あの後、俺とホタルは秘密の場所で何度も会って話をした。
彼女は少し抜けたところがあるが、頭も良く、学者としての知識は豊富だった。
そんな彼女と話すことは、俺にとって唯一の楽しみで、月日が経つにつれて彼女への気持ちが少しずつ強くなっていった。
そして、ホタルと出会ってから一年が経った頃、俺はいつもの場所でホタルを待っていた。
「……遅いな」
今まで彼女が遅刻することはなかった。
それに、波がやけに静かすぎて、嫌な予感がしたその時だった。
「きゃぁぁ!」
西の方からホタルの叫び声が聞こえ、俺はすぐに声の方へ急いで向かった。
「ホタル!」
「リヴィアタン!」
彼女がいる場所に辿り着くと、そこにはアトランティスの処刑隊が彼女を取り囲んでいた。
「これは、リヴィアタン」
処刑隊のリーダー、リオルが俺に声をかけてきた。
「リオル、これはどういうことだ!」
「見ての通り、今から処刑をするのです」
「処刑だと?」
「えぇ、この女は我々の大切な戦士を誑かしました。だから処刑をするのです」
俺の問いにリオルは冷静に答え、大刀を召喚した。
「我々鰭人は主神であるポセイドン様が定めた掟、オーシャンバトル以外で人間と関わることは禁忌です!禁忌を犯した者には最大の苦痛を……」
大刀をホタルに振り下ろした。
「させるか!」
俺は瞬時に腕に防御の術を展開し、大刀とホタルの間に身を投じて攻撃を受け止めた。
そして、背後にいる彼女が傷つかないように、防御術をかけた。
「リヴィアタン!」
背後からホタルの心配する声が聞こえてくる。
俺は彼女を安心させるために、冷静に声をかけた。
「怖い思いをさせてしまってごめん。俺がこいつらを片付けるまで、そこから動かないでいてくれ」
「わ、分かった」
ホタルの返事を聞いた瞬間、俺は彼女を守るために腹部へ蹴りを入れた。
「あなたはそれほど地獄に堕ちたいのか?」
「あぁ、そうだ。何もしないで殺されるくらいなら、大切な者を守って地獄に堕ちるほうがましだ!」
俺は防御の術の上から肉体強化の術をかけ、リオルの間合いに入って首を狙ったが、攻撃を弾かれた。
他の奴らも俺を狙って、攻撃をしかけてきた。
流石は処刑隊、戦士とは別のポセイドン様直属の部隊だ。
部隊は罪人を一撃で仕留めるように訓練されている。
しかし、一人一人が急所を狙ってくると、戦いづらい。
攻撃をかわしながら、手刀で確実に首を落としていく。
「やはり、部下ではあなたを止めることはできませんね」
「なら、お前が来たらどうだ?」
「そうですね……ではこれはどうです?」
リオルが不気味な笑みを浮かべた瞬間、俺の左太ももに矢が刺さった。
「……っ!?」
どこから飛んできた!?辺りを見渡しても、弓兵の気配はなかった。
それよりも、俺の防御を貫通してきた。
「ふふ、驚きますよね?周りを探しても無駄です。私の弓矢は捉えることができません。それに、その矢の
リオルがそう言った瞬間、右肩にも矢が刺さった。
「ぐっ……」
肩と太ももに刺さった矢を抜くと、生暖かい血が垂れ落ちる。
鏃には魔力封じが込められているため、防御を貫通してくるうえ、俺の魔力を削っている。
俺は奴と距離を取るために、素早くその場を離れ、岩を盾に身を潜めた。
魔力を耳に集中させ、周囲の音の反響を使って弓矢の位置を確認しようとするが、弓矢の位置が見えない。
「無駄ですよ」
俺の左腕に矢が刺さった。
「ぐっ!?」
「それに、あなたが死ねば、あの女の防御術が解ける」
ホタルをあそこに置いている以上、俺がここでやられるわけにはいかない。
それに、この状況では向こうが有利なのに、なぜ仕留めてこない?
「まさか……」
俺はあることに気付いた。
「いい加減出てきてください!」
しびれを切らしたのか、リオルは再び俺に攻撃を仕掛けてきた。
そして、奴の矢が俺の脚に触れようとした瞬間。
「今だ!」
一気に魔力を脚に集中させ、瞬時に加速術を発動し、リオルの方へ向かった。
「なっ!?」
リオルは大量の術式を展開し、俺に向かって矢を放った。
「やはりそうだな……どうやら、ターゲットの距離と弓の数が関係しているみたいだ!」
俺は素早く矢をかわしていくと、その光景を見たリオルは焦りを見せ始め、奴の魔力に反応して矢の数は徐々に増えていった。
そして、背中や足に数十本の矢が刺さったが、俺は止まらなかった。
「な、何故だ!何故、そこまでして人間を助けようとする!」
リオルは俺に大刀を振り下ろすが、寸前でかわし、構えた。
次の攻撃が来る瞬間、拳に全魔力を集中させた。
「……愛してしまったからだ」
大刀の刃が俺の肩に触れるその時、俺の拳がリオルの腹に入り、勢いよく後ろへ飛ばされた。
「……はぁ……はぁ……つぅ……」
まずい、血を流しすぎた……頭がまわらない。
「リヴィアタン!しっかり!」
朦朧とする意識の中、ホタルの俺を呼ぶ声が聞こえた瞬間、視界が真っ暗になった。