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第20話 激闘

「ハア!!」


 俺は裂帛の気合を発しながら、フォースを解き放った。

 普段は一点集中して放つ念動力を、衝撃波として放出する。


 サイコブラストと名付けたが、魔物の群れは一気に吹っ飛び、散乱した死体を橋の下へと叩き落とした。


 威力自体はサイコガンに劣るが、範囲が広く、距離を取るのには持ってこいだ。

 続けて俺は両手を目一杯広げ、十字架のようなポーズをとる。


「ハアアアアアア!」


 精神を集中し、全力でフォースを練る。

 辺りに散らばった、ゴブリンの剣、オークの斧、そして連中自身の死骸。

 それらをサイコキネシスで操り、弾丸代わりにお見舞いする。


 剣はゴブリンやダイアウルフを串刺しにし、斧は回転しながら飛び回り、オークの首を次々と刎ねた。死体は砲弾のように着弾した瞬間に辺り一帯を吹っ飛ばす。


 厄介なトロールはサイコガンでヘッドショットする。両手を2丁拳銃のように駆使して次々と仕留め、気分は西部劇のガンマンだ。


 気づけば魔物の一団はあらかた片付いていた。


 ざっと1000体は仕留め、俺が上位適合者なら3つくらいは一気にレベルが上がったかもしれないが、俺はゲームの主人公ではない。


 いくら倒しても経験値は入らない。迷宮外の活動なので記録も残らず、報酬が振り込まれることはない。現実の戦いはこんなもんだ。


(余計なこと考えずに戦闘に集中しなさい。新手が来るわよ!)


 シルヴィに叱られ、俺は橋の先に目を向ける。

 今度はリザードマンの群れか……。湾曲した剣と固い鱗を持つ中級クラスの敵だ。

 オークよりは強いがトロールよりは下だ。


 よく見ればバイパーハウンドも混じっている。しっぽが毒蛇になった犬の魔物だが、ダイアウルフの上位種と言える。

 純粋な戦闘力ではリザードマンの方が上だが素早さが高く、厄介な魔物だ。


 その素早さを生かし、群れを飛び出したバイパーハウンドの一団が俺に迫る。


「お前らにはこいつを食らわしてやる!」


 俺は両手に込めたフォースを、バトル漫画の主人公のように相手に放った。

 念動力が見えない光線として放たれる。


 連中は電気ショックを浴びたかのように体を痙攣させ、そのまま動かなくなった。

 念動光線……サイキックウェーブだ。


 追いついてきたリザードマンの一団にはサイコブラストを放つ。

 吹っ飛んだだけで致命傷を耐えられてはいないが、奴らは剣を落とした。

 その剣を操り、高速回転させながら辺り一帯を薙ぎ払う。


 回転のこぎりのようなそれは、トカゲどもを輪切りにする。

 肉の断面を見て、子供の頃に食べた、ワニのから揚げを思い出す。


(余裕そうね。アンタ……。それより、そろそろ自衛隊が援軍を引き連れて戻って来るわ。いったん引きなさい)

(お、そうか。分かった)


 シルヴィに呆れられるが、思った以上に順調だ。俺はスキップで元居た場所まで戻り、再び身を潜める。


 やがて弾薬を補給した自衛隊が戻ってくる。人数も倍以上に増え、後続もいる様子だ。


 彼らは橋が突破されていないことを不可解に思っていたが、そんなことどうでも良くなる事態が起きた。


 大きな地響きを辺り一帯に響かせながら地竜が群れで出現したのだ!

 これまでに比べて10匹程度と数は少ないが、一体の強さはトロールなどとは比べ者にならない。


 幸いな事に、その巨体が災いして橋を渡るのは一体が限度で、あたかも交通渋滞のようだ。 


 自衛隊は果敢に先頭のドラゴンに向けて攻撃を開始した。

 ロケットランチャーを撃ちまくり、装甲車の機関砲が火を噴く。これにはさしもの地竜と言えど、大ダメージを喰らい、咆哮を上げながらもだえ苦しんだ。


 魔物と言えど、現代兵器は有効だ。無論、地竜の耐久力も尋常ではないので、倒すのに大量の弾薬を必要とする。地上はともかく迷宮内では無理だ。


 俺が援護するまでも無く、地竜は息絶えその場に倒れ伏した。だが、後続が死体を端から突き落とすと、すぐに第2戦が始まった。


 ……この調子ではあっという間に弾薬を使い果たしてしまう。

 俺がそう思った瞬間、後方から爆音が一帯に響き渡った!


 後方から戦車のような車両が何台も並び、砲撃を加えていたのだ!


 あれが機動戦闘車って奴か……。戦車との違いは良く分からないが、その砲弾は地竜の横っ腹に食い込み、その血肉をえぐるように吹き飛ばす。


 地竜の群れは、狭い道路にひしめき合い、自由に身動きがとれない。そこへ機動戦闘車が次々と砲撃を加え、一方的に攻撃を加える。

 さらに戦闘ヘリも到着し、空からミサイルと機関砲が雨のように降り注ぐ。


 結局、地竜の群れは何もできずに殲滅された。

 現代兵器の勝利だった。


 魔物の群れは、これで打ち止めのようだった。

 詳細は不明だが、この方面の防衛は一旦成功したとみていいだろう。


 橋のたもとの自衛官たちも、ほっとしたのか笑顔が見える。

 良かった。少なくとも琴美の心配するようなことにはならずに済みそうだ。


 帰ったらしこたま怒られるとは思うが、這いつくばって赦しを乞うしかないな。

 顔を真っ赤にして叫ぶ琴美の姿が目に浮かんだ。

 ……切腹しろなんて言われないだろうな?


(アキラ! 油断するんじゃないわよ! まだ敵は――)

(――え?)


 シルヴィの叱責が聞こえたその瞬間、戦闘ヘリが突如爆発し、その残骸が湖へと墜落していった。


 反射的に空を見上げると、夜空を何かが飛んでいた。

 その正体は、闇に同化するような、漆黒の巨躯を持つ魔物だった。

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