一旦帰宅した俺たちは、渋谷ダンジョンの前で集合していた。
彼女は昨日、迷宮前の預り所に銃を保管していたらしく、それの引き取りも兼ねていた。どのみち彼女の強さを確かめるには初心者向けの渋谷が好都合だ。
「どうすか先輩! コレがウチの愛銃、
「お、おう、そうだな。カッコいいと思うよ」
預り所のカウンターで手続きを済ませたモモは、嬉しそうに大きな銃を抱えて戻ってきた。モモが誇らしげに銃を構えて見せる。勢いに押されてしまったが、別にお世辞ではなく普通にカッコいい銃だ。
散弾銃というと、猟銃のようなイメージがあるが、ベネリM4とやらは、黒一色で軍用ライフルのようにも見える。
銃の横には替えの弾も取り付けられていて、俺のハイポイントとは大違いだ。
「白石さん……それ幾らぐらいするの? すごく高そうだけど……」
「んー、パパに買ってもらったんで詳しく知らないですけど、弾も含めて100万ぐらいじゃないすかね?」
「ひゃ、百万円!?」
黒田さんが遠慮がちに尋ねると、モモは何でもないように答える。
琴美は少し大げさに驚くが、俺は彼女の発したパパとやらが気になっていた。
パパって……実の父親だろうか? それとも……。
俺の微妙な表情を見て、モモがにやつきながら俺に言う。
「先輩、何変な事想像してんすか? 実の親に決まってるじゃないすか。ウチ、こう見えてもまだ清い体ですよ」
その言葉に思わずドキッとしてしまう。琴美と同級生なのだから、おかしな話ではないが、勝手に経験豊富なイメージをしてしまっていた。
「大友君、早く行きましょう。いつもより少し遅く来ているから早くしないと」
「そーだよ。お兄ちゃん。急ごう」
黒田さんの声には少しイライラが混じっている。琴美も忙しなく足を踏み鳴らす。どことなく不機嫌そうな二人にせっつかれ、俺たちは迷宮に入った。
「たしかモモはレベル3だったな。意外とレベルが高いな?」
「うちはこう見えても中位適合ですからね。中学を卒業してからソッコ-で探索者になってゴブリンを撃ちまくったんで」
モモは胸を張りながら答え、その声には少しだけプライドが混じっている。
聞けば、彼女の弾は全て特殊弾らしい。ショットガン用のモノは、拳銃弾より高く、一発2000円はするそうだが、何発持っているのだろうか?
「はじめ200発買ってもらったんすけど、ドンドン弾が減って、報酬もほとんど弾代で消えますね」
モモは少し困ったように笑いながら答えた。計算すると、弾代だけで約40万だ。
その金額の大きさに、改めて驚く。
「その割には随分高そうな防具を身に着けてるな?」
彼女は制服姿のまま、太もも近くまである白のロングブーツと、足と揃いの白いロンググローブを身に着けている。二の腕まであるので、胴回りは無防備だが、手足の保護はばっちりのようだ。
「これはママが買ってくれました。なんかすごい素材みたいで丈夫なんすよ」
モモが何でもない事のようにそう言うが、彼女の実家は随分と太いらしい。
「ま……とにかく行こうか。とにかく実戦で腕を見たい」
そう言って先に進むと、おあつらえ向きにゴブリンが3匹出てきた。
「こんなザコ、ウチに任せてください!」
「あ、待てよ」
俺の静止を無視して、彼女はショットガンを続けざまに撃つ。銃を構える姿勢は安定しており、経験の浅さを感じさせない。
ドンドンドン! と銃声が響くと同時に、ゴブリンの頭が吹っ飛び、後には首なし死体が3体残る。
「どうっすか先輩! 私の腕は!」
「……白石さん。ゴブリンに特殊弾を使ったら、完全に赤字なんじゃないかしら」
「そうだよ。ゴブリンなら私が瞬殺してあげるから勿体ないよ!」
モモは誇らしげに振り返り笑顔を見せる。
しかし、二人の言う通り、雑魚相手に特殊弾を使うのは経済的に問題だ。
それに彼女の本分は回復にあるからな。無理に攻撃する必要はない。
「モモ。戦闘は琴美や黒田さんに任せて、君は補助に回ってほしい」
「そ、そうすか……。スンマセンでした……」
シュンとしてしまうモモ。
それを見兼ねたのか、黒田さんがフォローに入る。
「白石さん。貴方の銃は切り札として取っておいて欲しいの。私の魔法は動きの速い敵には当てづらいと思うし、空を飛ぶ敵とが出たら任せてもいいかな?」
「も、もちろんっす! ハチの巣にしてやりますよ!」
そう、彼女は張り切るも、この後しばらく浅層を進んだが、大抵の魔物は琴美のカトラスの前に瞬殺だ。モモだけでなく、俺や黒田さんも暇していると言っていい。
そんな琴美の活躍を見て、モモは歓声を上げてはしゃぎ出す。
「ウワー、コトミンめっちゃ強いね! ヤバくない! こんな強い子、生で初めて見たんだけど!」
「そ、そう? まだまだ未熟だと思うけど」
「そんな事ないでしょ! 天才剣士コトミンがいれば、前衛は完璧だね!」
琴美は謙遜しているが、本心では嬉しいらしく、鼻の穴が膨らんでいる。
その後も剣の腕前だけでなく、髪がキレイだとか、化粧をしていないのはもったいないだとか散々に褒めちぎり、琴美も満更でも無さそうだ。
「化粧なんてまだ早いんじゃ……」
「なんで? 大人は化粧してないと会社で怒られんだよ? コトミンはもう探索者として働いてんだから大人と変わんないじゃん。良ければウチのコスメの余りあげるから試してみれば」
「ほ、ホント!」
うーむ。見事に琴美はモモの術中にはまっているな。
あれが天然なのか計算なのかイマイチ分からんが、まあシルヴィが悪い子ではないというのだから裏は無いのだろうが。
ともかく、モモの活躍の場所を求めて、俺たちは迷宮の奥に進んだ。