風が吹いていた。
ぼくはカンテラの火を消さないように用心しながら、天窓を閉めると、2階の窓から外へ出た。
階段があちこちに向かってのびている。
お隣さんは、もうベッドに入って寝息を立てている。
カンカンカンカン。
リズムをとりながら、階段を上がり下がり。
建物が密集しているから、地上の道を行くとかえって遠回りになる。
夜の静けさの中進んでいく。
みどりの髪はふわふわで風になびく。自分では見れないけれど、ぼくのひとみは瑠璃色だそうだ。
夜明けを見に行こう。
明日を迎えに行こう。
ぼくの知らない新しいことが待っているはず。
遠くの国では、一日中雨が降り、リウマチの王子はひざに蜂の針を刺して治したと伝え聞く。
ああ、だけどぼくは、この国から出ていけない。
しっくり馴染んだ世界に溶け込んで、新しいニュースが入ってくるたび一喜一憂し、新しい小説を書く。
本を書いて、誰かが書いた本を読む。
優しい本を書きたい。
ぼくを取り巻く世界が優しいみたいに。