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第17話

 注がれるまなざしから逃れようとして、視線を逸らすのが精一杯だった。


「あっ、あれは加賀谷が、変なことをするせいだって。俺としては、好きで出したんじゃない」

「変なことじゃない。好きだからしただけだ」

「男相手に何やってるんだよ。バカだろ」

「バカでいい。俺は誰かさんみたいに、気持ちを誤魔化したりしない」


(俺は気持ちを誤魔化してなんていない。ただ憧れてるだけ。それなのに――)


 視線を彷徨わせながら、だんまりを決めこむ。Tシャツを掴む胸元から、激しい鼓動が伝わってきた。


「気持ちは誤魔化せても、躰は誤魔化しきれないよな」


 小さく笑った加賀谷が、俺の下半身に自分の下半身を押しつけてきた。その衝撃で躰をくの字にしたけど、すでに遅し。


「いっそのこと、このままふたりで気持ちよくなる?」


 さっきからすごいことをされているというのに、これ以上何をしようと考えているのやら。経験のない俺には、十分に未知だった。


「駄目に決まってるだろ。こんなの、放っておけばいいだけだし」

「笹良の感じてる声をもっと聞きたい。俺の口で気持ちよくしてやるよ」


(ちょっ、加賀谷が俺のを咥えるなんて)


「そそそ、それって……ンンッ」


 頭の中にその映像が流れかけた刹那、またしても加賀谷に唇を塞がれた。今度は舌を絡めることなく、強引に俺の舌を吸いあげる。


「んっ!」


 吸われるたびに、加賀谷の柔らかくてザラザラした舌が俺の舌を包み込み、ぐちゅっという卑猥な音を、わざとたてる。何度もしつこく吸われているうちに、快感がせり上がってきて、いつの間にか自分から舌を出し入れしていた。


「あっあっ、ぁあっ」


 与えられる気持ちよさに、思いきり身を任せてしまう。ふたり分の荒い吐息が体育館の中で静かに響くのを、もう一人の自分が、ドキドキしながら聞き入る。


(ヤバい、止められない……)


「なぁ笹良、もっと気持ちのいいことをしてやるよ」


 吸われていた舌が解放されるなり、告げられた言葉で、はっと我に返った。


「ま、待っ!」


 喉仏をはむっとされて、全身の肌が一気に粟立つ。加賀谷の頭を退けようにも感じさせられると、両腕の力がうまく入らない。首筋を舐める愛撫が、そのまま続行されてしまった。


「かが、やっ、もぅやめろ、って」


 俺としては一生懸命に止めようとしているのに、声が震えるだけじゃなく掠れてしまうせいで、伝わっている気が全然しない。感じさせられるたびに、下半身が痛いくらいに、張りつめていくのがわかった。


 淫らな自分を暴かれるのが恥ずかしくて、眉根を寄せながら嫌がる素振りをする俺を尻目に、加賀谷はTシャツの裾から片手を忍ばせた。


「見た目よりも、細い腰してんのな」


「駄目だって、ほんと無理……。これ以上やめて、くれ」


 胸元に伸ばされた加賀谷の手が、敏感な部分に触れた。胸を疼かせるその動きを感じて、ぎゅっと目を閉じる。


(このまま他にも感じることをされたら、俺はどうなってしまうんだろう。憧れる加賀谷にされて嫌じゃないせいで、どんどん流されてしまう)


「あ、悪い。つい夢中になった」


 首を固定していた片手が外さた。ほっとしたのも束の間、Tシャツから引き抜かれた片手が、俺の頬にそっと触れる。


「笹良を、これ以上泣かせるつもりはなかったんだ。感じさせて、啼かせようとはしたけどな」

「うっ、な、なんだよ、それ」


 頬を濡らす涙を拭われてはじめて、自分がふたたび泣いていたことに気づかされた。

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