夕暮れに染まりはじめたテント広場で、ルナはさっそく「今夜作るもの」の準備を始めていた。
マジックバックから次々に食材を取り出し、まずは野菜をカットしていく。玉ねぎはみじん切りにして辛味を引き出し、じゃがいもやにんじん、見慣れない根菜はゴロゴロサイズに切り揃える。おなじみのガーガーダックの肉は一口大に切り分け、干しきのこを戻したスープを鍋で温め始めた。
「よーし、まずはお肉を焼いて旨味をしっかり引き出そうか」
スキレットを火にかけ、ガーガーダックの肉を投入してジュウッと焼き目をつけてから鍋のスープへと移す。玉ねぎのみじん切りも同様にスキレットでじっくり炒めると、甘く香ばしい香りが漂い、これをまた鍋へと加えた。そこに大きめにカットした野菜たちも順次炒めてから投入し、煮込みの準備は順調に進む。
「あとは、このスパイスたちが決め手だよね。ターメリック、クミン、コリアンダー、チリパウダー、小麦粉……」
先ほど香辛料屋で手に入れた新鮮なスパイスをスキレットに入れ、ごく弱火で軽く炒める。前世の記憶が鮮やかに呼び覚まされ、ルナは自然と鼻歌まじりになってしまう。香りがグッと立ったところで、そのスパイス粉を鍋へ加え、ゆっくりと混ぜ込むと、鍋の中のスープは見る見るうちに深い色味を帯びていく。
「うん、やっぱりいい感じ。この世界でも“カレー”はきっと通じるはず……。お米はないけど、代わりに“ナン”を作ろうかな」
小麦粉に塩と少量のミルクを入れ、簡単な生地をこね上げる。ある程度まとまったら平たく伸ばし、焚き火の熱でさっと焼けば、即席のナンができあがり。表面をほんのり焦がして香ばしさを出せば、肉や野菜たっぷりのスパイス煮込み(カレー)との相性は抜群だろう。
ルナはハクが待ちきれない様子で鍋の横に張りついているのを見て、思わず笑みをこぼす。
「もうちょっと煮込んでからね。野菜やお肉が柔らかくなったらできあがりだよ。みんなが帰ってきたら、きっとびっくりすると思う」
「わふ(はやくたべたい)」
ハクは尻尾を勢いよく振りながら、時々鼻先で鍋の香りをチェックしている。テントの周囲には夕焼け空が映えはじめ、森で採ってきた薬草たちをギルドに納品してホッと一息ついていたルナにとって、久々の大人数向けの料理作りは少し高揚感をもたらしていた。
「さぁ、あとは火を弱めてコトコト煮込むだけ。スパイスがしっかり馴染んでくれるから……。きっとおいしくなるはず!」
こうして、ルナ発案の“カレーもどき”が、フォレスティの夜のテント広場を小さなカレーの香りで包み始める。仲間たちやガウディが戻ってきたとき、どんな反応を見せてくれるのだろう――そう思うと胸が弾む。ルナはゆっくりと鍋をかき混ぜながら、ハクに「あとちょっとだから待っててね」と声をかけるのだった。
テント街に芳しいスパイスの香りが満ち始めたころ、マルクスを先頭に冒険者パーティーが帰還してきた。
ジェニーは両手いっぱいに酒瓶を抱え、「ただいまー!」と声を張り上げながら、まっすぐ焚き火のところへ向かってくる。仲間たちも「ふー、疲れた」「やっぱり狩りは大変だな」などと口々に言い合いながら、火の周りに座り込んだ。
「みなさん、お帰りなさい。お食事を作ったんですけど、どうですか?」
ルナが声をかけると、マルクスはどっしり酒瓶を片手に焚き火の前へ腰を下ろし、にやりと笑う。
「ルナが作ったのを食べないわけないじゃないか。ちょうど腹も減ってたんだ」
「抜け駆けはなしっすよ、隊長!」
ジェニーも酒瓶を一つ渡しながら、自分も隣に腰かける。他の冒険者仲間も「いやぁ、助かる」「腹ぺこだ~」と言いながらどっかりと座り込んだ。
「それにしても、この匂いは何だ……? 食欲が刺激される感じがすごいな」
「こんなの初めてっすよ。スパイスの香りが……ああ、頭がクラクラするくらいいい匂い」
スパイスの香りを存分に放つ鍋をチラリと見やりながら、仲間たちは興味津々な様子。すると、ルナは胸を張って見せながら答えた。
「色んな食材をスパイスで煮込んだ料理なんです。もし名前をつけるとしたら、私の世界――昔、空想してた記憶の料理で『カレー』っていいます」
「へえ、カレーか……。なんか面白い名前だな」
「聞いたことないっすねぇ、そんな料理」
仲間たちが口々に感想を漏らすなか、ルナは用意していた小さめの器に、たっぷりとスパイス煮込みを盛り付けていく。あわせて、簡単に焼いておいたナンのような平たいパンも一緒に配布しはじめる。
「召し上がってください。パンに乗せてもいいし、パンをちぎってすくって食べてもらってもいいですよ」
「おお~、面白い食べ方だな。酒のつまみにも合うのか?」
マルクスが息を弾ませて器を受け取り、さっそくスパイス煮込みにパンをつけて口に運ぶ。次の瞬間、「うわ……こりゃ何だ、うまいぞ!」と目を見開き、驚きの声を上げた。続いてジェニーも「うわーっ、香辛料が効いてるけど全然辛くないわけじゃない。しっかり旨味がある!」と顔をほころばせる。ほかの仲間たちも「こんな料理初めてだ!」「肉も野菜も軟らかいし、味がしみ込んでる~」と大好評だ。
「おいおい、これ、マジでうまいじゃないか……。酒が進むわ、こりゃ」
マルクスがごくりと酒をあおりながら、さらにカレーを掬って口に運ぶ。ジェニーも負けじと「くはー、スパイスがあとを引くな! 合う合う、酒に合う!」と興奮気味だ。
「ルナ、こんな凄い料理、どこで覚えたんだ? 何でもできるな、おまえ……」
仲間たちの興奮に、ルナは少し照れながら「いや、昔空想してた料理を、スパイス屋で思い出して試してみただけです」と笑って返す。ハクは自分の取り分をもらっており、尻尾を振りながら満足そうに舌鼓を打っている。
冒険者パーティーが互いに「うまいうまい」と食べ合う姿を見て、ルナは心底ホッとした。大鍋で作った大量のカレーも、あっという間に減っていきそうだ。マルクスもジェニーも「何が入ってるんだ?」と興味津々で、野菜やきのこ、ガーガーダックの肉がコクを出していることを説明すると、「そりゃいいわけだ……うまい!」と大満足な様子。
「よし、じゃあ、俺たちの狩りの成果も十分だし、ルナとハクに乾杯しようぜ!」
「かんぱーい!」
次々と酒瓶の音が打ち合わされ、にぎやかな笑い声がテント街の夜風にまぎれ込む。ルナとハクの周囲にも、温かい光が灯り、皆が笑顔を分かち合っていた。夜空には星が瞬きはじめ、明日の出発まで、あとわずかな時間を豊かな食事と仲間の笑顔とともに過ごす――それは何にも代えがたいひとときとなる。
◆◆◆
夜のテント広場には、冒険者たちの笑い声や、焚き火のはぜる音が風に乗って微かに聞こえている。ルナとハクはそんな音を背に、自分たちのテントへ戻った。あちこちで酒盛りの盛り上がりが最高潮に達しているが、二人は明日の朝には街を出発する予定だ。
「みなさん、今までお世話になりました。朝の乗り合い馬車で次に行きますね」
先ほど告げると、マルクスたちは「そっか、料理ありがとうな」「気をつけて行けよ」とあっさりした返事を返してくれた。
ルナにとっては短い間でも濃い時間を共に過ごしただけに、やや名残惜しい気持ちを抱いていたが、冒険者にとって出会いと別れは日常茶飯事なのだろう。彼らのあっけらかんとした様子に、ルナは逆に救われるような気がした。
「それじゃ、お先におやすみなさい。ハク、一緒に行こう」
「わふ」
そうしてテントへ向かったルナとハクの背後では、冒険者パーティーの仲間たちが酒を酌み交わしながら話している。
「ルナ、いい子だったっすね。隊長の子にしちゃえばいいのに~」
「なにバカ言ってんだよ」
「珍しく隊長が酒飲みながら涙流してるからさー」
「んなわけねえだろ、酔ってんのか? ほら、もう一杯やるぞ」
彼らの笑い声が遠ざかるのを聞きながら、ルナはテントの中に滑り込み、ランタンの柔らかな明かりを少しだけ灯してハクを撫でる。ハクも「わふ……」と低く鳴き、疲れた身体を横たえた。
「明日、また乗り合い馬車に乗って……次の街だね」
「わふ」
きっとまだ見ぬ場所で、どんな出会いと経験が待っているのだろう。ルナはそんな期待とわずかな不安を抱きながら、まぶたを閉じる。隣で目を細めたハクの温もりを感じつつ、外から聞こえる楽しげな談笑を子守唄代わりに、二人は深い眠りへと落ちていった。
◆◆◆
朝のテント街はいつもどおりの喧騒に包まれていた。冒険者や労働者があわただしく荷物をまとめる音、笑い声や怒号が混じり合いながら、新しい一日へ向かって動き出している。そんな中で、ルナは目を覚まし、昨夜の余韻が残る身体をゆっくりと起こした。
「今日が出発の日……」
隣ではハクも「わふ」と短く鳴き、テントの片隅で尻尾を振っている。ルナは心の隅にひっかかる寂しさを振り払うように深呼吸し、いつものようにテントを手際よく畳みはじめた。ガウディ便の出発が近いのだから急がなければならない。
しかし、いつもなら朝の焚き火にあたっているはずのマルクスの姿が見当たらない。ジェニーもいない。彼らのテントは閉ざされたまま。考えてみれば、昨夜遅くまで盛り上がっていたので、まだ眠っているのだろうかとも思うが、ルナは心の奥で少しだけ切なさを感じる。挨拶は済ませたとはいえ、こうして改めて出発の日を迎えてみると、仲良くなった人たちとの別れが名残惜しくなるものだ。
「まだまだ、この別れには慣れないよ……」
心中でそう呟きながら、ルナはハクの寝床や調理道具などをマジックバックへ収めていく。森の香りとスパイスの残り香が入り混じるテント街に、朝の冷えた空気が微かに漂っていた。
最後にテントの骨組みをしまい込むと、ルナはマルクスたちのテントの前に立ち、ハクと一緒に頭を下げるように軽くおじぎをする。
「ありがとうございました。また会えること……いえ、ぜひまた会いたいです。さようなら」
するとハクも、まるで同じ気持ちであるかのように「わふ」と小さく一声鳴く。ルナはもう一度、テント街を見渡した。たくさんの思い出が詰まった場所から離れるのはいつも切ない。でも、旅人にとっては当たり前のことだろう。そう自分に言い聞かせるように肩を回して、ルナは足早に歩き出す。
「行こう、ハク。ガウディさんの馬車が待ってるはず」
「わふ!」
広場の出口へ向かうルナの姿が遠ざかる頃。ひっそり閉ざされたマルクスたちのテントの中、わずかに漏れてくる息づかいと、かすかな湿った音。誰の耳にも届かぬよう、小さくなった男のすすり泣きが、静かにテントの奥へと消えていくのだった。
◆◆◆
早朝の屋台街は、夜のにぎわいが嘘のように静まり返っていた。
ルナとハクは通りに並んだ屋台を横目に、まだ微かな朝日が差し込む道を歩いていく。つい昨夜までの賑やかな宴が嘘のようだが、いつものことなのだろう。大きな都市で暮らす人々の生活リズムを感じながら、ルナはハクに話しかける。
「いろいろおいしいものがあったね」
「わふ(おにくたくさん)」
ハクは満足そうに鼻を鳴らす。思い返せばフォレスティにいる間、肉料理を何度も堪能したおかげか、ハクの身体は少しだけ大きくなったように思える。フェンリルの血を引くという特別さだけでなく、栄養もしっかり取れているのだろう。ルナは軽く微笑んでハクの頭を撫でた。
「お肉をたくさん食べたからかな。やっぱりいっぱい食べていると成長も早いのかな」
「わふわふ(ハク、おおきくなるよ、おにくたべる)」
しっぽを振るハクの姿は、すでに以前の“小さな子狼”とはいえない貫禄が出てきている。もはやリュックに入って移動するのは不可能で、抱き上げるのにも一苦労だ。昔はちょこんと抱えられたけれど、今では身体ごと持ち上げるとなるとルナには重すぎるだろう。
もっとも、ルナはこの成長を見越してすでに“従魔登録”を済ませており、従魔用の装飾品――首輪やハーネスも用意してある。堂々と一緒に歩くときには、ハクの存在を明らかにしておいたほうが安全で、人目にも怪しまれにくい。なにより、ハクを隠す必要なんてもうどこにもないと、ルナは思っている。
「これからは堂々と、私の隣を歩いてもらおうね、ハク」
「わふ!」
そんなやりとりをしているうちに、街はずれの乗り合い馬車広場が見えてきた。屋台街を抜けた道の先には、朝陽が淡く照らす中、すでに馬車が何台か待機しているようだ。飼葉を食む馬の姿がちらほら見え、ガウディ便らしき看板の周りには早々と旅支度を済ませた人々が集まり始めている。
ルナは少しだけ足取りを速め、ハクの歩幅に合わせて歩く。これから先の街へ向かう旅がまた始まるのだ。フォレスティでの思い出は温かく心に残るが、同時に未知の場所や冒険を思うと胸がわくわくする。ハクもその気持ちを察しているのか、尻尾を楽しげに振りながら隣を歩き続けていた。
「さあ、行こう。次の街まで、また一緒に頑張ろうね、ハク」
「わふ!」
そんな一人と一匹の姿を見守るかのように、朝の空気が少しずつ光を帯び始める。今日も一日、穏やかで良い旅路となるように――ルナはそう願いつつ、広場で待ち受けるガウディ便の姿へ目を向けた。
「おはようございます、ガウディさん」
乗り合い馬車の広場に足を踏み入れると、ガウディが馬の世話をしている姿が目に飛び込んできた。愛馬への愛情が並大抵でないのは、遠目にも伝わるほど。夜露を払うように毛並みを丹念にブラッシングし、朝日を背に浴びるその姿は、どこか神々しくさえ見える。
「おう、ルナ。おはよう。よく休めたかい?」
ガウディは振り返りもせずにブラッシングを続けながら、穏やかに声をかける。馬の毛並みはすでにツヤツヤで、馬自体も気持ちよさそうに鼻をふんふん鳴らしている。そんな風景を前に、ルナは思わず微笑んだ。
「はい、食べ物も本当に豊富で、製材所の見学なんかもしちゃいました。面白かったです」
「わふ(おにく、よかった)」
ハクが尻尾を振りながら口を挟むように鳴くと、ガウディが「そりゃ何よりだな」と軽く笑う。すると、横から見習い商人の青年がやってきて会話に加わった。
「製材所見学とは、ずいぶん大人びた感性してるんですね。おはようございます、ルナさん。あの宿屋事情、大変でしたよね。どこも満室でしたけど、どちらに泊まっていたんですか?」
青年は少しあどけない表情で首を傾げる。一方のルナは「テント泊だったんです」と答えそうになるも、その前にガウディが軽く咳払いをしながら補足する。
「この子はテント泊でな。だが俺たち御者や、商人ギルドなんかに所属してる連中はもう少し融通が利くんだよ。おれ達御者の場合は、どの街にも“仮眠場施設”があって、無料で利用できるんだ。夜通し馬車を走らせる仕事だからな」
「そうそう、ぼくら商人も同じように“商人ギルド”の施設があったり、支部のある商会で面倒みてもらえたりします。だから宿屋が取れなくても最低限の寝床は確保できるって寸法ですね」
青年は自慢げに言いながらも、「でも一般の人には厳しいですよね、この街の宿事情……」と苦笑混じりに続ける。ルナは初めて聞く情報に目を丸くしながら、なるほどどのギルドにもいろいろな特典や制度があるのだと感心した。
「御者が無料で利用できる仮眠場施設や、商人の協会施設があるなんて……。そのへん、冒険者ギルドもいろいろ待遇はあるけど、宿屋まではないですもんね。勉強になります」
「ま、なんにせよ住み分けされてるってことさ。森を守るのは冒険者、物を流通させるのは商人、街から街へ人を運ぶのが御者――皆が役割を持って生きてるってわけだ」
ガウディはそう言いながら、ブラッシングを終えた馬の鼻先を軽く撫でる。馬が満足そうに鳴いたところで、彼はルナに向き直り「乗客が揃うまで、もうちょい待っててくれ。そしたら出発だ」と言う。
「わかりました。支度はもう大丈夫です。ハクと一緒に待ってますね」
「わふ」
ハクは「いつでも行けるよ」と尻尾を振り、ルナは頷き返す。周囲では他の旅人が荷物を抱えて集まってきており、昨日までのフォレスティでの思い出を胸に、ルナの旅はまた一歩先へ進もうとしているのだった。
ガウディ便が出発を待つ間、ルナは時間を無駄にせず簡単な食事を作り始めた。いざ旅の途中で長く走り続けることになっても、お腹を満たす軽食があると助かるからだ。ハクは馬の傍で静かに待っているものの、時折ルナのもとに戻っては鼻をくんくんさせ、食欲をそそる香りに反応している。
「よし、まずは小麦粉とミルクで生地を作ろう」
軽く混ぜ合わせた生地を薄く伸ばし、クレープのように薄い円形に広げて焼く。バターなどは使わなくても、中火で焦がさないように注意すれば、ほんのりきつね色になってふわりと焼き上がる。何枚か焼いたら、次は中に挟む具材の準備だ。
「干し肉とトマト、ズッキーニをサイコロ状に切って……タマゴ、ビネガー、塩で整えた“マヨネーズもどき”と和えておけばいいかな」
本格的なマヨネーズとはいかないが、タマゴとビネガーと少量の油、そして塩を混ぜ合わせれば、それらしい味が出る。切り揃えた具材をボウルで和え、ほんの少しスパイスを加えると、冷蔵保存こそ利かないが短時間であれば美味しく食べられる。
「生地に挟んで包めば……できあがり」
クレープ状に焼いた生地を広げ、サイコロ状の具をどさりと乗せ、くるりと巻いてたたむ。あっさり目の即席サンドのような形だ。いくつか作り終えたら、マジックバッグにまとめて収納しておく。こうしておけば、道中お腹が空いたときやハクが腹ペコになったときに、すぐ取り出して食べられる。
そんな作業をしているうちに、広場には徐々に乗客が増えてきた。ガウディの馬車周辺にあわただしい気配が漂い始める。見やると、まずは大柄な男と、その取り巻き数名。荷物を運ぶ従者らしき人はおらず、しかし服装や振る舞いからしてただものではない雰囲気を醸し出している。
「リベラ商会の次期商会長、二代目のミルト・リベラ様だって。大きな取引の契約しに行くんだってさ」
乗客の一人が小声で教えてくれる。名の知れた商会らしく、周囲の視線が自然と集まる。堂々とした姿で、ミルト・リベラはガウディと話をしているようだ。
続いて目に入ったのは、Dランク冒険者らしき男性二人組――バッツとガイと名乗っているようだ。雰囲気からしてかなり気安い仲間同士らしく、互いにじゃれ合いながら大きな荷物を抱えて馬車へと近づく。
さらに、猫型獣人の女性、マイキーがしなやかな動きで人混みを抜けてきた。尖った耳としなやかな尾が目を引くが、当の本人は煩わしそうに「うにゃ……混んでる……」とぼやきながら馬車に乗る順番を待っている。
そこへ、見習い商人がやってきて「おはようございます、ルナさん。今日はよろしくお願いします」と声をかける。どうやら今回のガウディ便は、ミルト・リベラ、バッツとガイ、マイキー、そして見習い商人にルナとハクを加えたメンバーで出発するようだ。
「よし、みんな揃ったな。大きな荷物も確認できたし、あとはガウディが準備を終えれば出発だね」
ルナは小声でつぶやきつつ、自作のクレープサンドが入ったマジックバッグをさすりながら、ハクと一緒に馬車へ乗り込むタイミングを待つ。新しいメンバー、新しい道程――どんな旅になるのだろう。少しそわそわする胸の奥で、前世の記憶を頼りに試みた新しい料理やお菓子をどう活かせるか、そんなことを考えながら、ルナはにこりと微笑むのだった。
◆◆◆
アクスジール――次なる目的地は海岸沿いに位置し、かつて海賊が勢力を築き上げ発展させた歴史をもつ街。漁業が盛んで、海路を使った物流の拠点として数多くの船が発着する。ここを出発点とし、あるいは終着点とする航路が多いため、商会も競うように支店を置いている。
今回、二代目リベラ商会のミルトや見習い商人の青年たちは、大きな取引のためにこのアクスジールを目指すようだ。海路による流通の中心地として、漁業と貿易で賑わう街――そこが、ルナとハクが次に向かう旅の舞台になる。
海からの潮風が香るというアクスジールは、これまでルナが訪れた内陸の街とはまったく違う雰囲気をもっているだろう。海岸に並ぶ船や、海産物を扱う屋台の数々、そして海路を使った大規模な商取引に関わる商人たちの活気……想像するだけでも胸が躍る。
リベラ商会の当主代理として動く二代目のミルトや、経験を積むために旅を続ける見習い商人の青年も、その海と商取引の中心で思惑を抱えつつ行動するはずだ。ルナとハクは、そんな人々が行き交う大きな海の街で、また新たな出会いと経験をすることになる。
荒波を乗り越えてきた海賊の名残が息づくアクスジール。そこが、次なる旅路の舞台だ。
フォレスティから各地へ出発する乗り合い馬車の一団が、次々と森の道へ消えていく。
そのうちの一台――海岸を目指すガウディ便にも、ルナとハク、そしてほかの乗客たちが乗り込んでいた。
とはいえ、すぐに海岸の潮風を感じられるわけではない。しばらくはフォレスティ周辺の広大な森林を抜ける旅程が続くのだ。
「ここらの森はやたら広いからな。にわかが徒歩で抜けようとしたら、一週間かかっても抜けられんなんて話もあるし」
ガウディが御者台から振り向いて、乗客に向けて声をかける。
フワリとした揺れとともに、馬車は深い森の道をのんびりと進んでいく。
外を見ると、川のほとりにはテントがぽつぽつと並んでいて、ここ一晩で到着した旅人たちが市内に入りそびれて野営した跡が見える。
「中に入ってもテント生活なのに……。でも、それを教える間もなかったな」
ルナはそんなことを考えつつ、通り過ぎるテント群にちらりと目を遣る。
「わふ」
ハクが同意するように鼻先を動かす。
他の馬車もいくつか見えるが、行き先はバラバラだ。ガウディ便は海岸沿いの街、アクスジールへ向かうのが決まっているが、数日間はこの森林帯を走り抜けることになる。朝の柔らかい陽射しが木々の隙間から差し込んで、馬車の屋根と乗客の身体を暖かく包んでくれる。
「森が深くてなかなか日差しが届かないところもあるが、この時間帯だけはいい雰囲気だろ?」
ガウディがその様子を楽しむようにつぶやく。ルナもハクも、まだ高く昇りきらない太陽の光を浴びながら、心地よい揺れに身を任せていた。
「確かに。朝の森って穏やかですね」
「わふ…(きもちいい)」
深い緑の中、壁川に沿って続く道を馬車は静かに進み続ける。アクスジールへは遠い道のりだが、森を抜ければ潮の香りのする海岸が待っている。
まるで森そのものが眠りから目覚めるように、鳥や小動物の気配が徐々に増していく朝の光の中、ガウディ便の一行はさらに森林の奥へと駆けていくのだった。
◆◆◆
フォレスティを出発してしばらく経った頃、ガウディが御者台から鋭い声を上げた。
「お出ましだぜ!」
すると乗り合い馬車が急に停止し、揺れが車内を走る。ガウディはすかさず手綱をまとめてから腰の剣を抜き、周囲を見回して臨戦態勢に入った。
「ダイアウルフが二頭……いや、もっと潜んでいるかもしれない」
その言葉とともに、バッと馬車の扉を押し開いて飛び出したのは、Dランク冒険者のバッツとガイだ。二人とも強面というわけではないが、動きには無駄がなく、戦慣れしているのがうかがえる。
「ダイアウルフなら、周辺にほかの個体が隠れてる可能性もあるな。ガイ、警戒を怠るなよ」
「もちろんだ、バッツ。二頭以上いるなら囲まれちまうぞ」
彼らは即座に馬車の周囲を一望し、戦うときの隊形を取る準備を始める。車外に身を乗り出したリベラ商会のミルトも険しい顔であたりを伺っているが、今回は冒険者ではなく商人――むやみに前に出るのは避けるべきだと判断したのか、馬車からは出ずに構えているようだ。
一方、ルナは車内の奥でハクと共に身を伏せていた。突如として現れた危機に、まだ状況をつかみきれない。ガウディが剣を構えているのを見るかぎり、ダイアウルフは油断できない魔物なのだろう。ハクも低く唸るような声を漏らし、「わふ……」と警戒心を見せる。
(まずい、馬が怖がって暴れたら大変だ……)
ルナがそんなことを考えた矢先、ガウディがちらりと馬車に目を向け、低い声で指示を飛ばした。
「ルナ、しばらく馬車の中にいてくれ! ハクが落ち着いてるなら、降りてきてもかまわないが、無理はするなよ。ダイアウルフは猪突猛進型のボアウルフよりは狡猾だ。囲まれたら厄介だからな」
外ではバッツとガイが周囲の木立の奥を慎重に見据え、槍や剣を構えている。森の小鳥の声が消え、嫌な静寂が漂ってきた。ルナは馬車の窓越しにそっと息を呑む。
「……わふ(外に出る?)」
ハクが念話でうかがうように呼びかけるが、ルナは迷った末に「もうちょっと待って……」と心の中で応える。おそらくバッツやガイが動き出す合図があれば、出ていくタイミングになるだろうが、今はまだ状況がつかめない。
空気が張り詰めたまま、しばし静寂が続く――やがて、森の奥から低く唸るような音が聞こえ、木々の隙間を縫うように灰色の影が現れた。
ガウディが剣を持った腕をぐっと構え直す。
「来るか……。一頭じゃねえな、やっぱり」
その声と同時に、冒険者たちの緊張感がさらに高まった。ダイアウルフは大型の狼型魔物で、その群れは素早く、時に知性を持った連携を見せるという。周囲に潜んでいる気配があるならば、正面から出てくるだけでなく、馬車の後方や木立の陰から奇襲する可能性も高い。
唾を飲み込むような一瞬。ルナはハクを抱きしめる形で腰を落とし、緊迫した空気を感じ取っていた。もしこのまま戦闘になれば、どう動くべきか。もしくはダイアウルフたちが戦意を示さず逃げてくれることを祈るしかないのか。
ほんの数秒ほどの沈黙。しかし、彼らにとってはやけに長い時間に感じられる。森の中からは低い獣の唸りが重なり合い、ついに視線の先へ、灰色の毛並みを持つ狼型が姿を現しはじめる――。
ダイアウルフが姿を現した瞬間、ルナは息を飲んだ。森の奥から忍び寄る灰色の巨躯が、唸り声を上げて威圧感を放っている。もはや戦闘は避けられないと悟ったルナは、ハクを連れて馬車の後方へ向かう代わりに、御者台へと静かに移動した。
「馬を驚かせないように……よし、落ち着いて……。大丈夫だよ、ガウディさんがついてるからね」
ルナが馬の首を撫でながら、優しく言葉をかける。興奮気味だった馬はその声に耳を傾けるかのように、わずかにいななきをおさえた。ガウディが剣を携えて動きやすいように、御者台周辺のスペースを確保しなければならない。
「バッツとガイ、後ろは頼んだ!」
ガウディがそう叫ぶや否や、すでに目の前に迫るダイアウルフ二頭に猛然と剣を突きつける。狙いは一撃必殺――大きく踏み込み、鋭い一閃を放つ。最初の一頭は斬撃をまともに受け、悲鳴を上げる暇もなく地面に倒れ込んだ。続けざまにガウディは方向転換し、二頭目に斬りかかる。剣閃が光を反射し、ダイアウルフの防御を許さず肉迫する。
(さすがCランクの実力……!)
ルナは御者台で馬を抑えつつ、その剣の軌跡に感嘆する。ガウディの腕は伊達ではない。群れの他の個体が潜んでいるらしい後方では、バッツとガイがこちらに迫ろうとしているダイアウルフを一瞬の隙も与えず捉えていた。
後方で怯むように動きを止めたダイアウルフを見逃さず、バッツが鋭い突きを繰り出す。素早くステップで横へ回り込んだガイが追撃を重ね、次々と連携攻撃を浴びせていく。ダイアウルフは唸りながら後退しようとするが、息の合った二人の追撃は苛烈だ。ついには、その前足を斬られて大きくバランスを崩し、地面に崩れ落ちる。
こうして前後で二頭ずつのダイアウルフが倒れ込むと、残りの群れは気配を感じ取ったのか、物陰に身を潜めたまま動かない。それとも、すでに逃げ出したのか――。しばらく息を潜めるような間がありつつも、これ以上の敵が出てくる様子は見受けられない。
「ふう……どうやら、いま出ていた個体だけだったみたいだな」
ガウディが剣を振り払って血糊を落とし、短く息をつく。バッツとガイも互いに「怪我ないか?」「大丈夫だ、そっちこそ傷ひとつないだろ?」と確認し合っている。
ルナは御者台で馬をなだめながら、大きく胸を撫で下ろした。ハクも緊張していたのか、低く唸っていた声がすっと途切れ、尻尾を小さく振りながらこちらを振り返る。
「よかった……みんな無事で……」
恐怖が完全に消えたわけではないが、危機を乗り越えられた安堵感がルナの身体を包みこむ。森はまだ朝の光に満ちているが、今の一瞬で空気が大きく変わった。ガウディ便の馬車は再び足を踏みならし、出発の準備を整えなおす。ゴロリと転がるダイアウルフの亡骸から牙を抜き取りながら、冒険者たちが静かに馬車へ戻る。
「さて、急いで出発しよう。あんまり森の中で時間をかけると、また別の魔物に目をつけられるかもしれないからな」
ガウディが声をかけ、馬車はゆっくりと動き出した。一気に静かになった林の奥に、ダイアウルフの群れがまだ潜んでいるかもしれないと思うと、早々にここを離れたい気持ちが強まる。
ルナとハクは馬の側を離れず、冒険者たちが皆乗り込んだのを確認してから御者台の脇へと戻った。深い森の空気が肌に染みるような朝の出来事に、一瞬で空気が変わった名残を感じ取りながら。だが、まだ旅は始まったばかり。ここで無事に乗り越えられたのは、Dランク冒険者やガウディの実力のおかげだ。
こうして新たな危機も乗り越え、ガウディ便の一行は改めて海岸へ向けて森林の道を進み始めるのだった。
ダイアウルフが潜んでいた可能性を考慮し、ガウディは馬車を止めて休憩をとるよりも、移動を続けたほうが安全だと判断した。
乗り合い馬車は一度動き出すと、森の道をせわしなく揺れながら走り続ける。先の見えない林道で、多少の振動はあっても、危険地帯を早めに抜けるほうが得策と考えられたのだ。
「ガウディさん、移動しながら食べられる物、今朝用意してあるんです。皆さんにお配りしてもいいですか?」
御者台の脇で馬を抑えながらガウディが「助かるよ、ルナ」と笑う。冒険者たちもまだ戦闘の緊張感が残っており、落ち着いた食事の時間はとりにくいだろう。そんなとき、片手で食べられるクレープサンドはありがたい。
ルナはマジックバッグから、今朝作っておいたクレープの生地に干し肉や野菜をマヨネーズもどきで和えたフィリングを挟んだ即席サンドを取り出す。包みを一つずつ開いて、冒険者たちや商人たちに手渡していく。
「片手でも食べやすいと思うので、よかったらどうぞ。生地が薄く焼いてあるので、あまりボロボロこぼれないと思います」
「おお、ありがたいね。こんなときに何か腹に入れておかないと、次に何があるかわからんしな」
バッツとガイは馬車の揺れに合わせて身体を安定させながら受け取り、「助かる」「うまそうじゃねえか」と口々に言う。マイキー(猫型獣人の女性)も器用に尻尾を丸めて、片手でクレープサンドをキープしながら「ふにゃ……ありがと」と軽く頭を下げた。大きな荷物を抱えるリベラ商会の二代目、ミルト・リベラも興味深そうにそれを受け取り、ちょっとかじって「ほほう」と唸りながら味を確かめる。
「わふ(ぼくも、たべる!)」
ハクが嬉しそうに身を乗り出したので、ルナはひとつ取り分けて鼻先へ差し出す。ハクは夢中でかじり、しっぽを振って満足そうに味わう。移動中の馬車内でも、こうして片手で食べられるのは何より便利だ。
「いやー、ルナ。ほんと君は頼りになるな。森の中の戦闘のあとでバタバタしてるときに、この手軽さと美味しさは助かるぞ」
リベラ商会の次期商会長であるミルトが、顎鬚に手をやりながら軽く礼を言うと、ルナは「いえ、たいしたことでは……」と照れ笑いを浮かべる。クレープサンドを噛みしめる人々の満足げな表情を見て、ハクもなんとなく得意げに尻尾を揺らしている。
乗り合い馬車はまだ森林の奥を抜ける途中だ。いつまた魔物が姿を現すかもしれない。しかし、とりあえず小腹を満たしておけば、いざというときにも力が出るし、余裕をもって状況に対処できるだろう。ルナは窓の外に広がる木々の影を見つめつつ、また無事に目的地へたどり着けるよう願うように息を整えた。
「さあ、みんな食べ終わったらちゃんと手を拭いてね。揺れでこぼさないよう気をつけて……」
「わふ(ぼくはだいじょうぶ!)」
小さな笑いが馬車内にこぼれ、ガウディ便はゆっくりと森を進んでいく。空には木々を透かして朝日が昇り、次第に昼へと近づく時刻。険しい道ではあるが、仲間たちとこうして乗り越えながら、アクスジールへ向かう旅は続くのだった。
◆◆◆
「このペースなら、暗くなる前に森林の中にある湖のほとりの宿屋に着けるな」
ガウディが御者台から声を張り上げると、馬車の揺れとともにほっとした空気が一行に広がった。先ほどのダイアウルフの襲撃以来、ずっと張り詰めていた緊張が少しだけ和らいだように感じる。
「湖の宿屋……?」
ルナは興味深そうに首をかしげる。ハクも「わふ?」と小さく鳴き、何やら期待しているかのようだ。
「おう、そこの宿屋は名物の魚料理が評判だし、釣り目当ての客も多いんだよ。テント広場もちゃんと管理されてるから、もし宿が満室でも、そこで寝泊まりできる。ちょっとしたバカンスみたいなもんさ」
ガウディが続けて説明すると、乗客たちも「へえ、いいね」「俺も釣りしてみたいな」などと口々に声を上げる。二代目リベラ商会のミルトは忙しい身のようだが、今回の大目的であるアクスジールへ行く途中なら、短い休息も悪くないと思ったのか、小さく頷いている。
「ありがたい話だな。馬車の旅って意外と疲れるし、一泊できるなら嬉しいぜ」
バッツが大きな体を伸ばしながら言い、隣のガイも「それに、せっかくの湖なら魚くらい釣らないとな」と笑みを浮かべる。猫型獣人のマイキーは「ふにゃ……魚の匂いは好きだけど、釣りはめんどいかも」とぼやきながらも、まんざらでもなさそうだ。
「湖で獲れる魚が名物……か。どんな味がするんだろう?」
ルナはつぶやき、ハクと視線を合わせる。ハクは「わふ!」と返事をしながら尻尾を振り、「おいしいの期待してる!」と言わんばかりの様子だ。
「しかも、湖が見えてきたら、そのまま流れ出る支流を下って海岸に行けるんだってよ。目的地の“海都アクスジール”はまさにその先にあるんだ」
ガウディが得意げに言葉を継ぎ、馬車を操りながら前方を指さす。まだ森の木々が生い茂る視界には、湖は見えないが、確かに風の匂いがどこか湿り気を帯び始めた気もする。
この旅で出会った人々――ミルトや見習い商人は大きな取引に向かう途中で、冒険者のバッツとガイは護衛を兼ねて動きやすいルートをたどっている。ルナとハクは、海都アクスジールへの旅をしつつ、道中でさまざまな出会いと経験を重ねている。
「ほんの少し先の湖畔で一泊して、翌朝にまた馬車で出発……。そしたら海岸沿いまでだって、あと何日かの道のりかな」
見習い商人が計算するように話すと、ミルトは微かに頷く。
「うむ、予定より遅れるわけにはいかないが、無理をして体力を損なっても交渉に響く。いいバランスで進めるなら言うことないね」
馬車はしっかり道を踏みしめながら、どこか爽やかな空気を帯びた森の中を進んでいく。ダイアウルフの襲撃を受けたあととは思えないほど、一行は落ち着きを取り戻しつつある。
ルナは改めてハクを撫でて「あと少しで今日の目的地だね。宿屋のご飯、楽しみだな」と微笑む。ハクも「わふわふ!」と答えて元気そうだ。
こうしてガウディ便の一行は、森を抜けて静かな湖畔の宿屋へ――そしてその先に待つ海都アクスジールへと着実に近づいていく。深い森林から差し込む柔らかな夕日の中、次の景色への期待と、ほんの少しの緊張感を胸に、今日という一日の終わりへと馬車を走らせていくのだった。