リュドヴィックさんが手続きを終えたらしい。私達を見つけると、近くまでやって来た。
「これからアスケラ魔道士団本部に行く」
そうつげると私達を連れて役所を出たのだった。
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役所の裏門から出ると、半円形の建物が丸い大きな建物を囲むように三棟並んでいた。
「えーっと、どれがアスケラ魔道士団本部です?」
「三棟に囲まれている大きな建物の方だ」
私が困惑しながら訊くと、リュドヴィックさんが教えてくれた。
「んじゃ、早速中に入る感じでいいんですよね?」
今度はオクト君がそう訊くと、リュドヴィックさんは頷く。
「ああ。中でアンドレアス殿と合流する予定だ」
アンドレアスさんかー……迷惑かけちゃったんだよね? どうしよう……正直、会いづらい……。
だけど私情を挟む訳にもいかず、私は大人しくみんなの後に続いて、アスケラ魔道士団本部へと足を踏み入れた。
中は、壁一面に本がこれでもかというくらい、みっちりと並んでいて、町中と同じような格好をした職員さん? がせわしなく動いていた。
入口付近の受付にまたリュドヴィックさんが向かおうとした瞬間だった。聞き覚えのある声が響く。
「良いのである。お待ちしていたぞ、ルクバト騎士団の諸君」
声のした方へ全員が顔を向ければ、頭上でホウキに乗ったアンドレアスさんがいた。
「久しいのである。我々の本部へようこそ。改めて歓迎するのである」
相変わらずの口調に安心したのもつかの間、アンドレアスさんは私を見て心配そうな声を発した。
「そやつは大丈夫なのであるか? あの暴走っぷりには手を焼かされたのであるが……?」
……申し訳ない気持ちが溢れてくる。本当にやらかしたんだな……私……覚えてないけど。
リュドヴィックさんが見上げたままで、アンドレアスさんに向かって口を開いた。
「その件も含めてお話を。……場所をお借りしても?」
「なるほどである」
そう一言呟くと、アンドレアスさんはホウキから降りて、私達の目の前に降り立った。
「着いてくるのである。部屋に案内するのである」
「感謝致します。アンドレアス殿」
リュドヴィックさんが代表してお礼を言うと、アンドレアスさんは小さく頷く。
「良いのである。では、参るのである」
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私達が通されたのは大きくて広い、大会議室? って言えばいいのかな? とにかく、そんな感じで、木製の黒い長テーブルと椅子がズラリと並んでいた。
その一番奥の席にアンドレアスさんが座る。
「座ってどうぞである」
「では、失礼します。皆、着席だ」
リュドヴィックさん、ブリアック卿、オクト君、私の順番で、アンドレアスさんの対角上に座る。
それを確認すると、アンドレアスさんが口を開いた。
「では、本日の議題に早速入るのである。議題は『魔物達の活性化の原因について』であるな?」
「はい。そして……可能であれば、このイグナート・アウストラリスの身体調査もお願いしたいのですが?」
……はい? 今、身体調査って言った? 検査じゃなくて? っていうか、え?
「ちょ、えっ?」
思わず声を上げる私を、リュドヴィックさんが制する。
「イグナート、落ち着け。お前の『ギフト』についての調査だ。説明しなかったのは謝る。だが、必要な事だ。それに……この調査を受けて頂けるかは……アンドレアス殿及びアスケラ魔道士団に……」
私達のやり取りに、アンドレアスさんが割って入る。
「判断が委ねられるであるな。その件については、後回しで。こちらにも、そして……そちらにも時間が必要であると考える。よって、先ずは」
そこで一呼吸置くと、静かに話し出した。
「魔物達の凶暴化についてである。良いな?」