目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第十四章「リベラ号」

 リベラ商会の貨物船は「リベラ号」と呼ばれており、両側に取り付けられた外輪を猛烈な勢いで回転させながら外洋へと進み始めていた。蒸気機関を用いた外輪による推進は、風や波の影響を最小限に抑え、安定した航行を可能にする。一方で、帆を広げれば風の力も活用できるいわゆる“ハイブリッド”な船で、風が有利なときは帆走し、風が弱ければ外輪を回して進む――その柔軟な航行能力がリベラ商会の大きな強みなのだという。


 甲板から外海を見渡すルナは、海辺の港町で育ったわけでもないので、こうした蒸気船の大規模な動きに圧倒されっぱなしだった。横を通り過ぎる小型の帆船がリベラ号の起こす波に揺られ、バランスを崩しそうになっている光景が遠目に見えたときは、少し肝を冷やす。


「小さな船だと、リベラ号がそばを通るだけで波に巻かれて転覆する危険がある、ってミルトさんが言ってたよね……」


「わふ(こわい)」


 ハクも甲板の柵越しに海を見下ろしながら尻尾を揺らしている。ルナは記憶をたどりつつ、船長やミルトから聞いた“海の掟”を思い出す。大型船には進路の優先権があり、小型船は見つけ次第、避けるのがルール。大きい船からは小さい船が視認しづらく、万が一衝突すれば小型船は簡単に粉々になってしまうからだ。なので小型船は黙って進路を譲るのが当然とされる。


「海上の交通って、陸の上とちょっと違うんだなあ……」

日本では歩行者が優先され、大きい車ほど責任が重くなるけれど、この海ではまったくの逆になる。小型船こそ自己責任が重くなるのが常識だ。もし大きい船とのトラブルで小型船が巻き込まれたとしても、「自分で避けられなかったほうが悪い」という結論になる。


「大型船同士が万が一対峙したら、どっちもお互いに左に避けるのが決まりなんだって。海には海のルールがあるんだね……」


「わふ(ふしぎ)」


 そんな話をしながら、ルナはリベラ号の大きな船体が余裕をもって進路を取る様子を眺める。船外に取り付けられた外輪が荒々しく海水を掻き分けるたび、波が甲板脇を洗っていく。いまはまだ順調だが、もしこれから海が荒れたら、どんな揺れになるのだろう。思えば昨日まで夢のように思えた“船旅”が、いまはこうして現実味を帯びているのだと、ルナは改めて緊張を噛みしめた。


「海って、ほんとに広いんだな。ハク、ちゃんと魔導都市ミスティリアに着けるかな……」


「わふ(だいじょうぶ)」


 ハクの短い返事に、ルナは微笑みを浮かべる。蒸気機関による外輪の回転と、帆がそよぐ音が重なって、不思議な調和を生み出す。リベラ号はこうして波をかき分けながら、少しずつ海都アクスジールを後にし、未知の外洋へと乗り出していくのだった。


 「アクスジールがもうあんなに小さくなってる……」


 船尾のほうを見やると、海都アクスジールが遥か遠くに小さく霞んでいて、広い海と空だけが視界いっぱいに広がっていた。リベラ号は大きな外輪を回転させ、海からの風をものともせずぐいぐいと外洋に進んでいる。大きな魚がその並行線を保つように泳いでいて、時折背びれを海上に突き出しながら跳ねるように進む。ルナは甲板の手すりを握りながら、その魚影をしきりに目で追っていた。


「魔物じゃ……ない、よね? ハク、あれってただの魚かな……」


「わふわふ(さかなたべる)」


 ハクは尻尾を振って、その魚を捕らえてやろうとでも言いたげな表情をしている。その魚は全長二メートルほどはありそうで、背びれも高く、まるでリベラ号の速度に合わせて遊んでいるかのようだ。しかも時間が経つにつれ、同じ種類と思われる魚がどんどん数を増していく。


「どんどん集まってきてるよ……これ、大丈夫なのかな」


 少し焦っていると、近くで作業をしていた船員が声をかけてきた。年配と思しき男はハクをちらりと見てから、ルナに向かって鼻で笑うように親切に教えてくれる。


「風呂屋の薬湯でピリピリ痺れるのがあるってのは知ってるかい? お嬢ちゃん」


「はい、海鳴り亭で入ったんですけど……あれ、少し苦手で」


「ははは、それの強力版みたいなもんを、このリベラ号は海に向けて常に発生させとるんだよ。だから魔物は船になかなか近寄らねえ。近づくと“雷が身体を突き抜ける”って言われてるぐらいだからな」


「雷が……すごい仕組みですね……! でもどういう原理なんだろう……。それなら魚や魔物は船に近づかないんですか?」


「魔物には効くんだよ。言っちゃ悪いが小さな魔物には絶大な効果だ。ただし、海竜と言われるシーサーペントクラスになったら太刀打ちできねえがな。だが心配するな。そんなのめったに出やしねえよ」


 そう言い残し、その船員はマストの上へ身軽に登っていった。ルナは「海竜……シーサーペント……」と小声で繰り返し、少しだけ背筋が寒くなる。とはいえ、船員がああも言うなら、めったに遭遇しないということだろう。ひとまずは安心だ。


「ハク、雷とか痺れるとか、何かすごそうだね。船の技術って本当に驚きばかりだね」


「わふ(だいじょうぶ?)」


 ハクは尻尾を軽く揺らしながら、まるで心配要らないとでも言いたげにルナを見上げる。ルナは苦笑しつつ、広がる外洋と行き交う魚の群れを見渡して、「私たちも負けずに頑張ろうね」とハクに声をかけた。陽光が外輪から跳ねる水しぶきに反射し、甲板をまぶしく照らしている。大海原への船旅は、まだ始まったばかりだ。


 リベラ号は海都アクスジールの港を出て南方へと向かい、陸地の影が遠ざかってから西へ進路を取った。東寄りの風が大きな帆を膨らませ、その力が外輪の蒸気機関と相まってリベラ号にさらなる加速を与える。船を並走していた魚の群れも、加速に耐えられなくなったのか、やがてはばらばらに散っていった。


「この速さなら、あっという間に着いちゃいそうだね、ハク……」


 ルナは甲板の手すりを掴んで、遠ざかっていく水しぶきを眺めながら小さくつぶやく。陸からかなり離れた今、水平線まできれいに見渡せる広い海が広がっている。幸いにも天候は悪くなく、船体も揺れが少ないようで、船員たちも落ち着いた様子だ。


「わふ(はやい)」


 ハクも興味深げに甲板をパタパタ歩き回り、海風に鼻をひくつかせている。船長や船員の話どおり、これほど安定した航行が続くのなら、意外とすぐに魔導都市ミスティリアへ行けるかもしれない。

 しかし、甲板を見渡すと、作業や警戒が必要なくなったせいで、船員の一部が早々にエールを手にくつろぎ始めていた。ルナはその光景に「まだ朝早いのに……」と目を丸くする。


「海に出たら、水が腐って飲み水の役目を果たさないからね」

 側を通りかかった船員が、ルナの視線に気づいたように話しかける。

「エールはアルコール発酵させてるから長い航海でも腐らない。船乗りにとってはまさに“水の代わり”なんだよ。もっとも、いざという時にはいつでも動けなきゃならないから、どんなに酔っていても仕事はできるやつしか務まらん。それが海の常識ってわけさ」


 確かに、船員たちはジョッキを傾けつつも、いざ号令がかかれば一瞬で動き出せそうな雰囲気を漂わせている。それほどの体力と酒への耐性がなければ、危険と隣り合わせの海上勤務はこなせないということなのだろう。ルナは苦笑しながら、「そう考えると船乗りの人たち、すごく頑丈だよね……」とハクに話しかけた。


「わふ(つよい)」


 相変わらず機嫌良さそうにしっぽを揺らすハクを見ていると、ルナも少しだけ安心してきた。海風が爽やかに吹き、帆と外輪の併用による力強い推進がリベラ号をぐんぐん前に進ませる。船員が蒸気機関のメンテナンスをする音や、マストの上から指示が飛ぶ声などが入り混じって、船上独特の活気が満ちている。


「よし、私も船酔いしないように、気をつけていこうね。ハクにも飲み水を確保してるし……」


 その先に見える水平線の向こう。魔導都市ミスティリアまでは、あと幾日かの船旅。ルナは心の中で「無事にたどり着けますように」とひそかに願いながら、深く青い海に目をやった。ハクは「わふ」と小さく鳴き、まるで「任せておけ」とでも言いたげに尻尾を振っていた。


 陽がちょうど真上に昇り、リベラ号が穏やかに航行している頃、船長からルナへ声がかかった。


「オラたちは決まった時間に飯を食うわけじゃねえ。腹が減りゃ干し肉かじって、喉が渇きゃエールを飲む。それが船乗りの流儀だ。お嬢ちゃんは好きにしてくれ」


 そう言われ、ルナは「あの、料理しても大丈夫ですか?」と尋ねた。

「魔導コンロを持っとるなら甲板でならいいぞ。がははは、ま、気楽にやれや!」


 船長が豪快に笑って操舵室へ戻るのを見送りつつ、ルナはハクと顔を見合わせる。

「それじゃ、邪魔にならないところでご飯しようか」

「わふわふ(ごはーん)」


 甲板の邪魔にならない場所を選んでプレースマットを敷き、マジックバッグから魔導コンロを取り出して設置する。

「よし、せっかくだし、あのシーバード使おうね」

「わふ(おにく)」


 さっそくアクスジールで仕入れたシーバードのもも肉をマジックバッグから取り出し、1センチほどの厚さにスライスしていく。バゲットも取り出し、同じようにスライス。魔導コンロを点火し、スキレットを乗せて熱が十分に回るのを待った。


 やがて、スキレットがチリチリと音を立て始めたところに、シーバードのもも肉を皮目から投入。

「わあ、いい匂い……!」

 肉が焼ける香ばしい匂いと、熱された脂が混ざり合って、潮風の中でもはっきり伝わってくる。両面をしっかり焼き、皮目はパリッと、身のほうは程よく火が通ったところに、昨日仕入れておいた濃厚なタレを絡める。

 バゲットに葉野菜を並べ、その上に照り焼きになったシーバードのもも肉を乗せて、ストックしてあったマヨネーズもどき(タマゴとビネガーなどを使った簡易ソース)をたっぷりかけたら、最後にもう一枚のバゲットをかぶせて完成。

「シーバードの照り焼きサンドイッチ、できあがり!」


「わふ(はやく)」


 ハクは待ちきれない様子でしっぽを振る。ルナが笑って「はいはい」とハクの分を渡そうとした瞬間、いつのまにか船員たちが周囲を取り囲むようにして見下ろしていた。

「なんじゃそりゃ!」

「ずいぶんうまそうだな」

「その照り焼きってやつ、オレも食いたいぞ!」


 照り焼きタレの甘辛い匂いに惹かれてしまったのだろう。漁や戦いの合間に干し肉やエールしか口にしていない船乗りには、こんな香りはたまらなく魅力的だ。

「いくらでも作れますよ。材料はけっこうあるので」


 ハクに照り焼きサンドをあげて、一息つく間もなく、ルナは船員たちのために量産体制に入った。焼きたてで香ばしく、甘辛いタレをまとった肉を、バゲットと葉野菜が受け止め、噛めば肉汁とタレがジュワッと溢れ出る。

「ありがてえ! こんな贅沢なもん食ったの初めてだ」

「この娘、ただもんじゃねえなあ……」


 船長までいつのまにか合流していて、大声で「がははは」と笑っている。

「海の上でこの匂いは反則だな。こっちまで腹が鳴っちまうわ! がははは!」


 ルナは「船長まで……」と驚きながらも、慌てず次々と焼き上げてはサンドを作り、船員の手に渡していく。潮風に負けないほどの照り焼きの香ばしさが、甲板いっぱいに広がる。なんとも賑やかな船上の昼食会になった。


「みんな満足してくれて良かった。ハク、あなたのおかげで材料いっぱい持ってきたからだね」


「わふ(よかった)」


 そうしてリベラ号の船員たちが、思わぬ形でシーバードの照り焼きサンドに舌鼓を打つうち、ルナとハクにとっても、忘れられない船上での昼食時間となった。やがて食べ終わった船員たちはエールを手に甲板で一息つき、船はまた外洋へと順調に航行していく。ルナはその様子を微笑ましく眺めながら、「こういう時間も悪くないな」と静かに思うのだった。


 思いがけない船上の昼食会が終わり、潮風が甲板を撫でるなか、ハクが大きなあくびをした。その姿につられそうになりながらも、ルナはぎりぎり踏みとどまる。そんな二人を見ていた船員が笑いながら声をかけてきた。


「よかったら、見張り台(檣楼)まで登ってみるか? 眺めも風も気持ちいいぞ」


「ええっ、あんな高いところ……無理ですよ」


 ルナはリベラ号の大きなマストを見上げて、思わず後ずさりする。甲板から見てもその高さは圧倒的で、揺れる船の上からあそこへ登るのは想像しただけでも足がすくむ。ハクも「わふ?」と鼻を動かしながらマストの上を見つめていた。


「見てみろよ、あそこに編み目のファトック・シュラウド(海縄ばしご)が斜めになっているだろ。あれは未熟な船員向けって言われてて、ゆっくり登ればなんとかなるんじゃないかって話さ」


 船員はマストを支えるロープ・シュラウドに、ラットライン(段索)が取り付けられている部分を指差す。まるで網状のはしごのようにも見えるが、ルナにとっては十分に恐ろしげな高さだ。


「落ちたとしてもシュラウドがクッションになって、甲板まで真っ逆さまに落ちるわけじゃない。そこまで怖がるほどでもねえさ」


「そ、そう言われても……。あんな高い……しかも揺れる……」


「まさかメインマストの上の見張り台を想像してるのか? それは無理だよ、船員でも訓練積んだやつじゃないと厳しい。オレが言ってるのはサブマストの下の段さ。高さも半分くらい。絶景だぞ?」


「え、それでも結構……高いと思うんですけど……。や、やめておきます」


 ルナは必死に笑顔を作って断る。船員は「はは、そうか、まあちっちゃいもんな。もうちょっと大きくなったら考えな」と冗談めかして肩をすくめ、笑いながら去っていく。


「ちっちゃくてごめんなさい……」


 ルナは肩を落とし、去っていく船員の背中を見送る。ラットラインがずらりと並ぶマストを仰ぎ見れば、甲板からでも分かるほど頂上は遥か遠い。あんな高さへ登ったら視界が一変するのかもしれないが、同時に恐怖で動けなくなってしまいそうだ。


「やっぱり……高いよ、あれは……」


「わふ(あぶない)」


 ハクも短く鳴き、いつにも増して慎重な表情を見せる。二人で甲板の端に立ち、海と空の境界線を見つめながら、ルナはそっと息を吐いた。船旅はまだ始まったばかり——無理をせず、少しずつ慣れていけばいいと心に言い聞かせつつ、マストの先端に揺れる旗を見上げている。


 ◆◆◆


 のんびりとした船旅とはいえ、やることが見つからないと退屈してしまう。そこでルナは「それなら夕食の準備を早めに始めよう」と思い立ち、甲板の一角を借りて魔導コンロに大鍋をセットするところから作業をスタートさせた。


「お昼のときみたいに、きっとまた船員さんたちが集まるだろうから……大鍋でたっぷり作っちゃおうね、ハク」


「わふ(おにく!)」


 甲板の上で、リベラ号のゆるやかな揺れを感じながら、大量の水を大鍋に注ぎ込む。メイン食材はシーバードの肉。ひとまず骨をきれいに外し、身をすべて集めたあと、骨を大鍋に入れてじっくり煮出していく。沸騰させてはアクを取り、まるで鶏白湯を作るように丁寧に旨味を引き出すと、やがて甲板じゅうに香ばしい出汁の匂いが漂い始めた。


「わふ(いいにおい)」


「ふふ、まだ途中だから。もう少し我慢してね。きのこもたくさん入れよう。野菜もカットしなくちゃ……」


 ルナはキノコや根菜を適当な大きさにカットしながら、並行してシーバードの身を叩いて挽肉にし、そこに細かく刻んだ軟骨を混ぜて団子状にこねていく。軟骨が入ることでコリコリとした食感が加わり、船員の胃袋をさらに刺激してくれるはずだ。ここに塩やスパイスを加え、タネを丸めれば肉団子の準備が完了。


「だいぶいい感じに煮えたね。そろそろ団子を入れようか」


 白濁したスープがチラチラと泡を立てはじめた頃合いを見計らい、ルナは肉団子を大鍋に投入。じゅわっと湯に浸かる音に、ハクが「わふわふ(はやく!)」と待ちきれない声を上げる。さらにカットした根菜や葉野菜を加えていくと、具だくさんのシーバード団子スープが完成した。


「できたー!」

「わふわふ(たべるたべる)」


 鍋のまわりを見渡すと、いつの間にか船員たちが器を手に並んでいた。先頭には船長がいて「がははは、こりゃいい匂いだ」と笑い声をあげる。ルナはハクの分をしっかり取り分けてから、船員の器へと次々にスープを注ぎ足していく。昼のサンドイッチよりも鍋から器に盛るだけの作業なので、思ったよりも効率よく配給が進んでいく。


「ありがてぇ!」「こんな贅沢な団子は初めて食うぞ!」

「がははは、だれかオラにエールを持ってこい!」

「おい、おかわり頼む!」


 盛り付けが終わるころには、大鍋はあっという間に残りわずかになっていた。ルナ自身もようやく自分の器を手にして、仕上がったばかりの団子をそっと口に運ぶ。


「あ、熱い……でもおいしい……!」


 シーバードの挽肉はジューシーで、そこに混ぜ込んだ軟骨がコリコリと楽しい食感を生み出す。白濁したスープには濃厚なうまみが滲み出ていて、野菜やキノコが程よく柔らかくなっている。塩分と熱々のスープが、甲板に吹く潮風と合わさってさらに食欲を駆り立てる。


「コリコリしてたまんねぇな!」「肉団子って、こんなにうまいもんだったのか……」


 船員たちが上機嫌になっていく中、船長も舌鼓を打って「がははは、最高だ」と笑みを浮かべる。ルナは「口に合ってよかったです」と安堵しながら、ハクの器にもしっかり団子をよそってあげると、ハクは「わふわふ」と嬉しそうに頬張っていた。


 こうして船上での夕食は、思わぬ“シーバードの団子スープ会”となり大盛況で幕を下ろす。すっかり空になった大鍋を見て、ルナは嬉しそうに息をつく。海風のなかで熱々の料理をひたすら作るのはなかなか体力を使うが、それが報われる光景こそ、料理の醍醐味なのだろう。船員たちの笑い声と潮風、そして魔導都市ミスティリアへ続く未知の航路——そんな混ざり合った空気を感じながら、ルナとハクは船上での新たな夜を迎えようとしていた。


 陽が沈み始めると、リベラ号は夜間航行のための灯火を点し始めた。左舷は赤色、右舷は緑色。夜でも左右が判別できるようになっていて、「大きい船は左へ避ける」という海の掟を反映している。さらに、前方には白色の全周灯が高めに設置され、後方には低めにもう一つの白色の全周灯、そしてマストには左右を照らす白色灯が灯る。海上での事故を防ぐための重要なルールがそこに詰まっていた。


 そんな頃、ルナは操舵室の扉を控えめにノックした。

「船長、甲板にテントを張ってもよろしいでしょうか?」


「部屋を使える許可もらってるのに、どうした? 二代目の言葉だろう」

「はい、でも、船に乗せてもらうだけでも助かったのに、ミルトさんの部屋まではちょっと……。ハクもいますし」


 船長は「がははは」と豪快に笑って頷いた。

「じゃあ好きにやれよ。ただ、真っ暗で何も見えねぇから、テントのそばにランタンを置いておけ。それさえしてくれりゃ問題ねぇ。気楽にやれや」


「ありがとうございます。ではおやすみなさい」


 操舵室を抜け出したルナは再び甲板へ戻る。海風は日中よりも強まり、髪を大きく揺らしている。床に魔導コンロや調理具の名残を片づけつつ、ルナは慣れた手つきでテントを取り出し、ロープを甲板の突起にしっかりと結んで風対策を施す。砂袋の代わりに持ち合わせの重い工具を使って固定するなど、ちょっとした工夫を凝らしているうちにテントが形になった。


「ハク、海風が強いから、ちゃんと固定しないと飛ばされちゃうね」

「わふ」


 甲板の上は日が沈みきると真っ暗になると船長が言っていたが、ランタンを一つテントの入口に置けば、足元の明かりとして十分だろう。星がちらほら見え始め、夜のとばりが静かに降りる気配がする。


「もう少しで満点の星空が広がるんだろうね。きっとすごいんだろうな……」


「わふー(ねむい)」


 ハクが大あくびをかみ殺せず、尾をだるそうに振っているのを見て、ルナは少し笑う。

「今日も一日、お疲れさまでした。ありがとう、ハク。ゆっくり寝ようね」


「わふ」


 そう声をかけながらテントの中に入り、簡単な寝具を敷く。いつもの地面ではなく固い甲板だけど、心を落ち着かせれば海の静かな揺れがリズムとなり、かえって眠りを誘ってくれそうだ。夜風に揺れるランタンの光が、テントの布をほのかに照らし、外の星々の息遣いがかすかに伝わってくる。


「おやすみ、ハク……明日はどんな海の景色が見られるんだろうね」


 ルナのささやきにハクは「わふ」と返し、すぐに寝息を立て始めた。静かな夜の海の上で、テントの明かりは小さく揺れ、リベラ号はゆっくりと隣国ミスティリアへ向けて航行を続ける。


 ◆◆◆


 潮風が吹きつけ、テントの布がバサバサと大きく揺れる音に、ルナははっと目を覚ました。どうやらハクと一緒に横になっている間に、いつの間にか眠ってしまったらしい。

 テントの入口を少し開けると、甲板は真っ暗闇に包まれており、そばに置いてあるランタンだけがかすかな明かりをともしていた。


「よし、ちょっとだけ……」


 ランタンを手に取り、入口の明かりをいったん消してから、ルナは夜空を見上げる。船上の海風と相まって、ただでさえ静かな深夜の海が、いっそう神秘的な雰囲気を醸し出している。すると、濃い闇の中に信じられないほどの数の星が瞬いていた。


「うわあ……すごい……」


 海上の澄んだ空気と漆黒の闇が相まって、まるで星の海に浮かんでいるかのような感覚だ。星明かりがわずかに甲板を照らし、どこからか遠く機関の低い振動音が微かに聞こえる。ルナは息を呑んで、きらめく星を見つめる。


「あ、流れ星……」


 小さく光が走り、消えてゆくのが視界の隅で見えた。何年、何十年、何百年も昔に放たれた光だと聞くことがある。今やもう存在しない星の光かもしれない、と思うと、不思議な切なさを覚える。


 視線を落としてみると、メインマストの見張り台でランタンを持つ船員が動いているのが見えた。夜中でも船が航行している限り、誰かが見張りをしているということだろう。暗い夜空を背景に、その小さな灯りが頼りなくも確かな人の存在を示している。


「お疲れさま。夜中もありがとうございます」


 声に出すわけではなく、ルナは心の中でそう呟いた。夜間航行でも動き続ける船員たちに感謝を送り、ランタンの火をもう一度点けてテントへ引き返す。真っ暗な甲板では、足元の明かりがなければ周囲に気づかれずに動き回るのも危険だからだ。


 テントに戻ると、ハクはまだ半分眠ったままの様子で、尻尾を少し動かしている。ルナはそっとハクの頭を撫でて、自分もまた寝袋に身を沈めた。先ほどまで目にした圧倒的な星空の光景は、そのまま瞼を閉じても、しばらく心を満たしてくれそうだ。


「おやすみ、ハク……」


 かすかな海鳴りと船の振動が、子守唄のように甲板のテントを揺らしている。こうしてリベラ号の夜は、静かにゆっくりと更けていった。


 ◆◆◆


 突然、汽笛がけたたましい音量で響き渡り、単音一回・長音一回・単音一回の三連符が船内中にこだまする。あまりの大きさに飛び起きるように目を覚ましたルナは、急いでテントを抜け出し、甲板へ出た。


「な、なにごと……?」


 外はまだ薄暗く、海の上で時間帯が分かりづらいが、東の空は淡く白みがかり、夜明けが近いことが感じられる。ルナが右舷(船の右側)へ目をやると、リベラ号に匹敵するほどの大きな船が迫ってきていた。互いに並走するような位置にあるため、大きな波がぶつかりあい、船が大きく揺れる。風までもが相互に交差し、甲板には鋭い潮風と波しぶきが混ざったような感覚が伝わってくる。


 リベラ号の船員たちはすでに起き出しており、汽笛を鳴らしたのも自船の位置を示すための合図だったようだ。大きな船同士が近づいた際の海上ルールに従い、お互いに立ち位置や進路をはっきり示し合っているのだろう。


「びっくりした……。すれ違うだけで、こんなに揺れるなんて思わなかったよ」


 ルナは甲板の柱に手をついて体を支えながらそう呟く。眠そうに出てきたハクが「……わふ」と、小さな声を上げてあくびをする。ルナは苦笑してその背を軽く叩いた。


「まだ眠いよね、ハク。ごめんね、起こしちゃって……。寝てていいよ」


 ハクは「ゎ……」と口を開くが、すぐにあくびに変わる。緩い振動が続く甲板ではあるが、大きな衝撃は起こらなさそうだ。まもなく、すれ違う船との交差が落ち着き、互いにまた自分たちの進路に戻っていく。


「接触しなくてよかった……」


 安堵の息を吐きながら、ルナは甲板の端に立って周囲を見回した。水平線の向こうから、眩しい陽光が昇り始めており、朝の光がゆっくりと海面を照らしていく。時計はないが、感覚的には夜明けからそう遠くない時間なのだろう。寝ぼけまなこで空を見上げると、かすかな赤みが雲を染め始めていた。


「さあ、もう少し寝るか、ハク……。それとも朝ごはんの準備をするか……」


 眠たそうなハクに話しかけつつ、ルナはまだ夜露の名残を感じるテントのほうを見返す。潮風が少し冷たいが、まもなく日が昇って暖かくなるはずだ。昨夜の揺れの少なさに比べると一気に波が高まっているようで、改めて海上の旅が一筋縄ではいかないことを思い知る。ともあれ、船員たちが落ち着いて作業をしている姿を見ると、彼らには想定内の出来事なのかもしれない。


「よし、ハク、もうちょっと寝る?」


「わふ(ねむい)」


 小声で言葉を交わしながら、ルナはもう少しだけ横になろうかどうしようか迷っていた。大きな船のすれ違いという非日常の一幕が終わりを告げると、また船は静かに朝の準備へと戻っていく。海上の旅――次々に新しい体験が押し寄せるなかで、ルナは息を整え、ハクと共にほんのひとときの休息を取ることに決めた。


 ◆◆◆


 やがて甲板で船員たちの声が聞こえはじめ、リベラ号に朝が訪れた。寝足りないかと思いきや、船の上では特にやることもなく十分な睡眠をとったせいか、ルナの目覚めは上々だった。


「せっかくだし、暖かくて栄養があって、大量に作れる朝ごはんを用意しようか。ね、ハク」


 テントから出て周囲を見渡すと、夜の暗さが嘘のように陽光が差し込み、潮風が幾分優しく感じられた。ルナはさっそく甲板の一角にプレースマットを敷き、魔導コンロと大鍋をセットする。ハクは「わふ」と気のない返事をしながらも、その動きを興味深そうに眺めていた。


 まず、大鍋にたっぷりと水を張り、そこに干したきのこと海藻、それに乾燥野菜を惜しげもなく投入する。しばらくそのまま置いて戻し汁を作り、ほどよくきのこや海藻が戻ったら、今度はオーツ麦をたっぷりと投入。火をつけて、鍋底からもれなく加熱されるように少しずつ撹拌する。


「沸騰する前にきのこと海藻を引き上げて、適当な大きさにカットして……よし、もう一度鍋に戻して……」


 魔導コンロの小さな火力ながら、大きな鍋にゆっくりと熱が回っていく。鍋の周囲にはすでに湯気が立ち上り始め、乾燥野菜やきのこの香りがどんどん広がる。ルナは仕上げにバターと塩を入れ、味を整えていく。


「もうちょっとパンチがあったほうが、大きな人たちには喜ばれるかも……。よし、ベーコンをカットして入れちゃおう」


「わふ(おにく)」


 途端にベーコンが焼ける匂いがしてきたのか、ハクがテントから顔を出し、「わふ」と短い声で駆け寄ってくる。それと同時に、食欲をそそる湯気と香りが甲板いっぱいに立ちこめ、船員たちがまたしても鼻をひくつかせながら集まり始める。


「お、今朝は何だ?」

「甘くもないし、しょっぱくもない香り……でもうまそうだな」


 手を止めてこちらを見る船員たちに、ルナは笑顔で声をかけた。


「今朝はオーツ麦粥です。ベーコン入りで栄養も満点。これでお仕事、がんばってくださいね!」


 そう言って大鍋の蓋をそっと開けると、白い湯気の向こうから、とろとろに煮えたオーツ麦と具材が顔をのぞかせる。バターのまろやかなコクと塩気、そしてベーコンの香ばしい脂が合わさり、朝でもしっかり満足できる味わいになりそうだ。


「ありがてえ、朝から粥が食えるなんて思わなかったぜ」

「こりゃ体が温まるな、今日は波もそこそこあるらしいし……」


 船員たちが器を手に、ルナのまわりにぞろぞろと並ぶ。ハクも「わふ!」と待ちきれない様子でしっぽを振っている。 大きなお玉でオーツ麦粥を盛り、具のベーコンやきのこ、海藻もバランスよくすくっては器へと注いでいく。船員たちはその湯気を鼻いっぱいに吸い込みながら、「助かるよ」「朝から元気出るな」と口々に言い合い、早速スプーンを手に取り、熱々のスープをすすり始めた。


 ルナ自身も一段落ついたころ、ようやく自分とハクの分をよそって味見する。オーツ麦の粘りとベーコンの旨味が合わさって、やさしいながらもしっかりとしたコクのあるおいしさに仕上がっている。潮風の中で食べるにはちょうどよい塩加減だ。ハクは「わふわふ」と喜びの声をあげながら、ベーコンの塊を満足げに噛んでいる。


 こうしてリベラ号の朝は、またもや思いがけない“船上食堂”のような賑わいを見せることになった。夜明けの海をゆっくり航行しながら、船員たちは温かな粥で身体を満たし、今日もまた大海原を突き進むための活力を蓄えていく。ルナは「よかったよかった」と胸をなでおろし、ハクは目を細めてほっとしたように口を動かし続ける。船は次第に魔導都市ミスティリアへ近づきつつあった。


 「そういえば船長は? 今朝いなかったけど……」


 大きな鍋で作ったオーツ麦粥の朝食を食べ終え、船員たちがそれぞれの持ち場へ戻っていく中、ルナは誰にともなく声をかけた。


 すると、ある船員が「船長は夜通し起きて航海してるんだよ。昼前に起きてくるのが普通さ」と答えてくれる。


「夜通し……大変ですね」

「船員はいくらでも替えがきくが、船長は船長にしか務まらんからな。危険な夜こそ必ず起きて指揮を取るのが船長の責務ってわけだ」

「だからこそ船長、なんですね。すごいなあ……」


 ルナは深く感心しながら、少し寂しげに空を見上げた。夜中に突然の汽笛が鳴り響いたときも、船長が指揮して船をうまくかわしていたのだろう。確かに船長ほどの経験と冷静さを持つ人物がいてこそ、この船が安全に航海できるというわけだ。


 やがて船員たちが散っていくのを見送ると、ルナは甲板の一角に設置していたテントをたたみ、マジックバッグへしまい込んだ。昨日に比べて多少暇を持て余しそうな空気に包まれている。朝食も終わり、船長はまだ寝ているだろうし、船員が作業しているのを眺めるだけでは退屈してしまうかもしれない。そこでふと、昨日話題になったシュラウド(マストを支えるロープ)を間近で見たいと思い立った。


「ハク、ちょっとロープを見に行こう」

「わふ(いこう)」


 マストに張られたシュラウドを近くで見ると、太い縄が幾重にもクロスして取り付けられている。ラットライン(段索)が取り付けられている部分は、いわば縄ばしごのようにも見えるが、実際に見て触れてみると、ルナの小さな手には余る太さと硬さがあり、簡単には掴めそうもない。もし登ろうとしたら、足も手もすぐに滑って危険かもしれない。


「ああ……やっぱりこれは無理だなあ。船員さんが『練習用』って言ってたけど、私にはまだまだハードル高いよ」

「わふ(たかいね)」


 ハクも鼻をひくひくさせながらシュラウドを見上げるだけで、どうにも登る気配はない。ルナは苦笑しながら縄をぱっと放し、「やっぱりやめておこう」と肩をすくめた。


「それじゃあ、甲板を少し散歩してみようか。もしかしたら面白いものが見られるかも」


「わふ(いいね)」


 ハクが短く鳴いて応える。二人は帆やロープ、外輪などが配置されている広い甲板をのんびりと巡り始めた。時折、船員に挨拶を交わしながら、朝日が差す海面を見下ろすときらきらと輝いており、リベラ号は淡々と大海原を進んでいる。

 船長は昼前には目を覚まし、その頃また新たな指示が飛ぶのだろう。ルナはそんなことを考えながら、ハクと共に一歩一歩を踏みしめた。無理せず、少しずつ船の空気に慣れていけばいい。そんな気持ちを抱きながら、二人はゆっくりと甲板を歩き回るのだった。


 リベラ号は魔導都市ミスティリアに向かい、順調に海を進んでいた。陸地からはずいぶんと遠ざかって、周囲はどこまでも広がる水平線。海上には遮るものなど見当たらず、つい「好きなように進めばいい」と思ってしまいそうだが、実際にはそれはルール違反にあたる。


 海には「航路」というものが海図に明確に記されており、そこを通るのが船乗りの義務だ。岩礁や浅瀬に乗り上げてしまわないようにすることはもちろん、船同士がすれ違うにもこの航路が決まっている方がはるかに容易になる。また、もし他の船が沈みかけたり、救助が必要になった時も、航路が一定していれば近くを通る船が必ずそこを通ることになるため、救出のチャンスが増えるのだ。


 仮に海図も持たず、定められた航路も守らない船は、海上では危険極まりない存在として扱われる。もし当局に見つかれば、永久的に海に出ることを禁止されても不思議はないだろう。

 リベラ号はそうしたルールを厳守しながら、海図に記された道筋を外れないよう慎重に航行を続けている。広い海を自由に見えるが、その背後には常に安全と秩序を守るための掟が働いているのである。


 昼の明るい時間帯だと、見張り台で早めに他船の存在を確認できるため、お互いに左舷へ寄せて航行するルールがスムーズに働き、船同士のすれ違いに不安はほとんどない。リベラ号ほどの大型船はそうそう見かけないせいで、すれ違う船による波の影響もほとんど受けず、甲板はおだやかに進んでいた。


「潮の流れに乗ると、こんなに楽なんだね」と、ルナは船縁に手をかけながら、水平線を見つめて思わず呟く。海流に合わせて進む航路は、まるで道標のようにリベラ号を導く。そこには多くの海洋生物たちも乗ってきているようで、時折、海面に姿を現す魚の群れが見られる。


 そんななか、ルナの視線の先に、ひときわ大きな背びれとノコギリのような突起を海面上に突き出して泳ぐ魚が姿を見せた。全長3メートルほどはありそうで、鼻先の長い突起にはギザギザのこぎり状の歯が並んでいる。


「わあ、大きな魚がついてきてるよ」

「わふ」


 ルナが声を上げると、近くでエールを飲んでいた船員が顔を向け、「あれはノコギリシャークだな。まあ、これ以上は近寄ってこねえから安心しな」と教えてくれた。リベラ号には、船から常時放出される強力なビリビリ――雷属性のような電撃があるため、魔物や危険生物が近づきにくい。そのおかげで怪我や事故が起きずに航海できるのだと、先日も聞かされていた。


「ビリビリっていうか、実際は雷が落ちるくらいなんですよね……もし人が落ちたら大変だし、海で暮らす船乗りさんって厳しい世界だな」


「はは、そうだな。『人が落ちる』なんてそもそも自業自得で、そういうやつは船乗りの資格なんかないってこった。けどそのぶん稼ぎはいいし、なかなかやめられねえんだよな」


 船員は「がはは」と豪快に笑い、またエールをぐいとあおっている。昼間から酒を楽しむのが船のならわしとはいえ、いざとなればいつでも対応できるよう、見回せば他の船員たちも気を抜いている風には見えない。風と波、そして潮の流れを読みながら、みんなそれぞれの場所で仕事の手を休めてはいない。


「わふ(おおきいさかな)」


 ハクは甲板の縁に前足をかけてノコギリシャークを熱心に眺めているが、魚はリベラ号の加速に興味を示すだけで、船からは一定の距離を保って離れていった。潮の流れが変わればまた別の魚がやってくるのだろう。ルナは「すごい……」とつぶやきながら、遥か先にかすむ水平線を見つめた。魔導都市ミスティリアへの航路はまだ続いているが、こうして毎日が新鮮な驚きに満ちているのも、船旅ならではの楽しみだと感じはじめていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?