ルクバトを出てから四時間後。
「昼にするか……」
リュドヴィックさんの言葉を受けて、馬車が止まる。
みんなで降りると、見事な草原が広がっていた。
「おお……!!」
その雄大さに思わず声を洩らすと、オクト君が横に来てからかってくる。
「お前ってさ、ほんっと、リアクションいいよな〜!!」
「しょうがないじゃないか〜。初めて……な気分なんだからさ!!」
危ない。『記憶喪失』設定を忘れるところだった。慌てて付け加えてそう言うと、オクト君は優しい声色で言う。
「それもそうか。ま、気楽に行こうぜ?」
元気づけてくれた優しさが痛い……罪悪感!!
「お前達、気を抜くな」
リュドヴィックさんに怒られてしまった。慌ててオクト君と私が謝る。
「あ、はい! すみません!」
「ゴメンナサイ」
イケナイ。怖くてまたカタコトになってしまった。だけど、そんな私に完全に慣れてしまったらしいリュドヴィックさんは、さっさと草が少ない場所に座ってしまう。
私達も慌てて座ると、携帯食のドライフルーツとパンに干し肉を食べる。
正直、もっと美味しいものが食べたいけど……我慢だ我慢。夜は持ってきた食材でなんか作るって話だし、それを楽しみにしようじゃないか!!
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食べ終わり、しばらく休憩をする。御者の騎士さんも食べ終わったらしく、馬達の世話をしていた。
ちなみに、オクト君は動物が好きらしい。今だって騎士さんの手伝いをしながら、馬達にメロメロだ。
その光景を眺めながら、私は空を見上げる。青い空に白い雲。化学物質に汚染されていない、ありのままの美しさが気持ちいい。
これから実戦……。
不安な気持ちしかない。だってそれは、つまり命を奪うということだ。以前の『私』に、そんな経験はもちろんない。
恐怖と不安と緊張で圧し潰されそうだ。
そんなことを考えているとリュドヴィックさんが来て、私の横に座る。
「イグナート」
「はい……?」
「最初は誰でも素人だ。オクタヴィアン卿も含めてな? だからオレを頼れ。そのためにオレはここにいる」
それだけつげると、リュドヴィックさんは立ち上がる。
「馬達の世話が終わったら出発だ」
あっという間に見張りに行ってしまった。その背中が頼もしすぎて眩しい……。
私は首を横に振ると、再び空を見上げるのだった。
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あれから馬車を走らせること六時間。日が暮れはじめた頃、私達は丁度いい感じの岩場を見つけ、そこに停車させた。
「よし、今日はここで野営だ。準備をするぞ」
「了解です!!」
「は、はい!」
オクト君と私が返事をする。いよいよ――初の野宿だ。