夕方近くになる頃捜索を一度打ち切った私達は、拠点にした公園へと戻ってきた。船の管理もあるからと、あまり人員がさけなかったらしいがそれでも協力を申し出てくれたゼナイド号の船員さん達には感謝しかない。
でも……助けられたのは、今日の時点でわずか九人だった。最初に助けた青年、お爺さんが二人、若いお母さんと双子の女の子、中年の夫婦。そして、ヌンキ軍隊の将校さん。
みんな傷を負っていたけれど、命に別状はなさそうだった。ただ、何人かは後遺症が残るらしい。アンドレアスさんがそう言いながら、メディアと連絡が取れたことを教えてくれた。
「我の持つ通信用水晶に、メディア軍隊の者から追って連絡が来るであろう。あちらは何事もなかったようであるが、ひどく狼狽しておったぞ」
本当にアンドレアスさんは冷静だ。
私はというと、疲れやらでしんどくて余裕がない。
オクト君はずっと泣いている双子ちゃん達を必死に励ましているし、ブリアック卿は連れてきた馬達の世話をしているしで、みんなできることをしているのに……私は情けないな……。
そんなことを思っていると、リュドヴィックさんが救助した人達に水を配っていたので、私も手伝った。
そうしている内に、だいぶ落ち着いたのかヌンキ軍隊の将校さんが、何が起こったのかを話してくれた。
――原因はやはり『パビルサグ』だった。
なんでも、空から突然あいつらが降ってきて手当たり次第に暴れまわり、人々を襲ったのだそうだ。
当然、ヌンキ軍隊も全力で応戦したけれど、衝撃波を連続して放たれて、武器がすべて壊されてしまったんだとか。
こうして、ヌンキはたったの半日で壊滅したとの事だった。
「くっそ! あいつら!」
オクト君が悔しさと怒りが入り混じった声を上げる。
「オクタヴィアン卿、落ち着け。今は、大人しくメディアからの連絡を待ちつつ、できることをするぞ?」
リュドヴィックさんに諭され、オクト君は小さく答えた。
「はい」
怪我人達のもとへと向かおうとした……時だった。アンドレアスさんが私達を呼ぶ声がする。
「メディアから連絡が来たのである!」
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『なんとおぞましい……。それが『パビルサグ』という脅威とは……』
今話をしているのは、メディア軍隊の将校さんで、中年だと言うがそうとは思えないし、なによりピンクの髪が美しい女性だ。名前は『アデルミラ』さんという、あのカリーナ船長のお母さんらしい。
「はい、我々も全てを確認したわけではありませんが、被害は相当かと思われます」
「うむ、アスケラの事もあるでな? 我々としてはこの都市への救援と、出来ればメディアへの転送の許可、アウストラリス山までの準備をさせていただきたいのであるが?」
リュドヴィックさんとアンドレアスさんがそう言うと、アデルミラさんは力強く頷く。
『了解した。こちらとしても、ヌンキの人々を捨て置くことなどできない。それに、ルクバトからすでに申請は来ている。この脅威に対し、あらゆる手段で協力することを約束しよう』
「ありがとうございます。ではアデルミラ将軍、何卒よろしくお願い致します」
挨拶をすると、リュドヴィックさんが通信を切る。
「そういうわけだ。今日は交代しながら、より警戒して明日へ備えるぞ」
明日の様子次第で、ゼナイド号も港に停泊するらしい。船員はもちろん、乗客の中にはヌンキに家族や友人がいる人達もいる。
不安な夜が、憎いくらいゆっくりと過ぎて行った。