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第3話

こんこん。天窓を叩く音がした。

前にも誰かそんな風に叩いてる音がして、開けてみたらカラスだったこともあったけど、今日は違った。

「やあ、こんにちは」

「こんにちは」

「旅の者です。よかったら水を飲ませてもらえませんか?」

「どうぞ。今持ってきますから、中に入ってちょっと待っててもらえますか?」

「ああ、ありがとう」

水差しに井戸水を入れて、ガラスのコップを二つ用意する。

「やあ。勝手に椅子を借りているよ」

「どうぞどうぞ」

テーブルをひっぱってくると、水差しからコップに水をそそぐ。

「ここの街は一風変わっているねえ。通路はどこも途中で行き止まりになって、どうしても中空の階段を使わなきゃ移動できない」

「ふふ。でもぼくはそれを気に入ってここで暮らしてるんです」

「そうか。でもそういう人もいていいよね」

「旅をする人もいていいですよね。いろんなものを見聞きするんでしょう?」

「一か所に落ち着けない性分なんだ」

「ぼくはこの街の外に出たことがありません。怖いから」

「旅をするのに勇気はそこまでいらないけれど、好奇心は必要かな」

「うーん」

「お水をいただくよ」

ごくごく。

足りなさそうだったので、追加の水をそそぐ。

ごくごく。

「ああ、生き返るねえ」

「よかった」

今夜の予定を聞くと、なにも決めてないそうで、引き留めて旅の話を聞くことにした。

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