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夢…再び-7



『レースは向こう正面に移って先頭はダイヤエスケープとドリームメーカー!!

その後ろのヴィクトリーロードとはまだ7馬身!!

じわりじわりとファンタジックが位置をあげてくる!!

ブラックハートも外から狙っているぞ!!

残り1000を切ってドラゴンアマゾンが動いた!!』


僕は先頭の2頭の逃げの競い合いに興奮していた。

ダイヤエスケープは並んで力を発揮する馬。

しかしドリームメーカーは並んで力を爆発させる馬だ。

5年前ならばきっともっと競りかけていただろう。


「美幸ちゃんは本当に凄い騎手になったわ…!!」

瑶子さんが呟いた。


八島綾は僕の顔を見て説明をはじめた。

「以前の浦河美幸騎手はドリームメーカーにすべてを委ねて騎乗していて、レース中の仕事は猪突猛進のドリームメーカーの舵を取り、ここ1番で気合エア入れる事でした。

しかし今の浦河騎手は、ドリームメーカーにも気づかれない程の細心の手綱捌きで爆発を抑えています。


田辺社長…わかりますよね?


ドリームメーカーはここからが本領発揮ですよ…!!』


八島綾の言葉が僕には少し大袈裟に聞こえた。

ドリームメーカーは10歳だ。

普通なら引退して種牡馬になり、仔がターフにデビューしていてもおかしくない馬齢だ。

現に今一緒に走っている馬たちは同期の仔達なのだから。


確かに素晴らしい走りを見せているドリームメーカーだが、果たしてピークを失った馬がどこまでこの逃げ競べに【耐えられる】のか?


もしかしたら伝説の馬が10歳にしてこのグランプリを勝ってしまうのか?


僕は先頭の真っ赤な馬を期待と不安が入り混じる気持ちで応援していた。

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(さぁ…残り半分よ!!)


浦河美幸はドリームメーカーの手綱を小刻に操りながら爆発寸前状態でレースを進めてきた。





2年前に出会ったクールモア所有のアイルランド馬、グレイテストヒットの主戦騎手の時にヒントを得た騎乗法だ。

素晴らしい競走能力を持ちながら気性が邪魔して力を発揮できなかったグレイテストヒットは、セン馬になってもその魂をおさめる事はできなかった。

折り合いにはかなりの信頼を獲ていた浦河美幸に回ってきた騎乗だったが、はじめはまったく言う事を聞かないグレイテストヒットに手を焼く日々だった。


気性を抑えるのではなく、気性を制御する騎乗。


浦河美幸の手綱はmm単位での誘導を可能にし、グレイテストヒットは見事イスパーンSやムーランドロンシャンなどのマイル~中距離GⅠを4タイトル手にする事ができたのだ。


(もう少し…もう少しですべてを解き放してあげる…!!)

浦河美幸とドリームメーカーは先頭で残り1000mの標識を過ぎた。


その17馬身後方で、手綱を抑えて期を待つ野田新之助とドラゴンアマゾン。


一時は同期の三田崇や浦河美幸に差を開けられたが、今や日本競馬の第一線で活躍する騎手へと成長した。


特に彼の名を世に知らしめたのは、夏のローカル成績の良さが大きいだろう。

一線級の馬が休養する夏は、どの馬にもチャンスが与えられる。

【チャンスへの嗅覚】が野田新之助を大きくさせた。


野田新之助は1000mの標識を確認した。


ドラゴンアマゾンと共に新たな頂へ…!!


(おっお~!!美幸ちゃんも三田くんもみんな抜いちゃうぞ~ぅ!!)


追い込み馬ドラゴンアマゾンのリミッターが解除された時…凄まじい加速で位置をあげていった。




『残り1000を切ってドリームメーカーが先頭に立った!!

ダイヤエスケープはやや後退!!

残り800通過!!後続も差を詰めてきたぞ!!


先頭ドリームメーカーから3馬身後ろにダイヤエスケープ!!


すぐ後ろ1馬身に3番手ヴィクトリーロード!

ファンタジックも4番手に上がる!!

ブラックハートは現在6番手!!

ドラゴンアマゾンもシンガリから外を突いて一気に8番手あたり!!


間もなく最終コーナーに差し掛かります!!

先頭はドリームメーカー!!』


詰め掛けた大観衆はドリームメーカーの果敢な逃げに熱狂している。

もちろん僕もだ…!!


しかし…ここからが本当の勝負だ。


後ろから迫るのは先行好位抜けのヴィクトリーロードと三田崇。

そして切れ味鋭い電撃の脚を持つファンタジックと原田成二。

烈火の鬼脚ブラックハートと武豊。

漆黒の弾丸ドラゴンアマゾンと野田新之助。


パート1の3国のダービー馬がドリームメーカーを追ってくるのだ。


『さぁ最終コーナーを回り…直線に出たー!!

先頭はドリームメーカー!!

2番手にあがったヴィクトリーロードとはまだ5馬身!!

セーフティーリードになるか!?

ファンタジックも3番手に!!

ブラックハートとドラゴンアマゾンも来たぞ!!』


レースは残り400を切っていた…!!

「コナン!!がんばって!!」

瑶子さんが叫ぶ。

「コナンがんばれ~!!」

遊馬くんも必死に応援している。


ドリームメーカーはまだ先頭!!

しかし…後ろから迫る4つ黒い影が凄まじい脚で差を縮めている…!!


『三冠馬ヴィクトリーロードが一気にドリームメーカーに2馬身まで迫る!!

イギリスダービー馬ファンタジックもその後ろにピッタリついている!!

ブラックハートもすぐその外!!


さぁ!来た来た来たぞドラゴンアマゾン!!

ブラックハートに並ぶ勢い!!


先頭ドリームメーカーはまだ粘る!!

本当にこれが10歳の走りか!?


ヴィクトリーロードは2馬身から縮まらない!!

ファンタジックはヴィクトリーロードに並んだぞ!!

ドラゴンアマゾンもブラックハートをかわしてこれに加わる!!


残り200!!


先頭はドリームメーカー!!

2馬身後ろにヴィクトリーロードとファンタジック、ドラゴンアマゾンが横一線で追っている!!

ブラックハートはちょっと遅れたか!?』


中山の坂で勝負は決まる…!!


いつの間にか僕もドリームメーカーの名を叫んでいた…!!


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