第5話☆フィリフヨンカの猫
はあ、はあ、はあ。
ぼくが諦めないのを見て取ると、旅人は逃げるのをやめた。
「まいったなあ、そんなに大事なものだったかい?」
「当たり前です」
フィリフヨンカの猫と呼んでいるその猫の置物はぼくの大事な宝物の一つだった。
「フィリフヨンカは大きな家にひとりぼっちで住んでいたんだけど、ある時ハリケーンがきて、着の身着のまま、猫の置物だけを抱きしめて避難するんです。家は嵐でめちゃくちゃになっちゃうけれど、フィリフヨンカは猫の置物を守り抜いた誇りでへこたれないんです」
「まいったなあ」
息をきらして、旅人がへたりこみ、懐からぼくの猫の置物を取り出して返してくれた。
「よく、なくなったってわかったね」
「ぼくの部屋にあるものはみんなお話がついてる大事なものなんです」
「すごいなあ。どこであっただれもが些細なものを盗っても全然気づかないのに」
「泥棒ですか」
「そう。昔っから手癖が悪くて、一か所にいられないんだ。旅人っていうのは名目で、ただの逃亡者だよ」
しょんぼりちぢこまる彼を見て、ぼくはとても残念だった。
「警察へ突き出してもいいよ」
「いいえ。もう、行ってください」
彼はちょっと泣き出しそうな表情になった。
「みんな俺のこと嫌いなんだ」
「みんなの嫌がることするならそうでしょう?」
「だって、だって……」
「自分で変わろうと思わないならそのままです。どうか、よりよく生きてください」
ぼくはきびすを返すと、もう振り返らずに部屋に戻った。