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第8話 番として

「セラ!着いたよ!」


アオは俺の部屋に到着したことを知らせながら、優しくベッドに俺を寝かせてくれた。


「全く…あの女……」


俺は興奮と熱に蝕まれつつ、毒を打ったクレイに対して愚痴をこぼした。


「だ、大丈……うわぁ!?」


アオが心配そうに近づき、俺の手に触れようとした瞬間、衝撃が走り、気が付けば彼女をベッドに引き寄せていた。


「セ……セラ?」

「はぁ……はぁ……」


涙を浮かべながらも心配そうにこちらを見つめる瞳。緊張から頬が赤く染まり、まるで俺を誘っているかのようだった。

そうか、あの女が打ったのは毒ではなく媚薬だったのだ。

そうでなければ、こんなにもアオを抱きたいと思うはずがない。


過去に一度、酒の席で女に媚薬を盛られたが、ここまでの症状はでなかった。

出たとしても身体が熱くなるだけで、自身のモノすら反応はしなかった。

だが、あのクレイが作った媚薬だとすれば……ここまでの症状がでるのも納得がいく。


「くっそ……」


俺はなんとか理性を保とうと、唇を強く噛み締めた。

噛んだ唇からゆっくりと血が垂れ、アオの頬に落ちた。


「っつ……アオ俺は……今すぐここから出ろ……じゃなきゃ俺はお前を……」

「大丈夫だよ」

「っつ!?」


アオは優しく俺の頬に手を添え、顔の輪郭をなぞるように、ゆっくりと撫でた。

彼女の肌触りのいい手の感触が、俺の理性をさらに弱めていった。


「俺は……んっ!?」


何かを言おうとした瞬間、アオは俺の唇に優しくキスをした。

彼女の柔らかい唇と熱で理性がふきとびそうになる。

ゆっくりと唇が離れたら、お互いの口元は血で汚れていた。


あぁ、駄目だもう理性が持たない…このまま彼女を抱きたい。

俺の中の鰭人としての欲が沸々と湧き上がり、彼女をゆっくりと抱きしめた。


「アオ……すまない……」


俺が彼女に謝ると、アオは優しく俺を抱きしめ返した。


「セラ……大丈夫だよ」


その言葉を聞いた瞬間、俺の意識は途絶えた。


ー翌日ー


「っつ!?」


俺はいきなり勢いよく起き上がった。


「俺は確か……っ!?」


昨日の出来事を思い出し、隣を見たがアオの姿はなく、そこには血痕がシーツに沁み込んでいた。

この血痕を見る限り、俺は彼女をひどく扱ってしまったに違いない。


「はぁ~~~」


自分の弱さと行動に頭を抱え、大きな溜息が出る。

いくら媚薬を打たれたとはいえ、大切な番を傷つけてしまった。

罪悪感が俺の胸を締め付けるが……とりあえず今は彼女を探そうと思い、ベッドから降りようとしたその時だった。

ガチャリと扉が開き、部屋にアオが入ってきた。


「おっ?やっと起きた!」


彼女は昨日の出来事があったにも関わらず、いつもと変わらない様子で声を掛けてきた。


「アオ……お前!」


俺はそのままアオを抱きしめ、肩を掴んで聞いてみた。


「昨日はすまなかった!いくらクレイの奴に媚薬を打たれたとはいえ、お前を傷つけてしまった」

「あはは、まぁ……昨日はびっくりしたけど、君の状態が元に戻ったのならよかった」


アオは安心した様子を見せ、優しく微笑んだ。


「はは、優しすぎるだろ……」

「まぁ……次は優しくしてくれると助かる」


アオは腰をさすりながら、少し困った表情をした。


「っつ……善処する」

「うん。それでセラ……その。お腹が空いたんだけど」


そうだった、俺たちは昨日お昼頃にアトランティスへ来て以来、何も食べていない。

俺とアオは腹を満たすために食堂へ向かったが、その途中でセイルに出会った。


「お~!セラにアオじゃねぇか、お前たち、クレイの奴に聞いたぜ!無事にや……」


セイルが言いかけた瞬間、俺は彼の両肩を強く掴んだ。


「それ以上言うな」

「なんだよ、そんな怒った顔して……お前、まさかあの女に」

「言うな」

「……分かったよ。そこまで怒るなら、噂を広めているあの女に文句を言えよ」


俺はセイルの肩から手を離し、溜息をついた。


「確かにそうだな……セイル、アオと一緒に食堂へ行ってくれ。俺はクレイのところに行ってくる」

「あいよ、アオ。俺と一緒に食堂へ行こうぜ」

「え、あっ……うん」


セイルはそのままアオを連れて食堂へと向かっていった。

俺は長い廊下を早歩きで進み、クレイの研究室へ向かった。

研究室の扉の前に着き、勢いよく扉を開けると、クレイがゆっくりとお茶を楽しんでいた。


「あら、セラ。昨日はどうだった?」

「どうだった?笑わせるな。お前のせいでアオが……」

「もう、そこまで怒ることかしら?」


クレイは不思議そうにこちらを見ているが、その表情は俺の怒りをさらに煽った。


「お前……」

「逆に褒めてほしいわ。あなた達シーラカンス族は他の種族とは違い、繁殖期間が五年に一度。同じ種族同士で子が出来ても、生まれるのには二年かかる。今でもあなた達シーラカンス族は個体数が減少している。だから、それを止めるためにできたのがこの媚薬よ」


クレイは蓋がされた一本の試験管を見せた。


「だからと言ってアオを巻き込むな」

「巻き込む?おかしいわね、巻き込んだのはあなたでしょ?私は媚薬を打っただけ。それに私は純粋に実験がしたいのよ……鰭人と人間のハーフと鰭人の間には子を成すことができるのか?ってね」


この女、アオの正体を知っている。


「お前……ポセイドン様から聞いたのか?」

「もちろん。あなた達が来る前から聞いていたわ。まぁ、信憑性がなかったからあんまり信じていなかったのだけど、いざ実際に会うと確信したわ」

「確信だと?」


クレイは空になったティーカップにゆっくりと紅茶を入れ、飲みなおした。


「あの子自身は気づいてはいないみたいだけど、あの子から感じた生命力と魔力はヴィアタンそのものだった……あの子、リヴィアタンの娘でしょ?」

「……」

「その様子だと……アタリみたいね」


クレイは師匠と同期で、師匠の戦いを間近で見てきた数少ない人物。

そんな者の前に、師匠の娘でもあるアオが現れたらすぐに気づくのは当たり前だとしても、気づくのに早すぎる。


「今の段階は私とポセイドン様だけだからいいのだけど。あの男の娘となれば、黙ってはいられない連中が現れるわ」


師匠は戦士としても強かった、その強さゆえ……ポセイドン様の側近にもなった。

側近にもなれば、派閥争いに巻き込まれるのは当然のこと。

あの師匠のことだから敵対する者が増えてもおかしくはないが……それでも。


「その時は俺が守る」

「……」


クレイは嘱目な様子でこちらを見つめる。


「あ、そうそう。番になったからと言って、力を完全に覚醒するわけではないわ」

「は?どうゆうことだ?番になったら覚醒するんじゃないのか?」


鰭人と人間の番については多少の知識はあったが、力の覚醒に段階があることは知らなかった。


「確かに覚醒はするわ。でもそれは第一段階でしかないのよ。本当に覚醒したいのなら、あの子との同調率を上げないといけないのよ」

「同調率?」


クレイは一冊の本を取り出し、俺が見えやすいように机の上に本を開いた。

そこには番についての事が詳しく書かれていた。


「太古の鰭人と人間は同じ神から生まれた同じ存在、神は世界を均衡を保つために、力を二つにし鰭族と人間に与えた。鰭族は魔力と寿命を、人間には知恵と愛を。愛を持つ人間と番になり真実の愛に辿り着いた時、新たな力が覚醒する」

「……」

「まぁ、実際。前回のオーシャンバトルが千年前。当時の七戦士だった者は皆死んでいるから、詳しいことは私も知らない。だが、先代達が残したその本に書かれていることが本当ならば、洞調率をあげるには……愛の力に他ないわ」


クレイはティーカップの残りを飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。


「さてと……私は研究に戻るから、あなたは部屋から出て行って頂戴」

「あ、あぁ」


クレイに言われ俺はそのまま研究室を後にしようとした時、アオがいる食堂へと向かった。


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