「おぉーい! イグナート!」
私が馬車の所まで戻ると、既に倒し終えたらしいオクト君がこちらに手を振ってくれた。私も振り返しながら、オーガの角を見せる。
「おっ! お前も角か! やっぱそーなるよな!」
オクト君も切り取ったオーガの角を見せてくれた。……私が倒したのよりちょっと大きくない?
劣等感を少し感じながら、二人してリュドヴィックさんに角を提出する。
「二人共倒したか……。角の確認は完了だ。この袋に入れろ」
そう言われて、私とオクト君が袋を見る。それは革のような素材で出来た、両手で持てるくらいの大きさの袋だった。
「あの……これ、入らないんじゃ?」
私が訊くと、リュドヴィックさんが教えてくれた。
「これは『魔法具』という種類の道具の一種だ。この中に入れると、本部の『管理部』に転送される。……以前教えなかったか?」
圧が強いです……リュドヴィック先生。でも、教えられたっけ? 毎日が目まぐるしくて覚えてないです……。
「スミマセン……」
私が謝ると、リュドヴィックさんはため息を一つ吐く。
「まあいい。……今後はよく覚えておくようにな?」
『次はないぞ?』という圧を感じながら、私達は再び馬車に乗り込んだ。
****
それから私達は幾度となく、魔物達と遭遇するようになった。
その度に馬車を降りては戦い、戦果を袋に積めるというのを繰り返す。
さすがに慣れてきた。……きたけど……こんなに魔物が多いなんて……。
本当に活性化してるんだなぁ……と嫌でも体感させられる。
「魔物自体は雑魚ばっかだけどよー、こんなに多いんじゃアスケラまで後どれくらいかかんだよー! なぁ?」
オクト君に話を振られて、私も頷く。
「そうだね。予定してた日数より、遅れそうではあるかな……?」
そんな会話をしていると、リュドヴィックさんが口を挟んできた。
「間違いなく予定より遅れるだろう。……雑魚だからと抜かるなよ? 侮りが最悪の被害をもたらすこともある」
冷静に、だけどどこか悲しげに言われ、私とオクト君は口をつぐむ。
……確かに雑魚だから……そう思い始めていたかもしれない。その結果を……私は知ったはずだ。なのに……。
後悔と自分の浅はかさに落ち込んでいると、横に座っていたオクト君が私の左肩を軽く小突く。
「まぁ。俺も、お前もこれからつーことでさ! 頑張ろうぜ!」
こうやって、元気付けてくれるオクト君が眩しい。
「うん……。だね!」
そう返事を返すと、私達はまた静かに馬車に揺られるのだった。
****
……夢を見た。
焔を纏った
その焔はどんどん強く、熱くなっていく。
――そして、俺の身体は……燃え盛る――。
「はっ!!」
思わず声を上げてしまった。リュドヴィックさんとオクト君が驚いた顔でこちらを見てくる。
なんの夢だったかわからないけど、凄く……変な夢だった気がするな……。
「イグナート大丈夫か?」
オクト君が心配そうに声をかけてくれる。
「あ、うん……ありがとう」
そう答えると私は顔を伏せる。もう考えないようにしよう……。
……また夜を迎える。魔物に警戒しながらの夜が――