注文を終えてから、私は今更になってお金のことを思い出した。
「あ……の、リュドヴィックさん!」
「なんだ?」
足を組みながらお水を口に含むリュドヴィックさんが、カッコよくてツラい。
くっ、負けるもんか!
私は勇気を出して、リュドヴィックさんにお礼を言う。
「お金、ありがとうございました! 助かります!」
「気にするな。……仕事で返してくれればいい」
く、クール!
「あ……はい! 頑張ります!」
思わずガッツポーズをすると、リュドヴィックさんがキョトンとした表情をする。
「なんだそのポーズは?」
……どうやらこの世界には、サンドウィッチはあってもガッツポーズはないらしい。理不尽!!
「あ~……なんでしょうね? あはは」
全力で笑って誤魔化すしかなかった。しばらくして、注文した品が届く。心なしか、若い女性店員さんの頬が赤い?
「美味しそうですね!」
私が言うと、オクト君とリュドヴィックさんの視線が刺さる。えっ、私なにかしました?
オクト君は口元を抑え、リュドヴィックさんは睨んでいるかのような表情で見てくる。 なに? 本当になに!?
「あ、いや……なんでもねぇよ?」
「気にするな」
二人してそういうと、私から視線を逸らす。えっ、やめてよ〜! そういうの傷つくから!
困惑していると、ベルちゃんがトドメの一言を刺してきた。
「今のイグナートさんの表情が、可愛かったから照れちゃったんじゃないですか? ふふふ!」
えっ……それって……私今、『女の子』の顔してたってこと!?
「恥ずかしいものをお見せシマシタ」
く! 男らしくなろうというところで! 悔しい!
「まぁいいだろう? それより、食事にするぞ」
あ、否定しないのですね……? 悲しい。
リュドヴィックさんの号令で、みんなでお祈りをすると、食事をはじめた。
ちなみに私が頼んだサンドウィッチの中身は、なんのお肉かはわからないけど……とにかくお肉と野菜がたっぷりでジューシーだった。
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「美味かった〜! 寮のも美味ぇけど、こういう店のもいいですね!」
オクト君、おかわりしてたけどね!
……まぁ、私も足りなくておかわりしたけど!
どうやらこの身体を維持するには、相当食べないといけないらしい。燃費悪いなぁ~。
「食べられないよりはマシだろう。それより、お前達はこの後どうする?」
あれ、意外。てっきり、解散とか言うのかと思ってたのに。
「あー……どうするよ? イグナート?」
「えっあ〜……」
正直に言えば、お店巡りをしたい。したいけど! これ以上、『女の子』を出すのは王子様希望としては納得いかない!
どうしようか思案していると、リュドヴィックさんが助け舟を出してくれた。
「なら、公共広場に行ってみるか?」
「公共広場ですか?」
私が訊き返すと、今度はベルちゃんが答えてくれた。
「ちょうどこれから、広場で劇があるんですよ! 良かったら一緒に観ませんか?」
なるほど。劇か〜。私のイメージする劇は某歌劇団なんだけど……面白そう!
「観たいです! オクト君、いいかな?」
「あー……いいぜ?」
ん? なんか今、おかしかったような?
「決まりだな。食事も終えた事だし、行くぞ。……会計はオレが持つ。文句は言わせん」
有無を言わせぬ圧に、私とオクト君は首を縦に振りお礼を言った。
そうして、お会計を済ませた私達四人は次なる目的地へと向かうことにした。