私を助けるために、身体中に矢が刺さり、鮮血の赤が目の前で流れても、リヴィアタンは止まることなく敵に立ち向かっていた。
それなのに、私は何もできなかった。
もし私に彼を助ける勇気があれば、彼をこんな目に合わせずに済んだはずだ。
彼が目の前で倒れたとき、急いで駆け寄ると、彼は危険な状態だった。
「まずい!リヴィアタン!しっかりして!」
私は羽織っていた上着とTシャツを脱ぎ、リヴィアタンの止血を試みた。
「早く病院へ…」
「あらあら、助けに来たけど…大変な状況ね」
「!?」
背後から声が聞こえ、振り向くと、リヴィアタンのように鰭を持った男が現れた。
私は彼がこれ以上傷つかないように、守る姿勢をとった。
「その様子だと、あなたがホタルちゃんかしら?」
「……あなたは一体……なぜ私の名前を?」
「そこの彼から聞いたのよ。詳しい話は後で聞くから、彼を私に……」
この男を信じてもいいのだろうか?先ほどのこともあり、どうしても警戒してしまう。
でも、そんなことを言っている場合ではない…このままだと彼が死んでしまう。
私は意を決して男にリヴィアタンを託すと、男は彼を何かの力で浮かせた。
「あなたも、その恰好だと風邪をひくから、私のコートを羽織って」
男からコートを渡され、自分の今の格好に気づき、すぐに羽織った。
「とりあえず、私の隠れ家に行きましょう」
男にそう言われ、私は男と共にその隠れ家へ向かった。
暫く歩くと、見覚えがある病院に辿り着いた。
「ここが私の隠れ家。
「隠れ家って、ここ私も知っているよ」
「あら、それは良かったわ。じゃあ、ここの先生も知っているでしょ?」
「まぁ、高校の同級生だったし」
「なら、話が早いわ!こっちに来て」
男は病院の裏側の方に回り込み、裏口から中に入った。
「この裏口は私とカヲルちゃんしか通れない秘密の入口。この先にある部屋なら、周りを気にせず治療できるわ」
男と私は廊下の先にある部屋へと進んだ。
「カヲルちゃん!患者が来たよ!」
「お前また……深海!?その血だらけの男を早く台に乗せて!」
カヲルは私と負傷しているリヴィアタンの姿を見て驚いたが、冷静になり対応した。
「あとは私とこいつでやるから、深海は隣の部屋で待っていて」
「分かった……リヴィアタンは助かるよね?」
「医者として必ず助ける。だから、今は休んで」
カヲルは私を安心させるように、優しく肩に手を置いた。
彼女との付き合いは長いし、彼女が医者として優れた技術を持っていることも知っている。
カヲルにお願いして、私はリヴィアタンの治療が無事に終わるまで、隣の部屋で静かに待つことにした。
手術が始まって一時間経った頃、私は先ほどの緊張と不安からか疲れてしまい、ソファーで横になり眠ってしまった。
二時間後――。
「……ん」
目を開けると、見知らぬ天井が目に入った。
「ようやく目が覚めたわね」
聞き覚えのある声が響き、左に顔を向けると、リィゲリアが椅子に座っていた。
「リィゲリア、なんでお前が?それにここはどこだ?」
「ここは、私の担当のカヲルちゃんの病院。アンタが処刑人と戦って倒れたところを、ホタルちゃんが止血していたのを、私が助けたのよ」
「……そうか…ホタルは無事なのか?」
「無事よ、今は隣の部屋で休んでいるわ。アンタを止血するために自分の服を脱いで、適切に止血したおかげで助かってるんだから、彼女が目を覚ましたらお礼を言いなさいね」
俺はゆっくりと上体を起こし、自分の身体を見ると、リオルの矢が刺さっていた箇所に包帯が巻かれていた。
「おー、やっと目が覚めたか」
女性の声がし、声の方を向くと、リィゲリアの隣に別の女性がいた。
「……お前は?」
「私は金城カヲル。隣にいるコイツから聞いていると思うけど、私はこいつの番で君の主治医よ」
カヲルの自己紹介の後、俺はこの女性から自分が負傷した箇所の説明を受けた。
「とりあえず、こんな感じだ。まぁ、君たち鰭人は人間とは違って治るのが早い。今日は念のためここで休んで、明日深海と一緒に退院すればいい。もし、深海の事が気になるなら、隣の部屋に行きな。あいつ、君のことを泣きながら心配してたよ」
「分かった。治療してくれたことに感謝する」
カヲルはそう言って、リィゲリアを連れて部屋を出て行った。
俺はホタルのことが気になり、部屋を出て隣の部屋に入ると、ソファの上でホタルが寝ていた。
「ホタル」
寝ている彼女の顔にかかっている髪の毛を指で優しく払い、彼女の寝顔を見つめる。
目元が少し赤くなっていて、彼女が不安から泣いていたことが分かる。
しばらく彼女の寝顔を見ていると、彼女が目を覚ました。
「……ん、ん!?リヴィアタン!」
「っつ!?」
ホタルは目を覚ました瞬間、俺に気づいて抱きついてきた。
「よかった…」
泣きながら抱きしめる彼女の手が震えていて、俺は彼女を安心させるために優しく抱きしめ返した。
「俺は大丈夫だ。俺のせいで、お前を危険な目に遭わせてしまってすまなかった」
「……うん」
今回もそうだが、俺の中で彼女への感情が高まってしまい、こんなにも愛おしく思い、彼女を危険な目に遭わせたくないという気持ちが強くなっていく。
そんな思いを俺は彼女に伝えようとした。
「……ホタル」
「なに?」
「俺と関わった以上、これから先お前を危険な目に遭わせてしまう。そんなお前を俺は護りたい。どうか、俺と番になってくれないか?」
俺の言葉に不思議そうな表情を浮かべたが、言葉を理解したのか徐々に顔を赤らめた。
「あっ、えっと……その……いいよ」
「本当か?」
「本当!それに……私も君を助けたい。私のせいで、あんな姿のリヴィアタンを見たくはない」
ホタルはうつむきながら話を続けた。
「だから、リヴィアタン。私も君のように強くなりたい!」
「……え?」
まさかの言葉に、俺は思わず声がでた。