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第33話 露見

 昼休みになり、琴美と黒田さんが俺の教室に集まって来た。

 いつも3人で昼飯を食べてから早退しているので、そうしているのだが、俺は事の次第を話した。


「……そう。もしかしてあの子、状況の不自然さに気づいたのかもしれないわね」

「そうかな? そんな頭の良さそうな子には見えなかったけど」


 黒田さんは冷静に分析しているが、琴美はやや毒づいた。

 モモの格好は別に校則違反ではないが、うちにギャルの生徒は少ない。

 真面目な琴美にとっては、不良に見えるのかもしれない。


「おつさまです。……3人お揃いですか?」


 そうこうしているうちに、モモがやってきてしまった。


「……C組の白石さんですよね? 私は妹の琴美です」

「そーなの。昨日はありがとね。モモって呼んでいーよ。ウチもコトミンて呼ぶね」


 嫌そうな顔をしながらも、琴美が丁寧に自己紹介すると、モモが馴れ馴れしく応える。琴美のこめかみがピクピク動いているが、俺の手前黙っているようだ。


「サシで話したかったんですけど、その二人なら別にいっか」

「……いつもこの3人で昼飯を食べているんだ。君も一緒にどうだ」

「え、いいんすか? じゃあ話のついでってことで」


 そうして、モモを連れて、たまり場となっている屋上へと向かう。


「先輩いつもこんなところでゴハン食べてんですか? めっちゃ根性ありますね」

「うん? 何の話?」

「知らないんすか? ここ、昔誰か飛び降り自殺したんすよ。それ以来、霊が出るって噂あるんでみんな近寄らないんす」

「ああ、その話か。馬鹿だな、霊なんて非科学的なもん出るわけないだろ。もう21世紀も後半なんだぞ」

「大友君……迷宮には普通にゴーストタイプの魔物も出るわよ」

「あれは魔物であって死者の霊じゃないだろ」

「ふふ。やっぱり先輩、半端ないっすね」


 階段を上がりながらモモを中心にくっちゃべる。黒田さんは呆れていたが、どういう訳かモモは俺を気に入ったようだ。それが気に食わないのか、琴美は黙ったままだ。


「さて、昼飯の前に用件を聞こうか。さっきも言ったが、お礼はもう十分だよ」


 俺がそう言うと、モモは先程とは打って変わって真剣な表情になり、小声で俺に語った。


「先輩。アタシ見たんですよ。先輩がパって消えるところ。痺れてたから意識がもうろうとしてたけど、間違いないっす」


 その言葉に心臓がドクンと跳ねた。胸の内側から冷たいものが広がっていく感覚。

 しまった……。痺れていて息も絶え絶えだったから俺を見る余裕はないと思ってたが、しっかり見ていたのか。


 琴美も黒田さんも気まずそうに俺の様子を伺い、その表情からは緊張が滲み出ている。対応は俺に任せるってことか。


「アタシ、昨日一晩考えたんですけど、気づいちゃったんです。先輩が――」


 黙って彼女の次の言葉を待つ。果たして彼女の目論見は何なのだろうか?


「先輩が、ユニークスキル持ちだって!」


 モモは少し興奮気味にそう言い放った。その目は期待と好奇心で輝いている。

 見られていたと聞いてから、その返答は予想していた。心の中でわずかに安堵のため息をつく。


 都市伝説になっている、レベルに関係なく魔法の使える通称ユニークスキル持ち。

 俺の瞬間移動を見て、彼女がそう判断するのもおかしくはない。

 テレポート自体は帰還魔法として存在するしな。


「……それで、仮に俺がユニークスキル持ちだとして君はどうしたいんだ? みんなに言いふらすのか?」

「まさか! そんなことしないっす! アタシ、先輩にはホント感謝してるんです! ……先輩が助けてくれなかったら、あの子死んでたかもしれないんで」


 そう言いながら、モモは顔を青褪めた。その表情に嘘はなさそうだ。

 最悪の事態を想像したのだろうか、彼女の手が無意識に震えている。


「モモ。結論を言ってくれ? 俺にどうしてほしいんだ?」

「じゃあ、ストレート言いますけど、先輩のパーティーに入れて欲しいんですよ。……アタシの連れはもう迷宮には潜りたくないっていうんで」


 モモがどこか寂し気に言葉を締める。彼女の目に浮かんだ孤独が、意外と胸に刺さる。……仲間に入れろと言ってきたか。ひとまず、もう少し詳しく聞いてみるか。


「別にこの3人以外とは組まないつもりはないが、俺は君の事を何も知らないんだ。探索者として自己紹介してくれないか?」

「ハ、ハイ! ウチはこう見えてもヒーラーです。レベルは3。武器はショットガンを使ってます。勿論、弾は全部特殊弾っす」


 ヒーラーか。ちょうど必要性を感じていたところだが、誰でもいい訳では無い。悪い子ではなさそうだが、もう少し人柄が知りたい。


「それで君は何のために探索者をしているんだ? 金か? それとも名誉の為か?」

「へへ! なんだかバイトの面接みたいっすね! そりゃ勿論、有名になるためっすよ。有名探索者になってチヤホヤされたいっす!」


 モモは恥ずかしげもなく、率直に答えた。

 煩悩塗れの回答だが、ある意味では見た目通りで裏表のない良い子と言えるな。しかし、シルヴィの事を打ち明けるのは、少し危険だな。


(アキラ。アンタの考えている通り、その子は悪い子じゃないけど、現時点で全てを打ち明けるのはやめなさい。アンタに恩義を感じているのは間違いないけど、同時に利用しようとしているわよ。この子)


 俺の見立て通りか。……さて、この問題どう対処しようか?


(二人はどう思う?)

(勿論反対だよ! こんないい加減そうな子、きっと足を引っ張るに決まってる!)

(私はどちらとも言えないわ。ヒーラーは魅力的だし、悪い子じゃない様だけど、どこまで信用していいのか不安だわ)


 テレパシーを通じて二人の意見を聞く。俺も黒田さんと同じだが、ここで断ってテレポートについて言いふらされても困るしな。


 少し悩んだ末に、俺が何を目的に迷宮に潜るのか、話してみる。


「モモ。正直に話してくれてありがとう。今度は俺の番だな。俺が迷宮に潜るのは、迷宮の完全攻略を目指しているからだ」

「せ、先輩……。それマジで言っているんですか?」

「マジだとも。別に世の為、人の為ってわけでもないんだ。俺の夢は宇宙人を探すことなんだ。いいか、モモ。人類が最後に地球以外の星に降り立ったのは、1972年の月面着陸が最後だ。それから50年以上たっても火星にすら人類は行けてないんだ。そして迷宮なんてもんが存在するうちは宇宙開発に予算が――」

「分かったっす。……先輩ってクールな人だと思ってましたけど、内面はホットなんすね」


 俺の雄弁を遮りながら、モモは若干にやつきながら俺の顔を見る。その目には意外な発見をした喜びが浮かんでいる。

 さて、そろそろ核心に迫るか。


「モモ、仮に俺が加入を断った場合、君はどうするんだ? 俺のユニークスキルの事を言いふらすのか?」


 俺の言葉に、空気が一瞬張り詰める。琴美と黒田さんの視線も、モモに集中した。


「まさか! ウチそんな不義理しないっすよ。……でもつい誰かに喋りたくなることはあるかも……」


 心外だ! とでも言いたげにモモは驚いて見せるが、入れてくれなければ言いふらすような口ぶりだな。その目の動きに、わずかな計算高さが見える。


 そっちがその気なら、俺にも考えがある。

 俺はモモの両肩を掴みながら顔を寄せた。


「せ、先輩。結構大胆すね」

「モモ。今から何があっても絶対に動くんじゃないぞ。……動いたら死ぬぞ」

「そ、それってどういう意味――」


 戸惑うモモを無視して、俺はテレポーテーションを発動した。屋上の景色が一瞬でかき消され、俺たちの体はとある場所に転移した。

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