こんこん。天窓を叩く音がした。
前にも誰かそんな風に叩いてる音がして、開けてみたらカラスだったこともあったけど、今日は違った。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは」
「旅の者です。よかったら水を飲ませてもらえませんか?」
「どうぞ。今持ってきますから、中に入ってちょっと待っててもらえますか?」
「ああ、ありがとう」
水差しに井戸水を入れて、ガラスのコップを二つ用意する。
「やあ。勝手に椅子を借りているよ」
「どうぞどうぞ」
テーブルをひっぱってくると、水差しからコップに水をそそぐ。
「ここの街は一風変わっているねえ。通路はどこも途中で行き止まりになって、どうしても中空の階段を使わなきゃ移動できない」
「ふふ。でもぼくはそれを気に入ってここで暮らしてるんです」
「そうか。でもそういう人もいていいよね」
「旅をする人もいていいですよね。いろんなものを見聞きするんでしょう?」
「一か所に落ち着けない性分なんだ」
「ぼくはこの街の外に出たことがありません。怖いから」
「旅をするのに勇気はそこまでいらないけれど、好奇心は必要かな」
「うーん」
「お水をいただくよ」
ごくごく。
足りなさそうだったので、追加の水をそそぐ。
ごくごく。
「ああ、生き返るねえ」
「よかった」
今夜の予定を聞くと、なにも決めてないそうで、引き留めて旅の話を聞くことにした。