目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第22話 リヴィアタンストーリー 1

一九九一年、神奈川県横須賀ジャムステック本部――。


「姉さん!姉さん!そろそろ出航なのに、どこに行ったのかな?」


ヒフミは姉のホタルを探し回っていた。

そして、探査機が格納されている格納庫に辿り着いた。


「あっ!いた!姉さん!」

「……ん?ヒフミ、どうしたの?そんなに焦って」

「どうしたの?じゃないよ!早くしないと、あと15分で出航だよ!……それに、何をしてたの?」

「いや、この子を見ていたのさ」


ホタルは『しんかい2000』と書かれた潜水調査船に触れた。


「しんかいがどうしたの?」

「今日、この日が来たんだなって。私がこの子をテレビで見て、いつか研究者になって、しんかいに乗ってみたいと願ってきた」

「でも、今日乗るのは2000じゃないよ」

「そうだね。日本の技術者たちがこの子のデータを元に造った新しい潜水調査船『しんかい6500』」


ホタルは優しくしんかいを撫でた。


「まぁ、姉さんの夢が叶うのは分かったから、早く船着場に行こう!」

「あぁー!」


ヒフミはホタルの手を無理やり引いて船着場へと向かった。


一方、アトランティスでは――。


「波が早いな」


ポセイドン様の命により、俺は深淵へ向かっていた。そんな道中、妙な物を見つけた。


「なんだあれ?」


それは不思議な形をしており、海馬よりも遅く進んでいた。

それに静かに近づくと、変な文字が書かれていた。


「読めないな…」


下の方を見ると、小さな窓があり、中には鰭人に似た何かがいた……鰭人に似たそれは恐らく人間だ。

話では聞いていたが、俺はこの時が初めて人間を見た。

少し興味が湧き、しばらく人間を観察することにした。

どうやら、数人の人間が何やら話をしており、その内の1人の女が、やたら楽しそうに話していた。


何を話しているのか分からないのに、その様子が気になった。

女は綺麗な黒髪と特徴的な青い瞳を持ち、話している途中で俺に気づいて、指を指してきた。


「まずい!」


女は他の人間に俺の存在を知らせようとしたので、咄嗟に隠れてしまった。


「……」


何故、俺は隠れている?今までそんな行動をとったことがないのに。

それに、この胸の高鳴りはなんだ?あの女と目が合った瞬間、俺の中の何かが弾けた。


「あれ?さっき、人間みたいな顔が見えた気がするんだけど」

「さては深海、昨日はしゃぎすぎて寝ていないな?」


探査船を操縦する男がホタルをからかうが、ホタルは真剣に反論した。


「ちゃんと寝たよ!あれは間違いなく人間の顔だった」

「考えてみてくれよ、ここは水深5500メートルだ。生物がいるかも分からない世界で、人間のような生物なんて……」


もう一人の男が言いかけたその時、突然ゴォォン!と大きな音が響いてきた。


「今の音、何?クジラの鳴き声?」

「クジラにしては大きすぎる」


謎の鳴き声に船内は少し不安が広がった。一方、船外でその鳴き声を聞いたリヴィアタンは冷静さを取り戻し、辺りを見渡した。


「この音……まずいな」


この時何を思ったのか、俺は人間にここから逃げろと、伝えようとしたその瞬間。


『ゴォォォォォン』


大きな音と共に姿を現したのは、魔力によって進化したカメロケラスだった。カメロケラスは乗り物を獲物だと勘違いし、襲い掛かってきた。俺はギリギリのところでその攻撃を受け止めた。


「……生憎、こいつは俺のモノだ」

『ゴォォォン』


カメロケラスは俺に獲物を捕られたくないのか、触手を使って攻撃を仕掛けてきた。


「ふん!」


俺を捕えようとする触手を素早くかわしたその瞬間、カメロケラスの触手があの乗り物を捕まえた。


乗り物は触手から逃れようとするが、触手は逃がさまいと徐々に力を入れていく。


「まずい!」


俺は他の触手の攻撃をかわし、素早く乗り物を捕まえていた触手を手刀で斬り落とした。痛みで怒りを顕にしているカメロケラスの隙をついて、乗り物に防御術を展開し、下から支えるように押してその場を離れた。


そして、海面に顔を出すと乗り物と同じマークがついている乗り物が見えた。

俺はその乗り物の近くに彼女が乗っていた乗り物を持って行き、他の人間のバレないように姿を消した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?