港へ近づくに連れて、緊張感も高まってくる。
「見えました!」
目に入ってきたその光景に全員の表情が強張り、私の手は震えていた。
近づくにつれ壊れた家やその破片。そして、逃げようとしたのだろう人の死体……。
むせるような悪臭に、総舵手さんが目に涙を浮かべながら顔をしかめたのが見えた。
ほどなくして、船は港に着いた。私達は馬に荷物を預け、戦闘態勢で船を降りる。
すると、先程の総舵手さんが声をかけてきた。
「旅の騎士様方。どうか……お願いします。あそこには私の妻と娘がいるんです……!」
その表情は辛そうで、胸が締め付けられる。なにも……私には言えなかった。
そう思った時、珍しくブリアック卿が声を上げた。
「どうかサジタリウス神のご加護があらんことを……」
「騎士様……。はい……そうですね。貴方様達にも……」
ブリアック卿と総舵手さんのやりとりを見届けると、私達はヌンキの町へ足を踏み入れた。
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「ちきしょう……ひでぇよ……こんなの!」
思わず、オクト君が言う。その言葉に誰も答えられなかった。
町はひどい有様で、半壊したどころか全壊の家が大半を占め、崩れた家々からは煙やそこから来る悪臭が漂ってくる。
そして、放置された死体の数々。その痛々しさに私は直視ができない。こんなの、赦せるわけがない。
目に涙が浮かぶ。だけど一筋の希望を抱いて、私達は手分けして生存者を探すことにした。
繁栄した海都だったという面影を感じ取ることができないままに、手当たり次第に町を歩く。
「誰か! いるなら返事をして下さい!」
できるだけ大声で、でも喉を傷めない範囲で私は叫んだ。祈るように。
そして、丁寧に瓦礫をどかす。
……でも、出てくるのは冷たくなった人、人、人。
老人、若い女性、少年。
辛すぎる現状に、いよいよ涙がこぼれてくる。こんなのってないよ……。
それでも、生存者を探して必死に町を歩いていた時だった。
「うっ、うぅ……」
かすかに、でも確かに声が聞こえた。私はその声のした方へと急いで向かう。
そこは半壊した一軒の木造の家で、その瓦礫の隙間から今度は物音がする。
金属を叩くようなそんな音が。
「だ、誰かそこにいるんですか!?」
私が声を出すと、隙間から確かに人の声がした!
「助けて……く……れ。あ、足……足が……挟まって……て!」
呻くような声に、私は答える。
「はい! 今すぐに!」
そして、信号弾を放つと私はすぐに瓦礫をどかしだした。
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しばらくしてみんなが合流しだし、効率的に瓦礫を除去していく。やっとの思いで助け出したのは、緑色の髪と瞳をした細身の青年だった。
その両足は折れていたけど、アンドレアスさんの治癒魔法と見解では、歩けなくなるほどではないとのことで、思わずほっとする。
とりあえず安全そうな広い公園に移動させてから、青年に水を飲ませる。するとアンドレアスさんが声を発した。
「ここを拠点として、我はこの者の治療にあたる。故に」
「後の捜索は、我々ルクバト聖騎士団とヌンキ港にそろそろ停泊しているであろう、ゼナイド号の船員達で行いましょう。治療の程、お願い致します。……それから、可能であればここヌンキとの姉妹都市である、メディアと連絡が取れるかどうかも試したいと思いますがいかがでしょうか?」
リュドヴィックさんが尋ねると、アンドレアスさんが頷いた。
「では、そのように。各自、もう一度捜索するぞ?」
私、オクト君、ブリアック卿は、リュドヴィックさんの指示に従い、町中へと戻って行く。一人でも多く、生存者を救うために。