第4話☆不意打ち
「そこには、ピンクの砂岩がどこまでも続いていて、雨に削られてはその様相が様変わりする。ピンクの濃淡で様々な模様が生み出され、奇妙な世界が広がっている」
「すごいなぁ」
旅人はぼくの知らない世界の話をとつとつとしゃべった。
「そこにいる生物はちっちゃなトカゲくらいかな」
「そんな場所にも生物がいるんですか?」
「そうだよ」
そのトカゲはどんな気持ちでピンクの砂岩地帯にいるんだろう?
ぼくは思いをめぐらせる。きっと幸せなんだろう。毎日様変わりする世界で、毎日新しい気持ちですごしていることだろう。
「さて、俺はこのくらいで先を急がなくちゃ」
「ひきとめてすみません」
「いいよ。お水をもらったお礼だから」
夜のとばりが下りようとしていた。
「こんな時間に行くのですか?泊って行ったら?」
「夜に歩いて距離を稼ぐつもりだ」
なぜ旅人はそんなに急いでいるんだろう?
ぼんやりと疑問に浮かんだけれど、とにかく、見送りに行く。
「じゃあ」
「またこの辺に来たら寄ってください」
「ああ。またね」
見送って、部屋に戻る。
旅人が座っていた椅子に座ってみて、彼がぼくの部屋のどこを見ていたか想像することにする。
「あっ!ない」
手近な棚に置いてあった小さな猫の置物が忽然と消えていた。
まさかあの人が盗った?
信じられなくてしばらく呆然とする。
ぱっと立ち上がり、外へ飛び出す。
中空の階段のはるか向こうを旅人が歩いていくのがまだ見えた。
「おーい、ちょっと待って!」
かんかんかんかん、走って階段を上り下り。
途中で旅人がぼくが追いかけるのに気づいて、逃げる速度を速めた。
「待って、待って!猫を返して」
しばらく追いかけっこが続いた。