「……それで、今度は嬢ちゃんの銃が欲しいと?」
「そうなんだ。これからを考えると銃はあった方が良いって話になって」
「それはまあ妥当だが、金はあるんだろうな?」
「今は無いけど、大体どの程度かかるのか知りたくてさ。琴美に合う銃も見繕わないといけないし」
俺の話を聞きながら、オヤジさんは大げさに肩をすくめる。
新宿で打ち上げをしていた俺たちだが、モモが熱心に銃の必要性を訴えるので、帰りに渋谷に立ち寄ることにしたのだ。
「アタシ的にはコトミンにはリボルバーが似合うと思うんだよね。メインは剣なんだから、飛行系の敵とか遠距離系の魔物への牽制に使うサイドアームとしてさ」
「フン、生意気に言いやがって。だが俺も同意見だ。……俺のお薦めはこれだな」
モモは黒田さんとは違い、オヤジさんに対して物おじせずに持論を語る。
憎まれ口を叩いているが、どこかオヤジさんは満足そうに、銀色に輝く銃を取り出してカウンターに置く。
「
「えー、S
「あれはシングルアクションだろうが。片手で使うには不向きの銃だ」
どうやらモモは琴美に合わせる銃を見繕っていた様だが、オヤジさんに言わせるとこっちのキングコブラとやらの方が良いらしい。
聞けばシングルアクションというのは、撃つ度に撃鉄を起こす必要があるそうで、確かに扱いづらいように感じる。
それでもモモがブーブー言うので、だったら本人に選んでもらえとオヤジさんはブラックホークとやらもカウンターに置き、琴美に見せた。
「んー、ピカピカしててキレイだからこっちがいい」
「そ、そうすか。まあコトミンがいうなら……」
当の琴美は性能に関しては二の次で、見た目重視で選んだ。
モモは大人しく引きさがるが、それにしてもピカピカしているからこっちって……我が妹ながら、カラスじゃないんだから……。
「……それで、いくらくらいするんですか?」
「15万だ。ま、頑張って稼いできな」
俺がそんな事を考えていると、珍しく黒田さんが前に出て値段を聞いていた。
15万か……。手ごろに稼げるゴブリンの剣でも150本必要だな。地道に敵を倒したとしても、振込日は来月だ。
焦る必要はないのだが、それでも可能ならすぐに購入したい。何かいい手立てはないものか?
「なあ、おっちゃん。何かいい金策方法しらないか? 戦利品で稼ぐいい方法をな」
「そんなもんねえよ。……と言いたいところだが、ちょうどいい儲け話がある」
オヤジさんは俺を手招きし、俺の耳元でそっと囁く。
……なるほど、魅力的な話だ。
●
翌日、俺たちは渋谷ダンジョン中層をくまなく歩き、あるものを探していた。
「お、もう一匹いた。やっぱり夏と言えばカブトムシだよな」
「…………」
木にしがみつき、ひっそりとこちらを伺うデカカブトを、俺はハイポイントで狙撃する。
見た目はカブトムシそのものだが、アーマービートルと言うれっきとした魔物だ。
固い守りと飛行能力を持つそれなりの強敵だが、サイコキネシスで強化した通常弾……以降はサイコブレットと呼ぶが、これなら一撃だ。
この辺にはあまり数が多くないが、集団で襲い掛かってこられると厄介なので丁度良かった。
木から落ちてきたカブトの死骸を確保すると、俺はそのまま藪の中に入った。
「さてと、ペットボトルを用意してっと」
オヤジさんが教えてくれたのは、このビートルの体液を採取して製薬会社に売りつけるというものだ。何でも、精力剤として効果があると期待されているらしく、500mlあたり5万円で買い取ってくれるそうだ。
と言っても、甲虫から体液を搾り取るのはなかなか難しいので、積極的に行う人はそれほどいないらしい。俺にとってはサイコキネシスを使えばそれほど難しい作業ではない。女性陣が気持ち悪がるので、草むらの中で作業しなくちゃならないのが難点だが。
死骸を念動力で宙に浮かして、そのままじっくりと押しつぶし、体液を残らず搾り取る。亜人系の魔物や竜などどは違い、毒々しい緑色の体液をペットボトルに注ぐ。
さて、これで三本目だが、もう少し稼ぐか。
「お待たせ。警戒してもらって悪いな」
「……大友君、採取した体液はすぐにしまって。見るだけで気持ち悪くなるから」
「おっと、ごめんよ黒田さん」
俺は慌ててペットボトルをリュックにしまい込む。
黒田さんだけでなく、琴美やモモも、顔をしかめて気分が悪そうだ。
「……お兄ちゃん。もう目標額まで行ったんだから帰ろうよ」
「コトミンの言う通りっすよ。音だけでもキモ過ぎてマジで吐きそうになるっす」
「何を言うんだ。銃だけ買ったって弾代も稼がないといけないんだぞ。モモの特殊弾も残り少ないんだろ? じゃあこの機会に少しまとめて補充しておいた方が良いんじゃないか?」
「そ、それはそうですけど……」
「弾の事を考えると倍の30万は稼いでおきたい。スマンがもう少し我慢してくれ」
嫌がる女子たちを尻目に、俺はカブト狩りに熱中し、すぐに6本分が集まった。
正直、まだまだ時間はあったので、もう少し虫捕りを楽しみたかったが、琴美とモモだけでなく、黒田さんまで俺を冷たい目で見てくるので帰らざるを得なかった。
やれやれ、女子ばっかりのパーティーも大変だ。
どことなくギクシャクした空気の中、俺たちは迷宮を後にした。