しかし頭ひとつは出ていない!!
ファンタジックもいい脚だ!!
ドラゴンアマゾンも並びかける!!
外からブラックハートが一気にかわしそうだ!!
!?
内から…内から再びドリームメーカー!!
横一線!!5頭横一線!!
5頭横一線でゴーーーーール!!
凄まじいレースとなりました!!
どの馬が勝ったのか!?
まったくわかりません!!』
「勝ったのは!?」
僕の問いに答える人はいない。
それぐらい1着から4着は微妙だった。
すでに掲示板の5着の位置にはドリームメーカーが表示されている。
しばらくして確定が出た。
1着ブラックハート
2着ヴィクトリーロード
3着ドラゴンアマゾン
4着ファンタジック
5着ドリームメーカー
7着ユリノファンタジー
12着ダイヤエスケープ
暮れのグランプリを制したのはブラックハートだった。
日英米のダービー馬対決も一応順位はついたが、これは引き分けに近いだろう。
なにより5年ぶりの復帰レースで差の無い5着に入った10歳馬に観衆の拍手が注がれた。
「田辺さん。来年からあなたもこの感動を味わえますよ。」
涙混じりの飛田社長の言葉は、来年からは観戦者から所有馬を馬主として見守る立場に変わる僕への労いに聞こえた。
そう…来年から僕の馬がターフを走るんだ…!!
栗田と八島と一緒に、夢を追い掛ける…!!
ターフに降りた瑶子さんがドリームメーカーを抱きしめる光景が見える。
それを見ながら来年デビューする2頭の事を思い浮かべた。
まずマルコは、
【ストライクドリーム】
父ニュータイプ
母ヒシアマゾン
欧州三冠馬の血をひく流星の系譜を継ぐ馬。
そしてバリーは、
【ドリームベッセル】
父ラストハリケーン
母サザンウインド
風の一族が日本に大きな風を吹き込む。それは台風のような凄まじい風になるだろう。
僕のスタート地点は…もう目の前だ…!!
「ところで飛田社長?
ドリームメーカーの次走はなにを使いますか?」
僕の問いに飛田社長は目を仁かせて答えた。
「次走ですか~?
地方でいきます。
とっても特殊なレースにね…ハハハ!!
楽しみにしていてください!!」
シーズン4 完