翌日の昼休み。また、俺と珠子と山都美琴、豊田凪彦が集まって昼飯を食べていた。
「珠子ちゃんから聞いたよ。不思議研究部に体験入部したんだって?」
山都さんが俺に言う。
「まあな」
「珠子ちゃんが体験入部したからって長岡君まですること無いのに」
「珠子があの部に染まったら困るだろ。だから、俺はあいつらの主張を崩そうとしてるんだ」
「主張を崩す?」
「そうだ。邪馬台国が熊本になんてありえないし、ユニコーンも居ないってな」
「へー、でも邪馬台国がどこにあるかって分かってないし、熊本に絶対無いとは言い切れないんじゃない?」
「まあそうだけど……でも、あいつらと戦えるぐらいには理論武装したい」
「そうなんだ。なんか長岡君の方がすっかり不思議研究部にハマってるように見えるけど」
「はあ?」
「だって、不思議を研究しちゃってるじゃん」
「違う。俺は逆に……」
そう言おうと思ったが、確かにそうかも知れない。
「まあ、いいけど。それで珠子ちゃんはどんな感じだったの?」
「すっごく楽しかった! ユニコーンも見れたし」
「え!? ユニコーン見れたの?」
「写真だけどね」
「写真でユニコーンってめちゃくちゃ凄いけど」
「違うよ、鹿だから」
俺は驚いている山都さんに言った。
「鹿をユニコーンって読んでるの?」
「未確認動物だから便宜そう上呼んでいるらしい」
「へー。そういえば鹿は神の使いなのよ。知ってる?」
「奈良公園の鹿だろ。知ってるよ」
「長岡君、結構物知りだね」
「まあな」
鹿のアニメで知った、とは言えないか。
「おい、長岡。天王寺部長ってどんな人だった?」
豊田が聞いてきた。こいつは美人に興味があるってだけだろうな。
「一言で言えば残念美人だな」
「残念美人?」
「だって。あんなに美人なのに変なことばっかりしてるから」
「ふうくん、部長のこと美人だって思ってたんだ……」
珠子が言う。
「いや、そりゃそうだろ。誰が見たって美人だ。なあ、豊田」
「そうだな。山都さんには及ばないけど」
こいつからしたらそうだろうな。俺には同じぐらい美人に思える。
「うわあ、豊田君が美琴ちゃんを口説いてる」
珠子が言う。
「別に凪彦は口説いては無いわよ。私を美人だって思ってることは知ってるし」
「そうなんだ。よく言われるの?」
「そうね。珠子ちゃんも長岡君に可愛いとか美少女とかよく言われてるんじゃないの?」
「え!? そんなこと言われたの一回も無いよ」
「そうなんだ」
「当たり前だ。今更、珠子に可愛いとか言うかよ」
「ひどーい!」
珠子がむくれた。まあ、その顔は可愛いな。
「あ、今、可愛いって思ったでしょ」
山都さんが言う。なんだ、こいつ、エスパーか。
「え、ふうくん、可愛いって思ったの?」
珠子が聞いてくる。
「思ってないから」
「やっぱりひどーい!」
そう言って、また頬を膨らます。うん、可愛い。
「……珠子ちゃん、今のは自分で可愛いと思ってやったでしょ」
「ち、違うよ……」
そう言いながら珠子の顔は赤くなっている。図星だったようだ。珠子、意外にあざといな。
「ふふ、珠子ちゃん、可愛いじゃない。長岡君も珠子ちゃん、大事にしてやってよ」
「当たり前だ」
珠子は疎遠になった俺に話しかけてくれた恩があるし、何より純粋で騙されやすそうだ。
だからなんとしてでも不思議研究部への入部は阻止ししなくては。
◇◇◇
そう思って部室に行ったのだが、今日は見知らぬ生徒が居た。ショートカットの女子だ。
「あれ?
珠子がその女子に言う。
「珠子? なんでここに?」
「凜佳こそ。私は不思議研究部に体験入部中だよ」
「そうなんだ。実は私、入部しようと思って」
「えー!!」
珠子が驚く。しかし、この生徒は誰なんだ。
「珠子、この人は?」
「
家の関係か。松井珠子の家は熊本では名家だという。だから、政治家とか文化人とかとの交流が多かった。その関係か。
「はじめまして、1年3組の宮本凜佳です。もしかして、珠子の彼氏さん?」
「違うよ。俺は珠子とは幼馴染みだ。1組の長岡藤孝よろしくな」
「よろしく! でも、知らなかったなあ。珠子に仲がいい男子の友達が居るなんて。ニヒヒ」
「もう、からかわないでよ。幼馴染みだけど中学生の時には疎遠になって、高校になってようやく話せるようになったんだから」
「そっか、ごめんごめん。でも、珠子にねえ……珠子も大人になったなあ」
宮本さんは珠子の頭をなでた。まあ、気持ちは分かる。
「私はいいでしょ。それよりも凜佳よ。なんでこの部に?」
「私は……萩先輩とちょっといろいろあって」
「え?」
驚いて俺と珠子は萩先輩を見た。
萩先輩は俺たちから顔をそらす。
「天王寺部長、何があったんですか?」
俺は部長に聞いた。
「なんか遼太郎のやつ、凜佳ちゃんがナンパされているところを助けたんだって」
「え、そうなんですか!?」
珠子が驚いて言った。確かに俺も驚いた。萩先輩、あまりそういうことをしないタイプに見える。第一……弱そうだし。
「でも、凜佳は――」
「珠子、余計なこと言わなくていいからね」
「あ、うん……」
珠子は黙った。なんだろう。あとで聞くか。
「萩先輩、見かけによらず強いんですね」
俺は言った。
「いや、俺も必死だったからな。だからあまり覚えてないんだ」
「え、そうなんですか」
「ああ。もちろん、宮本さんを助けに割って入ったのは覚えてるけど。どう戦ったかの記憶が無くて……」
「なるほど。夢中だったんですね」
「そうかもしれない。気がついたら倒れてて、周りを見たら全員倒していた」
「全員って何人相手だったんですか?」
「3人だ」
「え! 3人を倒したんですか。すごいなあ」
「まあ覚えてないんだけどね」
「で、凜佳ちゃんはその縁でこの部に?」
「うん。何かお礼したいって言ったら部に入らないかって」
勧誘かよ。普通はデートとかそういうお礼を言いそうだけど、萩先輩はこの部が大事なんだな。
「それで入るの?」
「うん。ていうか、もう入ったよ」
そう言って宮本さんは入部届を見せてきた。
「えー! そうなんだ。じゃあ、私も入ろうかな……」
珠子が言い出す。
「ちょっと待て! 俺たちは体験入部中だろ。ちゃんと体験して入るか決めないと」
「う、うん……確かにそうだね」
「よし! じゃあ、今日の部活を始めようか。今日はユニコーンを探します!」
天王寺部長が言った。
「ユニコーン?」
当然、宮本さんは知らない。
「そうだよ。これこれ」
そう言って部長が写真を見せる。
「これって、鹿じゃ……」
「鹿かも知れないし、ユニコーンかも知れない」
「はあ……」
「じゃあ、早速探しに行こう!」
「え? 今からですか?」
「そうだよ。まだ日は高いし、裏山はすぐそこだから大丈夫」
俺たちは部室を出て裏山に向かった。