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第28話 調査

● SIDE:迷宮庁長官


『高校生お手柄! 昨日、東京都奥多摩市にある洞窟型迷宮を、高校生三人のパーティーが攻略、パーティ名、スター・シーカーの3人は驚くべきことに、全員探索者登録して半年のルーキー。レベルも相応で、リーダーの黒田さんによると、不慮の事故でボス部屋にたどり着いてしまったが、偶然ボスが火炎魔法に弱いスライムであった事、万が一を考え攻撃補助のガソリンを所持していたことが――』


「ほお。久しぶりに明るい話題だな。……調査室長、この三人について把握しておるかね?」


 朝から迷宮庁の執務室に入った儂は、コーヒーを口にしながら新聞の3面記事に目を通していた。まず最初に調査室から報告を受けるのが定例化しているので、執務室に訪れていた室長に儂は尋ねた。


「勿論でございます。スター・シーカーの構成員は黒田理子、大友アキラ、大友琴美の3名。いずれもルーキーですが、この中で最初に探索者登録したのは、大友兄妹の妹ですね。適合率は高く、期待の若手です。逆にリーダーの子と兄の方は低適合率で経験も1か月程度です」

「なんと。では実質的に妹のワンマンチームという事かね? ではなぜ彼女がリーダーではないのだ?」

「それは何とも……。パーティ名につきましても特に決めていなかったようで、事前登録はされていませんでした。どうも記者に尋ねられてその場で答えたようで」


 パーティーシステムについては、救助などの際に効率的に行えるように事前登録を推奨しているが義務ではない。パーティー名についても単なる識別番号のようなものだが妙に凝りたがる連中が多い。


 若い子はともかく、いい年をした大人が『暁の剣』だとか『龍炎の盟約』などと自慢げに語る様子を見ると、聞いてるこっちが恥ずかしくなる。


「室長。昨日の彼らの映像は見れるかね?」

「はい。既にメールに添付して送信しておりますのでご確認ください」

「うむ。助かる」


 室長もこういった事には手慣れたもので、儂の動きを先読みしている。

 独創的な発想は不得意だが、官僚の手回しの良さには舌を巻く。

 メールを開き、添付ファイルをクリックして映像ソフトを立ち上げる。


 映像は彼らが中層に入るシーンから始まっていた。少女の一人が、オークに立ち向かうと呆気なく倒す。


「その子が高適合者の大友琴美ですね」

「なるほど。見事な動きだ。納得だ」


 ではもう一人のギャルっぽい子がリーダーの子か。イメージ的には真逆だな。普通は真面目そうで強い子がリーダーをやるだろうに。

 しかし、次にギャルが戦う場面を見ると、儂は評価を一変した。


「うむ。瞬時に敵を見極め魔法で迎撃した。これも見事だな」


 彼らの会話を聞いていると、見た目とは違い、ギャルは頭が良さそうだ。それで彼女がリーダーなのか?

 その後も女の子二人が中心に戦い、唯一の男子は拳銃で牽制はしているが、まともに戦闘には参加していない。妹を戦わせて自身は高みの見物とは何て男だ。


「室長、この男の子は?」

「大友アキラ、この中では最も適合率の低い、近接職ファイターですね」

「……アキラ? どこかで聞いたような?」

「その子は先日、地竜に丸のみにされながら奇跡的に胃袋を破って生還しました。恐らくその件で名前に覚えがあったのでは?」


 儂はその時ハッキリ思い出した。


 ……サイコ戦士アキラ。あのスコッパー苺とやらの推しだ。


 これまで激務で忘れ去っていたが、熟練スコッパーが目を付けていた人物が小規模とはいえ迷宮を攻略した。……これは単なる偶然か?


「大友アキラに関しては、別件で職員から報告が上がっています。曰く、実力を隠している可能性ありと」

「なんと……。しかし彼は低適合なのだろう? それに探索歴も浅い」

「仰る通り、不可解な現象です。探索歴が長ければ、地道に魔物を倒して実力を伸ばすことも可能でしょうが、彼にはそのような記録はありません」


 室長のいうことはもっともだ。どうにも解せんな。

 儂はとにかく映像の続きを見る。


 不用意に未踏破地域に足を踏み入れた彼らは、危うく魔物に包囲されかけていた。

 ここで、例のアキラとやらが殿を務めていた。


 立派な行いだが、最も弱い彼が行うのは不自然だ。実力は妹の方が上だからな。


 彼は銃で反撃しているが、拳銃の割にやけに威力が高い。特殊弾とはいえリザードマンを一撃で倒している。

 ともかく、彼らは逃走に成功し、ボス部屋に迷い込んでしまったようだ。


 その後の展開は新聞に書いてあった通りだ。

 ……それにしても、あのスライムの攻撃を初撃以外は見事にかわしている……いや何というか、寧ろ酸の方が意図的に彼らを避けているような……。


 どこか不自然さを感じた儂は、調査室長に追加の指示を出す。


「室長……済まないが、この映像に不審な点は無いか、解析を進めてくれ」

「それはつまり、何者かが映像に手を加えているとそうお考えで?」


 儂の言葉に、室長は怪訝な顔をする。


「そうだ。可能性は否定できん。……ここだけの話だが、先日のスタンピードは意図的に誘発された可能性がある」

「な、なんと……事実なのですか?」

「現時点では確定的には言えんが、大月に迷宮があるという調査結果はなかったはずだ。防衛省、或いは迷宮庁の調査部隊が隠蔽した可能性もある」


 室長は顔を青褪めながらも、心当たりについて話す。


「……つまり、人革派の影響が政府内部にまで及んでいると?」

「……そう考えたくはないが、慎重を期す必要がある。この少年と関連があるのかは不明だが不審な点は徹底的に洗っておきたい」

「……承知致しました。内密にことを進めます」

「うむ。頼んだぞ」


 室長も事の重大さを認識したのか、定例報告は見送りにして映像解析に乗り出した。それにしても以前から気になっていたサイコ戦士アキラをこんな形で調べることになるとは。


 次の予定までの空き時間を利用して、儂はスコ急のサイトでサイコ戦士アキラについて調べてみた。


 彼らの活躍はそこそこ話題になっていたが、何分規模の小さいダンジョンの攻略の為、トップニュースとはならなかった。

 儂は過去の掲示板を閲覧し、アキラの情報を探る。


 初めに見たイレギュラー個体発生の件、不適切配信の件、いずれの板でもスコッパー苺はアキラの活躍を確信していた。


 この人物は何故そこまで彼を買っているのだろうか?

 もしかして彼の関係者なのでは?

 儂は反射的に受話器を上げ、調査部に内線電話を掛けていた。


「室長、戻ってすぐにすまんな。追加で調べて欲しいことがあるのだ」

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