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第7話 アトランティス

アトランティス。

約一万二千年前、洪水によって一日と一夜で大西洋に沈んだとされる神秘の島。

そこには、軍事力、文化、技術が古代ギリシャを凌駕していたと言われ、その伝説を求めて海に出る者が後を絶たなかった。

しかし、誰もアトランティスを見つけることは出来ず。

長い時が経つにつれ、今ではオカルト界隈で語られる伝説の島となっている。


俺とアオは、アトランティスに向かうため、近くの浜辺にやってきた。


「今からアトランティスに向かうなんて、楽しみ!」


アオは、遠足を待ち望む子どものような表情を浮かべていた。


「楽しみにするのはいいが……アオ」

「何?」


「最後に確認したい。ここから先は、陸とは違い危険な世界だ。それでも行くか?」


俺は再度、アトランティスに行く意志をアオに尋ねた。

すると、彼女は迷うことなく即答した。


「もちろん!君も分かるでしょ?私がここまで来て、行かない選択肢なんてないことを」


「確かにそうだな。聞くまでもなかったな……」


俺は彼女の前に立ち、波打ち際に転移術式を書き始めた。


「何をしているの?」

「アトランティスに繋がる転移術式を描いているんだ」


この術式は、直接ポセイドン様がいるアトラス神殿へ繋がるようにした。


「アオ、転移したら先にポセイドン様へ謁見してもらう」

「謁見……私、礼儀作法なんて知らないよ?」

「大丈夫だ。俺の真似をすればいい」


俺はアオの手を優しく取り、術式の上で向かい合うように立った。

アオは少し緊張した様子を見せ、俺の手を少し強く握り返した。


「準備はいいか?手を離すなよ」

「うん」


互いの緊張がピークに達した瞬間、俺は術式を発動させた。

次の瞬間、膨大な光の渦に巻き込まれながら、俺たちはアトランティスに転移した。

海中の冷たさと波の流れを感じる暇もなく、目の前に巨大なアトラス神殿が現れた。


「ここがアトランティス……」


アオはその光景に圧倒されていた。


アトラス神殿。

アトランティスが築かれる前から存在すると言われる古代の神殿。

神々が作ったと言われ、そのおかげか神殿の形は独特な形をしている。

神殿と言うよりかは、大樹に近い。

そんな神殿の主神はポセイドン様であり、ここで種族の選別が行われている。

そして俺は、この神殿を守る役割を担っている。


「アオ、まずは神殿でポセイドン様に挨拶をしよう。ついてきてくれ」

「う、うん」


俺は驚いた表情を浮かべるアオを連れ、ポセイドン様に会いに向かった。

しかし、その時、耳に馴染みのある声が聞こえてきた。


「だーれだ」


その声と共に視界がぼやけた。


「ちょ、セラ!?」


隣から慌てるアオの声が聞こえたが、先に聞こえた間延びした声を考えると……。


「よせクレイ。俺たちは遊びに来たわけじゃない」


「相変わらず堅物ねぇ」


俺が白く半透明な鰭を離すと、目の前に白いスカートをなびかせながら、優雅に海中を漂うクレイが現れた。


「はじめまして、セラの番、深海アオさん。私は七人戦士の忍辱の戦士、クレイ・パルティアです」

「は、はじめまして……なんで私の名前を知っているの?」

「セイルから聞いたのよ、私と同じ生物学者がいるってね」


クレイはアオの質問に優しく答えた。


「お前がここにいるということは……」

「ポセイドン様に頼まれたの。『千年ぶりの陸の人間が来るから、アトランティスの中で一番神聖な場所を案内しろ』ってね」


あの方なら言いかねない。早く謁見を済ませて帰りたかったが……まぁ、せっかくだから、クレイに神殿を案内してもらおう。

俺たちはクレイに導かれ、神殿の内部を見回った。


七戦士の忍辱の戦士クレイ・パルテア、彼女はアトランティス随一の生物学者だ。

彼女は海の生物の歴史、四十億年分の知識を持っている。

その知識を生かし、ポセイドン様の選別の手伝いや、新たな生物の記録などをしている。


「ここは図書室。ここを超える図書室は他にはないわ」

「おお!すごい…この本の数は見たことない!」


クレイが紹介した図書室で、アオは目を輝かせながら喜んでいた。


「クレイさん、ちょっと見てきてもいい?」

「良いわよ」


アオは図書室へと入り、本を手にとってはパラパラと読み始めた。

その様子を見たクレイは、微笑みながら口を開いた。


「珍しいわね」

「何が言いたい?」

「あなたが、ああいう元気系の子を番にするなんて」


俺もアオと番なるなんて思ってもいなかった。


「俺もだ。今までなかったのに、アオと一緒にいると何故か俺の中の何かを熱くさせるんだ」

「熱くねぇ…それは興味深いね。君達シーラカンス族は他の種族と違って繁殖期が遅い。もしかしたら君、発情している?」

「発情……?」


俺が発情?まさかそんな……。

別に不能とかではないが、急に言われると返答に困る。


「それにしても、人間と鰭人の交尾か…」


クレイが興味ありげにアオを見るが、お前が見ている人こそ、鰭人と人間の間で生まれた者だ。

流石にアオの正体を話すことなんてできない。


「興味あるわねぇ……交尾する機会があったら見てみたいわ」


クレイは興味あり気な表情でこちらを見るが、絶対に嫌だ。

この女、生物学者としては優秀なのだが、優秀なあまり度がすぎる行動をとることがある。


「絶対に嫌だ」

「そう、なら仕方ないわね。さて、そろそろポセイドン様の所に行きましょう。アオさんそろそろ行きましょう」


残念そうな様子を見せながらも、アオを呼べばすぐにこちらへと向かってきた。


「どうだった?」

「いやぁ、なに書いているか分からなかった!」

「そうか……なら、ここの言語はお俺が教えよう」

「やった!」


アオが嬉しそうな様子を見せるが、その様子が可愛らしい。

そんな彼女を見つめていた瞬間だった、胸の鼓動が急に早くなった。


「……っ」

「ん?セラ?どうしたの?」

「あらら~」


俺の様子をみたアオは心配するが、その隣にいるクレイはニヤニヤとこちらをみている。

まさかだと思うが……。


「クレイ……お前!」

「ふふ、何のことかしら?そんなに顔を赤くしちゃって」


確信犯だ……クレイの奴、俺に気付かれないように毒を打ちやがった。

神殿だったから油断していたが……最悪だ。


「へ?え?何?どういうこと?」

「どうやらセラは少し疲れているみたい。だけど安心して、彼ああ見えてタフだから」

「タフなのは知っているけど……」

「さぁ、ポセイドン様の所に行きましょ!」


クレイの発言からして、俺に打たれたのは毒ではないが。

この、アオを見る度身体が熱くなる感じ……一体なんだ?何を打ったんだ?


身体の熱を上げさせないように、出来るだけアオをみないようにし、ポセイドン様がいる主神の間へと向かった。

主神の間は図書室からはそんなに離れていないため、すぐに辿り着いた。

扉の前で少し待っていると扉がゆっくりと開かれ、俺たちは主神の間へと入っていった。


主神の間の最奥にある玉座には、ポセイドン様が座っていた。

その容姿は少年のような見た目で、氷河のように白い髪、俺たちを見つめる月のような瞳。


「よくぞ、アトランティスに来てくれた。深海アオ……私はポセイドン。ここアトランティスの主神だ」

「あ、はい!はっ、はじめまして……」


アオは緊張するが、ポセイドン様はそんなアオに優しく話を続けた。


「まず、お前には謝らないといけない。我々の戦いに巻き込んでしまってすまなかった。本来ならば、君達陸の人間を巻き込みたくはなかったが、どうしてもお前たち人間の力が必要なんだ。もちろん、その分ここにいる間は出来るだけ援助をし、戦いが終わった暁にはお前の願いを一つ叶えてやろう」

「あ、頭を上げてください、ポセイドン様。謝られることなんて……それに、私は嬉しいんです。こうしてアトランティスに来れたことが……」

「そうか……それは良かった。オーシャンバトルの事はセラから聞いているな?」


ポセイドン様の問いにアオはゆっくりと頷いた。


「なら、話す必要はないな…。今日はここに来たばかりであろう?なら、ゆっくりとアトランティスを見回るといい。クレイ、私は選別室に行く。お前もついてこい」

「はい。ポセイドン様」


そう言うと、ポセイドン様とクレイは主神の間から去っていった。

緊張がほぐれたのか、二人が去っていったあと、身体中の熱が全身を駆け巡った。


「はぁ…はぁ」

「せ、セラ!?顔赤いよ!?大丈夫!?」

「アオ、すまないが……今すぐ俺の部屋に……」

「わ、わかった!」


俺の脚がふらつくのを見たのか、アオは小さいからだで俺を支えた。

意識が朦朧とする中、部屋の場所を教えながら向かっっていった。

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