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第15話 パーティー

「黒田さん、しっかり掴まっててよ」

「う、うん」


 結局、昼休みの後は学校を早退し、俺たちは奥多摩へ向かう事にした。

 昼飯を食べながら、なるべく早く黒田さんをシルヴィの元へ連れて行った方が良いという話になったのだ。


 俺たち学生探索者は授業の一部を免除されている。必要ならいつでも早退が可能だ。教師はあまり良い顔をしなかったが。


 当初、黒田さんには電車で奥多摩まで移動してもらうつもりだったのが、琴美が反対した。


「私は場所が分かってるから大丈夫。リコ先輩はお兄ちゃんが連れて行って上げて」


 そういう訳で、俺のバイクの後ろに乗ってもらう事にしたのだが……。


「け、結構スピード出るんだね……」


 黒田さんはバイクに乗るのは初体験らしく、恐怖感がぬぐえないようで、俺の背中に密着して必死にしがみついた。


 背中にふにょっとした何かが押し付けられ、彼女の手が俺の腰に回される。

 ヘルメットを付けているはずなのに、彼女の吐息が俺の肩越しに伝わってくる気がした。


「ご、ごめんね。運転しにくいよね」

「い、いや大丈夫だよ。そのままで」


 妹を乗せる時には何も感じないのに、同級生の女子だと酷く意識してしまう。

 なんだが下半身がうずいてしまって運転しづらいのだが、彼女に悟られるわけにはいかない。


 精神鍛錬にも似たツーリングの時間だった。


 ●


 無事奥多摩に着き、駅前で琴美を待つ。自動販売機でジュースを買い、ベンチに座って時間を潰す。


 隣の黒田さんに目を向ける。今の彼女は登山用のベージュのパンツに上はやはり登山者が着るような薄緑の上着を着ている。


「黒田さんは山登りが好きなの?」

「私ってよりお父さんかな。登山が好きでよく連れて行ってもらったの。最近はスタンピードの危険性が高いから入山も難しくなってしまったけど」

「そうなんだ……」


 登山用の服なら丈夫そうだし少なくとも俺のジャージ姿よりましか。聞けば、黒田さんはメイジらしく、琴美のような近接職ではない。装備は後回しでも大丈夫そうだ。ちなみに彼女に預けていたジャージの上は今日返してもらった。柔軟剤のいい香りがする。


「その、両親は探索者になるのは反対しなかったの?」

「そりゃあ、反対されたけど、でも今のご時世、素質があるなら少しでもレベルを上げておいた方が、万が一の時に生き残れる可能性が高いって説得したよ。D級までなら義務も無いからね」


 何気なく家族の事を聞いてしまったが、黒田さんは随分と賢いようだ。俺のサイキックを見破るだけの事はある。


「大友君のご両親は?」

「琴美が探索者になるときは、俺も母さんも全力で止めたよ。妹はスタンピードで死んだ父さんの仇を討つんだって聞かなくてね。そのせいで微妙な関係になったけど、俺が探索者になってからは、母さんには琴美だけは絶対に守るって誓ったけど」

「ご、ごめんね。立ち入ったこと聞いて」


 父さんの話をしたせいで、黒田さんは恐縮してしまい、嫌な沈黙が流れた。

 その空気に耐えられず、俺は他の話題を探す。


「そういえば! あの二人組の事、詳しそうだったけどどうやって知ったの」

「え? ああ、ゆり子さんとケイ子さんのこと? 実は事情聴取の時に、個人的に連絡先を教えてくれたの。不安なら連絡くれって。それでその晩にさっそく電話しちゃったんだけど、その時色々相談に乗ってくれて」


 なるほど。彼女の決断の裏にはあの二人の影響があったのか。

 大人しい黒田さんが何を思って探索者の道を極めようとするのか疑問だったが。


「お待たせ! ドーナツ買ってきたから着いたら食べよ!」

「わあ、ありがとう! 琴美ちゃん!」


 そうこうしているうちに、琴美が到着した。あのドーナツは自分用でもあるが、大方シルヴィに食べさせてリアクションが見たいのだろう。


 さて、ここから奥多摩湖まで距離がある。バイクの俺はともかく琴美がどうやって移動するかだな。

 都合の良いことに、駅前にはサイクリングショップがあった。そこで自転車を借りて、琴美はそれで移動する。


「いくら自転車でも結構距離あるよ? 大丈夫琴美ちゃん?」

「へーきだよ、このくらい。私は侍を目指しているから鍛えてるんだ」


 琴美のいう侍とは文字通りの武士ではない。

 探索者は一定以上成長すると、別系統の魔法を覚える。メイジがヒーラーの魔法を覚えたりだ。


 メイジの魔法を習得したファイターの事を、一部の連中は侍と呼ぶ。

 古のコンピューターRPG『ソーサリー』にあやかってのことだ。


 ともかく、黒田さんの懸念ももっともだ。

 俺は一計を案じ、解決策を導き出した。



「お兄ちゃん! これいくらなんでも早すぎない!?」

「何だよ琴美、侍を目指すならそれぐらい耐えて見せろ」

「論点がちょっと違うとおもうけど……」


 俺はバイクのスピードを少し落とし、琴美の自転車と並走していた。

 自転車ではどうやっても時速20kmが限界だ。

 そこで俺はサイコキネシスで自転車そのものを動かす。


 琴美はペダルに足を乗っけているだけで、俺が牽引しているのだ。

 これなら倍の速度を出せる。


「でも傍目から見たら早すぎて絶対変だよぉぉぉ!」

「ツールドフランスの選手はこのくらいのスピードで走る。矛盾はない」

「こんなところにそんな人いないと思うけど……」


 女子二人は文句を言うが、それなら代案を出してほしい所だ。

 そうこうしているうちに、目的地に着いた。バイクから下り、徒歩で向かう。


「な、なんか気持ち悪い」

「高レベルの探索者ならスピードはあんなもんじゃない。今の内から慣れておけ」


 琴美はふらつきながら歩みを進め、黒田さんが体を支えている。

 すぐに広場に着き、UFOが姿を見せる。


「ホ、ホントに空飛ぶ円盤だわ……」


 事前に話はしていたが、黒田さんは愕然としている。


「相変わらずバカやってるわね。アンタたち」


 宇宙船の入り口が開き、シルヴィの肉声が場に響く。


「さて、直接会うのは初めてね。リコさん。私がシルヴィよ」

「は、初めまして、黒田理子です」

「とにかく上がって。ステルスフィールドは張っているけど落ち着かないでしょ」


 シルヴィに促され、俺たちは円盤へとお邪魔した。

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