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第48話 再起

「チョリース! オハザマス、先輩! 昨日はすんませんでした! 今日はガッツリ行けますんで!」

「お、おう。おはようモモ。頼りにしてるよ」


 翌日登校すると、朝からモモが教室を訪ねて来た。

 ギャルらしいテンションの高さで、周囲は少し引いているが、モモは急に声を落として俺に耳打ちしてくる。


「……昨日、何かあったんすか? コトミンの様子がおかしいんですけど」

「……それが実はな」


 どうやら琴美に会ったらしいが、異変に気付いたようだ。

 琴美は一夜明けても元気がなく、今日は無理して学校に行く必要が無いんじゃないかと訴えたが、聞き入れなかった。


 モモは随分と琴美を心配しており、俺は事情を話した。

 無論、テロリストに襲われたなどとは言えないので、浅草でひったくりにあってしまった事にしたのだ。これなら鞄が変わっている説明にもなるしな。


「……そういう訳で、琴美は結構抵抗したんだが、力づくで鞄が奪われてしまったそうでな。それでショックを受けているんだ」

「フーン? いくら地上とはいえ、C級のコトミンに勝つなんて随分気合の入ったひったくり犯すね?」

「そ、そうなんだよ。えらく強い奴らしくて、それで落ち込んでいるんだ」


 モモの指摘は鋭かった。琴美は剣を習い、魔物相手とは言え実戦で鍛えているのだ。そこいらのチンピラに力負けするというのは少し不自然だ。


 俺はモモに見透かされているような気がして、ヒヤヒヤしていた。


「ま、そう言う事ならアタシに任せてください。昼休みに元気づけますよ」

「助かるよ、モモ」


 モモはそう言うと軽快な足取りで教室を出ていった。

 仲間に向かえた時には不安もあったが、あの子みたいに明るい子の方が、琴美をうまく元気づけてくれるかもしれない。


 始まった朝のHRでの伝達事項をぼんやりと聞き流しながら俺はそう考えていた。



「だからさー、やっぱり銃が最強な訳よ。いつでもどこでも変わらぬパワーを発揮するわけだから、地上でも安心だよ」

「で、でも、いくら犯罪者でも撃ち殺してしまったら私が逮捕されちゃうよ!」

「そりゃそうだけどさ。威嚇射撃くらいなら問題ないっしょ。突きつけるだけでも相当抑止力になるよ」


 昼休みになり、屋上に集まったが、モモの励ましは俺の期待したようなものでは無く、とにかく銃を携帯していれば、地上でも安全という実にアメリカナイズな考えだ。


「それより、護身術とかを習ったほうがいいんじゃないかしら」

「甘いっすよ姐さん。相手が一人とは限んないすよ。私ならこうやって……バキューン! バキューン!ってね!」


 見かねた黒田さんがそう窘めると、突然、モモはスカートの後ろから小型のピストルを取り出し、撃つ真似をする。


「モ、モモ。お前学校にまで銃を持ってきてるのか」

「マズいんすか? 別に銃を持ってきちゃいけないって校則はないっすよ」

「……校則以前に日本では銃の所持は認められてないからね。探索者は例外だけど」


 呆れてそう言う黒田さんを尻目に、モモは自分のピストルを琴美に握らす。


「コトミン。このRugerルガー LCP IIを暫く貸してあげる。持っているだけでも落ち着くから」

「あ、ありがとう、モモちゃん」


 琴美は少しばかり躊躇っていたが、モモは心からの善意で言ってくれているので断ることもできなかったようだ。


「まあいい。琴美、鞄を無くしたりしたらどえらいことになるから、肌身離さず持っておけよ」

「そーだよ。いざって時に使えなかったら意味無いからね」

「う、うん。分かった」


 そう言いながら、琴美はスカートの後ろに銃を指す。モモの言い分も分からないではないが、銃に頼るというのも微妙だ。この間にテロリスト連中も銃は所持していたからな。その辺の事情は話せないので止むをえないが。


「しかし、根本的解決としては、もっとレベルを上げる方が近道かもな。B級の手前ぐらいから地上でもある程度魔法が使えるようになるんだろ?」

「レベル6ね。それ以前のレベルでも、ファイターなら多少は身体強化魔法の効果はあるそうだけど、気休め程度の効力しかないそうよ」


 どうにか琴美の自信を取り戻させる方法は無いかと、力技ではあるが、単純なレベル上げを提案してみたが、黒田さんによれば、あと二つもレベルを上げないといけない。


 昨日戦ったあのおっさんは初級魔法を使っていた。そう考えると、最低でもレベル6のメイジだったのか。それだけの使い手がテロリストに落ちぶれるとは。琴美が圧倒されるのも納得だ。


 琴美に乱暴していた奴は、良く分からないが、どうもあの連中は軍人臭い喋りをしていた。自衛隊崩れか何かなのかもしれない。


 俺が昨日の事を考えていると、黒田さんとモモが口を挟んできた。


「大友君、レベル4から6に上げるには、高適合者でも数年はかかるそうよ」

「そーですよ、先輩。あの甲賀剛士だって1年はかかってるらしいんで」


 二人はレベル上げの難しさを訴える。レベルが上がるほど、倒さなければいけない魔物の数は増えるし、経験対象となる強さの魔物の出没するエリアはどんどんと深い層になって行く。


 たどり着くまでに時間もかかるし、途中での戦闘でも消耗する。

 その為、高レベルの探索者というのはそう簡単には生まれないのだ。深層で激しい戦闘を繰り返すうちに、亡くなる人間というもの多い。


 ゲームのように、ショートカットルートや移動魔法があればいいのだが、残念ながらそんなものは存在しない。唯一、帰還魔法が存在するのみだ。


「とにかく、私頑張るわ。地道に魔物を狩って、銃の練習もしてみる」

「ソーソー! 落ち込んでてもしょうがないじゃん。コトミンならすぐ強くなれるよ」


 元はモモの提案した不審者対策だったが、色々と言われているうちに琴美も多少元気を取り戻してきたようだ。そんな琴美は思わぬことを言い出す。


「鍛錬するのはもちろんだけど、私としては何か思い切った特訓をしたいの」

「特訓ねえ。鉄球にひたすらぶつかるとかそういうのか?」

「……大友君、真面目に考えてる?」

「も、もちろんだよ」

「マンガなら師匠を見つけて鍛えてもらうのが定番すね」


 特訓などと、時代錯誤な事を言い出す琴美に、思わず古い特撮のシーンを連想したが、黒田さんに冷たい目で見られてしまう。


 モモの言う通り、誰かしらに師事するのが一番いいが、技術というより精神面の話だからな。


 昼飯を食いながらあれこれ考えていると、黒田さんが若干躊躇いながらも琴美に提案をする。


「心当たりが無い訳じゃないんだけど……」


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